2-5

≪島田裕志視点≫


紅梨さんが思い付いたように部屋を出ていくと、

俺と陽菜は紅梨さんについて行ってみることにした。

断じてストーカーではありません。


「紅梨さん、ご一緒してもいい?」


俺は紅梨さんに訊く。


「もちろんいいですよ」


しつこいかもしれないけど許可を貰えばストーカーじゃないの。

陽菜は喜ぶと俺をチラッとみる。

エレベーターに乗り、紅梨さんの後を追う。


「紅梨さんはいつから探偵やってるの?」


陽菜が紅梨さんに訊く。


「小4くらいだった気がします」


紅梨さんは少し考えた後に言う。

考える姿が安城さんと少し似ていた。

ま、多分気の所為だけど。


「今日はどこへ行くんですか?」


俺は少し気になって訊いた。


「今日は昨日行けなかった場所に行き、その後周辺の監視カメラ巡りです」

「分かりました」


紅梨さんはタクシーを捕まえると、紅梨さんは助手席、俺と陽菜は後部座席に乗る。


「紅梨さん、信田さんについて何か分かってんですか?」

「殺人、ということだけが分かってます」

「殺人か」


俺は紅梨さんに訊いてみる。

沈黙が一番怖いからね。

しばらく話していると、タクシーの運転手のおじさんが話しかけてくる。


「お客さん、もしかして信田さんについて調べてるの?」

「えぇ」

「それならこの前、私のタクシーに乗っていったよ。忘れ物をして行ったけど見るかね」

「忘れ物、とは?」

「これだよ。ちょっとまってな。」


運転手さんは手帳を紅梨さんに渡す。


「信田さん、どこに行きましたか?」

「お客さんと同じだよ。確か最後は4月30日だ」


先程から考えていることがある。

もしかして紅梨さんって―――――――安城さん?

もしそうだとしたら正直の所演技が凄いと思う。



紅梨さんに連れられて、ある建物に来る。

紅梨さんが名刺を見せて、会議室のようなところに行く。


「わざわざお時間、ありがとうございます」

「いえ、構いませんよ。私は柳田優華です」

「信田さんについて調べに来ました」

「朝のニュースで見ました。信田さん、すごくいい人でした」

「どのように?」

「考え方が他の人とは違うようです」

「最後にここに来たのはいつですか?」

「4月30日です。この後、どこかの老人ホームに行くとか言ってました。

 出ていたのは正午くらいです」

「それって筑紫川老人ホームですか?」

「それですそれです」

「そうですか。ありがとうございました」


慣れてるね。

ベテランと言ったところだろうか。

話し上手は聞き上手。

そういう表現はここで使うのか。

タクシーに戻り、筑紫川老人ホームへと向かう。

タクシーのおじさんと紅梨さんが話している時に俺は少し考える。

少し試してみよう。


「・・・・・・安城さん、見当は付いた?」

「えぇ。確信ではないけれど」


やっぱり。

これで反応するということはそういうことだろう。


「あぁ、すいません。紅梨さんでしたね」

「構いませんよ」


一様謝っておく。

紅梨さんはスマホを出すと操作する。

しばらくすると、2台の車が到着する。

1台は水無瀬達の車、もう1台は相川さんの車だ。

知らない人が2人と、先程の人が乗っていた。


「皆さん、おそろいですね」


紅梨さんが手帳を開く。


「山田さん、あなたに訊きたいことがあるんです」

「なんでしょう」

「信田さんが最後にこの老人ホームに来たのはいつですか?」

「5月1日のはずです」

「やはり、あなたでしたか山田さん」

「え、僕ですか?」

「あなたは信田さんが工事に反対しているのを気に入らなかったんですよね」

「それはそうですけど、私は殺してなんかいないですよ」

「そうですね。ですけど脅していたんですよね?」

「・・・・・・そうです。でもこれはあくまでこのプロジェクトを成功させるためのです」

「たしかにそうかも知れないですねでもそれで信田さんが自殺した、としたら?」

「第一私は信田がいないと仕事が成り立たないんです」

「そうですかでしたら、なおさら脅してはいけないのではなかったのでしょうか」

「この後は署の方で話を聴かせていただこう」

「はい」


俺、探偵の才能あるんじゃね!?

目論見通りの結果だぜぇ。


「そうとするならば、もうひとり嘘をついている人がいます」

「え・・・・・・」

「タクシーの運転手の臨界さんによりますと、

 4月30日にここの老人ホームに行ったと言っていました。

 確かに柳田さん、河合さんの証言で成り立っています。

 確か・・・・・・もうひとり5月1日と証言した人がいましたね。

 そうです、糶崎由香さん。あなたですよね。信田さんを殺したのは」


え。

殺したのはこの人なの?


「あなたはどこかで4年前、この辺り一帯に高速道路が通ることを知った。

 だからここに老人ホームを立てれば立ち退き料をもらってボロ儲けすることができる。

 お年寄りを巻き込めば世間は確かにあなたの味方になりますからね」

「そう。でもそれはあくまであなたの机上の空論。

 この辺り一帯に転落するほどの高さがある建物は1つもない。

 そして私は事件当日、この施設に居た」

「そういえば・・・・・・最初、私が来たときに転落死、とおっしゃてましたね」

「え、えぇ。それが何か?」

「あのとき、事件に関しての報道は一切されていなかった。

 知っているのは信田さんを殺した犯人と警察関係者ですよね」

「ぐ、偶然よ。私は知り合いに教えてもらったの。そこに通りかかった」

「裏付ける証拠があります」


紅梨さんは相川さんに指示すると、ある木の前に立つ。


「これは確か2ヶ月ほど前に貰った木ですよね」

「はい」

「施設の人が毎日水をあげています。それにも関わらず

 育たないのは根を張っていないからでしょう」

「それがなんだというんですか?」

「相川さん、ここを掘って下さい」

「わかった」

「ちょ、何すんのよ」


糶崎由香さんが止める寸前に金属が石に当たった音がする。

青ざめた糶崎由香さんは後退する。


「ここに井戸があれば話が別。ここに木があれば誰も掘り返せませんからね。

 なかなかあなたも考えましたね。ここで信田さんを突き落として運んだのでしょう。

 ここからわずかでも信田さんのDNAが検出されれば証拠となります」


紅梨さんが証拠を突きつけると、糶崎由香さんはその場に座り込む。


「全部、全部アイツが悪いんだ。何が高速道路建設中止だ」

「立ち退き料目当てだったんですね」

「あぁ。でもアイツのせいで計画が水の泡になるところだったんだ。だから殺ったんだ」

「いくら理由があったとしても人の命を奪っていい理由にはなりませんよ!」


紅梨さんは最後を強く言うと、相川さんに連れて行くように言う。

さて、俺は紅梨さんの後を付けるとするか。

水無瀬に事情を話し、俺は後を付けた。




≪To The Next Story...≫

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