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安城さんが座ると同時に長身の男性が入ってくる。


「あ、みんな集まったんだ」

「そうだよ。これはわたくしの兄、幸雄ゆきおです。

 がさつですがよろしくおねがいしますだそうです」

「僕まだ何も言ってないけど」


幸雄さんが苦笑いする。

確かにね。

水無瀬のセリフは本当は幸雄さんが言うセリフだろうな・・・・・・。

とりあえず、今回旅行する人は計6人。

俺と陽菜、水無瀬と幸雄さん、安城さんと靜枝さん。

多分あってるよね・・・・・・?

安城さんが一息つく。

俺は出された紅茶を一口飲む。


「皆さん揃ったので、打ち合わせをしたいと思います」

「場所はどのへんなの?」

「特に決めてませんが、遠くへ行くようなら姉が運転します」

「早速奴隷宣言してるじゃん」

「仕方ないですよ、それが皆さんの希望なので」


安城さん、家では強気だな。

姉を奴隷宣言するなんて・・・・・・。

本性現れてるよ。

俺はあえて触れないけどさ。


「陽菜は有明海観光をしたいな」

「お、僕もそう思ったとこ」

「神薙大丘で石川さんと合う約束をしてあります」


安城さん、話が速くて助かる。


「良かった。僕は一回合ってみたかったんだよね」

「わたくしのためですか?」

「そうですね。ただ私は石川さんにその間に

 仕事を頼まれてしまったので同席はできないんですよね」

「それは残念」


安城さんは同席できないようだが、石川さんに会えるようだ。

どんな人なのか気になるところだが、楽しみにしておく。


「何日に会う予定なの?」

「日時はいつでも良いそうです」

「では、2日目に会いません?」

「香織、なんで2日目?」

「1日目は疲れてるだろうし、最終日は逆のことが言える。

 だったら早いほうがいいかなって」

「なるほど。じゃぁ2日目でいいか」

「そこで行くとして、他の日はどうするんだ?」

「有明海観光は3日目でいいか」

「4日目はホテルでゆっくりするか・・・・・・?」


俺と幸雄さんはすぐに意気投合する。

そして俺と幸雄さんで決めていくが、4日目がどうも思いつかない。


「それで行きますか」

「マジで!?」

「いいですよね」

「陽菜はそれでいいよ」

「わたくしも問題ないです」

「僕もいいけど」

「俺も」

「私もいいよ」


雑すぎる計画が立った。

おい、本当にこれでいいのか!?

最初に水無瀬が言ってた『がさつですが』ってそういうこと!?

意外とみんな雑な方が自由度高いから好きなのか・・・・・・?

昔のアイツみたいだな。

サードライン。

思い出してしまったよ。

思い出したくない思い出をよぉ。

またどっかで会えるよな。


「決まったことだし、今日は遊ぼうぜ」


幸雄さんがトランプを出す。

前回安城さんとやって負けた記憶しかないんだが・・・・・・。


「いいですね」

「私もやる」

「陽菜も〜」

「嫌な予感しかしない」


というわけで全員でトランプをやる。

全員でババ抜きからスタートする。


「じゃぁ引くぜ」


俺が陽菜の手札を引く。

予想可能回避不可避。

俺は最初から何も捨てられない。

もう諦めているんだけど。

最終盤面になり、安城さん、水無瀬、陽菜、靜枝さんの順で上がって行った。

俺と幸雄さんの一騎打ちだ。

俺の残された手札はJOKERとスペードの6。


「引くぜ」


幸雄さんがJOKERを持っていく。


「おわぁ!?」


幸雄さんがシャッフルした。

安城さんが澄ましたような顔でこっちを見る。

俺は助けを求めるように水無瀬を見る。

水無瀬はチラッと右にいる安城さんを見る。

右・・・・・・右か!!!


「こっちだ!!!」

「な、なんだとぉぉぉぉぉ!!!???」


俺が取ったのはハートの6。

上がり。

初めてと言っても過言ではないだろう。

ビリではない!


「約束通り一発芸だね」

「お姉ちゃん、楽しみにしすぎです」

「お兄ちゃん、頑張れ〜」

「陽菜、すごい楽しみ」

「頑張れ〜幸雄さん〜」


幸雄さんが考えながらみんなの前に立つ。


「に、ニワトリのマネ。コケコッコー」


手をくちばし代わりにしている。

先程より気温が5℃位下がったのだろうか。

急に寒くなった。


「ックシュン」


靜枝さんが小さくくしゃみをする。


「お疲れ様です」


安城さんが最初に手を合わせる。


「え、えぇぇ・・・・・・」


幸雄さんがガックリとうなだれる。

その姿を哀れに見る水無瀬が、ため息をつく。


「別のことをやろうか」

「何を?」

「そうだな・・・・・・」


その時、安城さんが想像もしない言葉を発した。


「・・・・・・ポーカーやりません?」

「お、いいなポーカー。高校でよくやる」


幸雄さんはノリノリだ。

俺はポーカーのルール1つ知らない。

この瞬間気づいた。

もしかしてルール知らないの俺だけ?

陽菜も知っているようだ。

何で陽菜は知ってるんだよ。

幸雄さんに解説してもらい、始める。

一戦目は安城さんと水無瀬が残る。


「わたくしはフラッシュで」

「勝ちました。ストレートフラッシュです」


すごい確率引き当ててんな。

そんな調子で最終盤面。

全員残っていて俺はかなり自信がある。

フルハウスが揃っている。

いや、俺天才。

運ゲーだけど。


「それでは行きます。私はフルハウス」

「わたくしはフラッシュ」

「僕はツーカード」

「私はスリーカードだよ」

「俺はフルハウス」

「陽菜は・・・・・・ロイヤルストレートフラッシュ」


え・・・・・・。

ロイヤルストレートフラッシュってあのロイヤルストレートフラッシュ?


「え・・・・・・本当?」

「ほら」

「本当だ」


陽菜はなんとロイヤルストレートフラッシュが本当に揃っていた。

俺は思わず息を飲む。

誰もが眼を見張っただろう。

その後は大富豪をやった。

なんか、幸雄さんってすごい馴染みやすい人なんだね・・・・・・。

実に話しやすい人だ。



食事の時間が近づいてくると、安城さんは食事を作りに行った。

安城さんを待っている間にみんなで明日の準備を進める。

陽菜が色々と余分に持ってきていたものが役に立つ。

普段なら称賛しませんが・・・・・・。

安城さんが食事を持って来る。

おいおい、凄い豪華じゃねぇかよ。

夕食は和食料理を本格的に作ったものだった。

安城さん、相当苦労しただろうな。


「お、手作りか?」


幸雄さんがしれっと訊く。


「えぇ」


安城さんは当然という顔を浮かべる。


「わたくし、和食が好物なんですよね」

「そうだな。香織は好きだったよな」

「陽菜も好きだよ〜」


陽菜って好きだったんだ。

みんなで食事を始めると、見た目だけではなく、もちろん味も完璧だ。

幸せな気分で食事を終えると、風呂論争となる。


「女子が先だよ」

「この幸雄様が先だろ」

「俺は後で良いんで」


俺は修羅場から抜ける。

そんなわけで決まる順番。

靜枝さん、安城さんと陽菜と水無瀬、幸雄さん、俺となった。

風呂を出ると、みんなで雑談をした。

21時を回ると明日に備えて寝ることに。

こういう日に限って寝れないやつ。

気持ちとは裏腹に、案外すぐ寝れた。




≪To The Next Story...≫

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