【14】晒し首の楽しいガールズトークなんですっ!
先程よりも目立つように輝く月光の強さがその軽視具合を物語っていた。
アイリは俯いて、私に歩幅を合わせてくれているようで。
大人の一歩に追い付くため、一と半歩先に出す。彼の小さな気遣いだ。
「……ん」
私は壁へと引いて行き、閉まっている店の前へアイリを立たせた。
「どうしたのぉ……これ……」
美少年女の白タイツの上から、赤黒く混ざり合う
その上をそっと血に沿ってなぞり、痛覚による反応を確認する。
後で死ねると言うのに、ここで食べて欲しいの?
「えっと、薬を買いに行く時に、こ、転びました」
ドジっ子。
私を殺そうとした
「店行く前に、近くで新しいタイツ買お。あと、絆創膏」
「いいえ、お構いなく」と言おうとする小さな唇を視線でつぐませ、近くの店へと寄って行った。
※
藍らしい蛇に噛まれた黒タイツを捨て、私も新しいタイツへと着替えた。
目的地を目指し、一緒に歩いている小さなメイドを横目で一瞥する。
アイリの新しい白タイツの上から薄っすらと絆創膏が見え、左脚が更に
「あ、ああの、本当に僕死ねるんですか?」
死を乞うメイドは、不安そうな瞳で問いてきた。
「死ーねーる、何もしなければねー、この際、死に方は期待しないで」
適当に応えると、アイリは握り潰しがいのある
死にたがりだな、ほんと。
「あっ、そうだ。思い出した」
歩きながら突然そんな事を言い横目で様子を伺うと、アイリも横目で私の返答を待っていた。
獲物を殺そうとする執着心を隠す瞳。案外似た者同士なのかもしれない。
そう思いながら、
「私が起きるまでの間、気持ちがおかしくなって太腿に男的なやつを……擦り付けたり、ママの温もりが恋しくなって胸揉んでみたり、抑えられなくなって顔に何かかけたりしたでしょ」
と、告白してみた。
横目でまた確認する。
美少年の色は白から赤へと変わっていく。
口はパクパクと開き、瞳孔は美少女に戻っていく。
性別迷子の言葉が、発せられる。
「な、、、、、、何をぉ‼ し、してません‼」
「嘘だ」
慌てるメイドを否定してみた。
少々面白い反応をするな、この子は。
「太ももにネトネトしたのが付いてたし、衣装の胸部分がズレてたし、唇になんか白いの付いてたし」
淡々と、そんな事を言ってみたりする。
実際、プロポーションだけは男を虜にできる自信がある。
ましてや、女知らずの童とあれば。
「う、嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘うお嘘嘘嘘嘘嘘嘘うい嘘‼」
思考と文章がバグり始める。
「そんな事、僕ぜっっったいにしません‼」
「知ってる」
「え、は」
可愛い子を騙してみるのは面白い物だな、と月ほどではないが嘲笑ってみる。
「そんな形跡無いし、あんな状態で襲う変態とは思えない」
アイリは、炎上中の脳を放水状態にして瞳を震わせている。
「それに君の涙は、本当に私を心配してくれていた」
月は憎いが、エナメル素材のバニーガール衣装を反射させつつ、私の姿を影としてアイリへ落とすスポットライトとしては、優秀すぎるので今は許すほかない。
月面餅つき大会の時には、是非ご招待されたいものだ。
頬の赤らみは消えぬまま、唖然とした表情でアイリは歩き続けている。
「う、嘘つき……」
精一杯の悪口として、その言葉を気持ちで受け止めた。
うん、美味しい。
「ま、アイリだったら許したな~。大人になってから死ぬってのもアリかもよ? いっぱい出してさ。ホテル行く?」
「行きません!」
率直な否定が人混みの中に反響した。
数多くの生きとし生ける者が、私たちを一瞥し何処かへ逃げて行く。
「じゃあ、彼氏として行く?」
一瞬、言葉に詰まったように下を向き、それでもと言葉を紡ぎ出した。
「ぼ、僕は、バニーさんを綺麗なお嫁さんとして幸せにできる資格、無いですから……」
……早い。だけど、素直なことを言えば嬉しかった。
素直になれず、ちょっと顔を逸らしちゃう。
「そ、そうだったね……私たちは──」
「そ、そうです! 僕たちは──」
「セフレだもんね」
「友達‼ 友達‼ 友達で‼ 今後とも、よろしくお願いします‼」
「わかった」とほほ笑んでみる。
「紳士なんだ、アイリって。──イケメン君だ」
アイリは頬を膨らませ、いじける様にまた俯いてしまった。
だけど、これは良い傾向だ。
ま、私も男性とそういうのは無いんだけどね。アイリ。
だから君と同じ、少女のままだ。
強がりたいんだよ、大人になるとね。
心が緩んだところで、あと数メートルにソレは見えて来た。
さて、楽しい三件目になりそうだ。
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