1-3
家を出て梅川中央駅の改札を通るとホームに向かう。
「おはようございます」
「うおぉぉぉぉ!?お、おはよう・・・・・・びっくりした・・・・・・朝から心臓に悪いな」
突然真後ろから声がしたかと思うと、安城さんだった。
安城さんはしてやったり顔を浮かべる。
ていうか、俺が家を出たのって6時ちょうど位のはず・・・・・・。
「安城さんっていつも家を何時に出てるの?」
「5時過ぎですね」
「そんな早く出て眠くないの?」
「いえ、眠くはないです」
「へぇ、たしかにあの位置なら2時間半はかかりそう」
「実際にここまで40分かかりますからね」
昨日は気づかなかったが、新梅川市街って遠いじゃねぇか。
それにわざわざ俺を待ち伏せしたのか偶然なのかは知らないけれど、
ともかく朝から心臓に本当に悪い。
「安城さんはわざわざここに?」
「島田くんと登校したいから待ち伏・・・・・・たまたま見つけたので話しかけました」
はい、掌の上の回転を確認しました。
というか、これは完全に口が滑っただけなんだよな。
もしかしてこの子、隠し事が苦手?
「え・・・・・・偶然?」
「偶然と本人が言ってんだから偶然に決まってるでしょう?」
「そ・・・・・・そうだね」
安城さんの圧力に押されて俺は反論するどころか、指摘すらできなかった・・・・・・。
なんか自分の無力さに泣きそうだよ・・・・・・。
毎度毎度、妹には質問攻めに会うし安城さんには圧力に負けるし。
滑り込んできた電車に乗ると、案の定座る場所はなく立つはめになる。
学校の生徒がちらほらと見え始めると、また放課後図書館で、となった。
◆
学校に着くと先生が笑顔で迎えてくれた。
「おはよー」
「おはようございます」
よしっ。
これで完璧・・・・・・いや、挨拶ができて喜んでいる幼稚園生かよ。
俺は席につくと、ホームルームが始まるのを待つ。
8時半になるとチャイムが鳴る。
「それじゃぁホームルームを始めます。今日は学校見学をしてもらいます」
説明を終えると、廊下に並ぶ。
見学が始まると、まず施設を案内してくれる。
驚いたのは食堂が学校面積の割に大きいこととか食堂が学校面積の割に大きいこと、
他にも食堂が学校面積の割に大きいことかな・・・・・・。
本当にそれしか思いつかなくてごめんなさい。
教室に戻ると、委員会・係決めが始まった。
どちらか1つに入ればいいので、俺は2人枠の戸締まり係に立候補することを決めた。
それに立候補したのは俺と安城さん。
活動内容は実に簡単。
帰りに全員出るのを待って戸締まりして帰る、それだけだ。
「基本的に今日やることはこれで終わりです、皆さん、気をつけて下校してください」
クラスメイトは一斉に下校し始めた。
そんな中、安城さんは1人で椅子に座ったままだ。
確か前もそうだったなと思い教室を後にする。
俺は新狩場に行き、狩場中央図書館に向かう。
安城さんを待とうと思い、本棚の方へ向かい、本を選んでいるときだった。
「おまたせしました」
「え・・・・・・いや、全然待ってないよ」
安城さんのあまりの速さに驚いた。
だって電車はいくら首都とはいえ、5分に1本くらい。
それで俺と同じ速さということは絶対に急いでいる。
もしくは俺が知らない裏道があるのかも・・・・・・。
俺らは近くの席に並んで座る。
平日とはいえ、お年寄りを中心にそれなりに人がいる。
「島田くんはいい人ですね」
「え・・・・・・な、なんで」
唐突な発言に一瞬戸惑う。
「分かるんです。人の目と行動で」
「へぇ・・・・・・こんな短時間しか一緒に居ないけど分かるんだ」
「はい。私を襲ったり悪戯したりする機会はたくさんあったはずです」
本を読みながらまるで何かの台本を読むようにスラスラと言う。
そんなことを言われるのが初めてなのだ。
おそらく安城さんには本で見えてないだろうが顔は赤いだろう。
―――っ!
こうなったら、必殺!
「安城さんこそいい人だね。
使命感は絶対に果たそうとするし、この前見たよ。おそらく安城さんでしょ?
入学式の次の日の朝、狩場市街駅で老人を助けてたでしょ」
「な!?どうしてそれを・・・・・・!?」
驚きを隠せない安城さんは小さく叫ぶ。
他人を自分と同じ状態にすることで人のことを言わせないようにする。
お互いに照れたのか恥ずかしいのかしばらく全く声を発さない。
最初に声を出したのは30分後の13時ちょうどになろうとしていた。
「島田くん、そろそろ食事に行きません?」
「お、おう、行くか」
近くの回転寿司に入る。
早速カウンター席で食事を始める。
安城さんはハマチ、俺はコハダを最初に食べる。
「島田くんって妹さんが居るって言ってましたけど仲はいいんですか?」
「まぁ仲はいいほうだよ。よく一緒に出かけるし」
「やっぱり・・・・・・。入学式の次の日って狩場中央図書館に居ましたよね?」
「居たけどなんで?」
「私も居たからです。」
「へぇ、偶然だね」
俺は陽菜と居たので安城さんが居たかどうかはわからないが、確かにそこに居た。
「ちょっと気になったんだけどさ、安城さんって何読んでるの?」
「そうですね、摺川瑠南さんの
確かにそういうの性格からして好きそう。
そう思ったのは俺だけだろうか。
ここで店の扉が開く。
扉から最も遠い位置だから客は見えない。
数人で来てテーブル席に座っていった。
安城さんと俺はそれぞれ食べ終えた。
俺は伝票を持って会計に向かう。
「毎回毎回悪いですよ、島田くんに払ってもらうなんて」
「気にしないでよ」
俺と安城さんは店を出た。
近くに公園があったので、公園に入り、ベンチに座る。
太陽の光が雲の隙間から差す。
「少し肌寒かったけれど、暖かくなってきたましたね」
「そうだね。こうなるとやっぱり眠くなる。もちろん寝ないけど」
これは事実。
それにしても安城さんも陽菜も何故オッドアイなのだろうか。
安城さんに関しては今気づいた。
「安城さんってもしかしてオッドアイ?」
「な・・・・・・何故そのことを?」
「コンタクトに色がついているように見えたから」
「分かるんですか?」
「妹もオッドアイだから分かる。カラコンつけてるしね」
やっぱり勘は当たるものだ。
安城さんいわく、目立つのが嫌だからだそうだ。
そういうことならしょうがないよな。
俺と安城さんは再び図書館に向かう。
その時のことだった。
1人の男が近くに居た女性の荷物をひったくっていた。
安城さんはいち早く気づき、男を追いかける。
俺はその女性に駆け寄り、大丈夫ですか、と訊く。
警察に通報してそこで待っているように言うと、俺も安城さんの後を追う。
安城さんに追いつくと、俺は更に男との距離を詰める。
男は予め用意したと思われる車に乗ると逃げ始める。
「これはマズい」
俺は全力で追いかける。
朝のランニングに比べれば軽いことこの上ない。
そこに、警察の車が1台来て男の車の行き先を遮った。
≪To The Next Story...≫
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます