1-4

男が車から出てくると、俺は渾身の一撃を食らわせる。

すると男は哀れにも倒れた。

一応、護身術は極めているので。

ひったくられた荷物をもって女性に届けた。

想像するまでもなく、お礼を何度も何度も言われた。

俺らは図書館に移動し、読書を再開した。

アイツのせいで現在時刻は15時45分前。

結構な時間ロスをした。


「とりあえず捕まってよかったですね」

「そうだね。安城さんって意外と足が速いんだね」

「島田くんこそ足が速くて体力がありますね」

「俺は毎日朝にランニングしているからね」

「私もしていますよ。そんな距離は走ってませんが」


とは言いつつも実質3kmくらいは走ってんだろうな。

だって結構速いし結構な距離あったからな。

正直疲れたよ。

心のなかで小さくため息をつく。


「どうしたのですか?心のなかでため息を付いているような感じがするんですけど」


これが図星というものなのだろうか。

凄いな安城さん。


「よ・・・・・・よく分かったね。久々に疲れた。朝から学校で・・・・・・」

「それは私もですよ」


そうですよね、と思いながら本を読み進める。

安城さんが俺のことをチラッと見た気がした。



食事を済ませ、駅に向かう。


「島田くん、今日はしっかり休んでくださいね」

「分かってるよ。勉強して寝る・・・・・・」

「勉強なんてしなくていいですから今日は体を休めてください」

「うーん・・・・・・分かった」


安城さんのその言葉が何よりの癒やしだよ。

俺を気遣ってくれるその心が・・・・・・。

時計の針が19時を指そうとしていた

電車に乗り、梅川中央駅についたのは20時を回ってから。

安城さんはこれから更に40分くらいかかるんだろうなと思う。

実質安城さんのほうが疲れているのではないか?

安城さんと別れて家に向かう。

安城さんの助言通り今日は早く寝た。



朝起きると、ランニングをして朝飯を食べる。

今日こそは安城さんの罠にかかるわけにはいかない。

駅に着くと安城さんに警戒しつつ電車を待つ。


「おはようございます」

「おはよう・・・・・・今日はかからないからな」

「なんのことでしょうね」


知ってるような口ぶりで言う。

この前みたいに俺は心臓を傷めないからな!!

学校に着くと席で勉強を始めた。

チャイムが鳴り始めると先生が走って入ってくる。


「今日は部活見学をしてもらいます。

 それぞれの部活の場所は職員室前に貼ってあります。

 終わったら教室に戻ってきてください。では、いってらっしゃ~い」


先生は軽々と言うと、教室の外に出ていく。

他の人もぞろぞろと出ていく。

俺は部活に入る予定は無いので寝ることにした。

最近寝不足だしね。

じゃぁおやすみ・・・・・・。



「・・・・・・くん。起きてください島田くん」


うん!?そんな寝てた!?

時計を見ると10時ちょうど。

実質1時間半寝てたことになる。


「ありがとう・・・・・・起こしてくれて」

「いえ、少々寝すぎだと思ったもので。私も最初からここに居ましたし」


あ、そういえば部活には入らないって言ってたな。

それにしても・・・・・・何故起こしてくれたのだろうか。


「安城さんはなんで部活に入らないの?」

「やりたいこともあるし、部活って疲れそうだからですね」

「分かる気がする。上下関係を気にする必要性があるからね」

「それが一番ですね。それより島田くん、今日は梅川台総合図書館でいいですか?

 ちょっと用事ができたもので」

「いいよ。用事って何?」

「私がいつも通っているんですけど、そこの司書さんと顔見知りなんです。

 それで本が入荷したと言っていたので手伝うと言ったんです」

「それが今日と。安城さんは普通にそういう所気が利くからな」

「て・・・・・・照れるのであまり褒めないでください・・・・・・」


安城さんは顔を腕で隠しながら言う。


「それじゃぁ、新狩場の外環の最後尾のところで待ってる」

「わかり・・・・・・」


安城さんが言いかけたときだった。

教室の扉が開いた。


「ん・・・・・・あぁ・・・・・・」


何かを察したように水無瀬さんは何もなかったように立ち去っていった。

巻き戻しのように去っていった水無瀬さんを俺が廊下で捕まえる。


「わたくしは何も見ていないので、大丈夫です」

「あのさ、黙っててとは言わないけど拡散しないでね」

「・・・・・・今日の放課後梅川台総合図書館で待ってる」

「ちょっ、安城さん!?」

「いいですよ、わたくし暇ですから」


あぁ、どうしてこうなった。

水無瀬さんは自分の席に座ると、本を読み始めた。


「ねぇ、それって摺川瑠南さんの・・・・・・」

「え?そうだよ。わたくし、こう見えて読書好きなの」

「へぇ」


俺は教材を出して勉強する。


「・・・・・・島田くん、英語ですか?」

「ん?あぁ。一番苦手だからね」

「教えましょうか?」

「安城さん、英語できるの?」

「留学を一度してますからね」

「そうなんだ」

「わたくしにも教えてくださる?」

「いいですよ」

「梅川台総合図書館で教えますね」

「了解」


しばらくすると、教室に続々と人が戻ってくる。

先生が戻ってくるまでみんな喋りながら待つ。

俺は半分寝ながら勉強している。

先生が教室に入ってくると、みんなは気付いて静かになる。


「みなさん、部活見学はどうでしたか?入部届用紙はここに置いとくので

 帰り際に取っていってください」


俺は挨拶を済ませるとさっさと教室を後にする。

先ずは新狩場駅に向かう。

新狩場外環状線の最後尾に向かい、都会の景色を眺める。


「おまたせしました」

「おう、速かったね。急いだ?」


俺が問いかけるともちろんいいえ、と言うが息が上がってることからある程度は推測できる。

絶対に急いでいるでしょ、この子。


「あの――・・・・・・道わかんないから、わたくしも連れって行ってくれる?」

「いいですよ」


水無瀬はひょっこり現れると安城さんに頼む。

安城さんは断ること無く、俺と水無瀬を梅川台総合図書館に案内する。

図書館に入ると、幻想的な風景が広がる。

螺旋階段が中央にあり、それを囲うように階があり、各階には円状の本棚がある。

最上階の7階にカウンターがある。


紗英さえさん、手伝いに来ましたよ」

「悪いね、毎回毎回。閑華ちゃんも大変でしょ?」

「いえ、仕事を成し遂げたときの達成感がいいんですよ」


安城さん、誰もが否定できないことを言ってしまったね。

これには司書の三島さんもびっくりでしょ。

そして始まる本の仕分けと並べ作業。

俺と水無瀬も協力してある程度時間はかかったもののスムーズに終わった。


「あら、今回も手伝ってもらったからスムーズに終わったねぇ。ありがとうね」


三島みしまさんはお礼を言う。

俺らは机に移動し、勉強を始める。

安城さん主催の英語教室が始まる。


「基本的に英語は日本語と違って主語と動詞は省略しません。

 その代わり指示語が多いイメージですね」


俺は予め勉強をしておいたから分かるが、水無瀬さんは一から勉強している。

明日から授業だ。

1限目から英語なので、ある意味先取り学習とはこういうことだろう。

安城さんは教えるのがとても上手い。

小学校の頃の経験から行くと、先生よりも上手と言っても過言ではない。


「それでは、今日はこのへんで終わりにします」

「ありがとー」


水無瀬さんはお礼を言う。


「それで水無瀬さん・・・・・・でいいよね?」

「水無瀬でいいよ」

「それじゃぁ改めて水無瀬、今日のことだけど、黙っといてくれる?」

「いいよ」


意外とあっさりと認めると、条件を提示してきた。


「その代わりどうせ部活入らなそうだから、同好会に入ってよ」

「え・・・・・・なんの同好会?」

推理同好会すいりどうこうかい。入る?」

「どうしようかな」

「毎日放課後、希望で行ってもいいし行かなくてもいいらしいよ」

「島田くんはどうするんですか?」

「分かった。入部する」

「それでは私も入ります」


俺と安城さんは入部届にサインをすると水無瀬は預かる。

その後、安城さんと水無瀬とともに、食事に行き、図書館に戻る。


「水無瀬って運動得意なの?」

「あんまり得意ではない・・・・・・」

「島田くんは得意と言ってましたね」

「安城さんも得意って言ってたな」

「意外だね。わたくしはガリ勉かと思いました」


わからなくは無いね。

安城さん、正義感と運動神経と反射神経と・・・・・・って完璧じゃんか。

水無瀬は息をついて席を立つと、スマホを出して時間を見る。


「それでは、わたくしそろそろ帰らなければいけないのでこのへんで失礼します」

「じゃぁね」

「また明日会いましょうね」

「はい。では」


そう言い残すと水無瀬は図書館を出ていった。

ある程度時間が立つと、俺は安城さんを残して家に帰る。

家に帰ると、陽菜がニュースを見ていた。


「お兄ちゃん、このへんで殺人事件だってさ」

「物騒だな」

「それで、逃走中だからしばらくは学校も休みだってさ」

「あ―――・・・・・・そうなんだ」


残念。

学校で勉強したいな・・・・・・。

っていうの多分俺だけだろうな。

俺はやることを済ませてリビングに向かう。

ネットでもテレビでもその話題しかなかった。


≪現在、殺人犯は逃走中です。捜査関係者によりますと、

 数日の間は外出を控えるようにとのことです≫


スマホを見ると、やはりその話題しかなかった。

しかし、俺を驚かせる事態が発生した。




≪To The Next Story...≫

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る