【4】初めまして、ウサギとメイド

 席に座り、美少女メイドは不安げに辺りを見渡した。

 そんな小動物的行動から一分後。


「あ、あの……」


 「初めまして」以外の言葉を、満を持して口にした。


「どしたん?」


 メニューを見たまま、私は受け答える。メニューの下調べはバッチリだけど一応見なきゃ。

 それにしても、彼女の声は可愛すぎるのだ。

 羽を毟られて、母鳥に助けを求める小鳥か? 可愛い子め。今日は愛してやる。


「……ぼ、僕」


 僕?


「誘って貰ってなんですけど……お金あんまりなくて……だから……」


 ああ、そうか。

 それでソワソワしていたのか、僕っ娘め。


「お金なら大丈夫、私が出すよ。誘ったんだし」

「で、ですが!」

「奢られる側は、喜んで食べてる姿を奢ってくれる人に見せてれば良いの」


 メニューを置き、奢られる側の極意を美少女メイドに伝授する。

 これはクラブのアフターで身に着けたこと、そうすれば高級な食事がタダ。


「次からそうしな。えっと……名前知らないな、そういえば」


 「美少女」とか「メイド」とか呼んでいたけど、この子の名前を一つも聞いてなかった。


「アイリ、です……貴方様は?」


 貴方様、美少女が言うとなんと華麗な。


「私はバニー。覚えやすいでしょ? 兎女子系バニーガールだから、バニー」

「確かに……」


 そう納得させ、アイリの為にも、と話を戻す。


「とにかくね。本当にお金に困って、男に食事に誘われた時はそうしな。だからって食後に着いて行っちゃダメ、理由つけて逃げなよ? アイリはね、ただでさえお人形みたいな美少女さんなんだから」


 そう言われると、アイリは納得のいかなそうな表情を浮かべた。

 下品な話は聞きたくなかったかな、そういうの嫌そうだし。


「あの……“美少女”って、僕の事……ですか?」


 謙遜けんそん


「ここにいるのは、夢と欲望に塗れた気持ち悪い大人成人だけ。──純粋で可愛い美少女は君だけ」


「僕……男です」


 ここに、沈黙が産声を上げてしまった。

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