【3】そこのけ美が通る

 人や異怪が入れ交う夜道の中、メイドの手を引いて私──可愛いバニーガールは進んで行く。


 ──おい、美少女メイドと美バニーガールだぞ。道を開けろ。


 しかして私が堂々と歩くのとは反対に、美少女メイドは俯いたまま私との僅かな隙間を駆けていた。

 緊張しているのか先程から一言も喋らない。

 繋いでいる手は少し震えていて手汗も感じるがしかし美少女。美少女の手汗を気にするほど心狭き兎じゃない。


 右、左、前、左斜め、前、右、……間違えた、後ろ、左。


「着いたよ、メイドちゃん」


 レストラン──『オクタヴィウス』。二週間前、ここでシェフをやっているという客から教えて貰った超高級レストラン。

 何よりここでは一般異怪、異人等が中々口にする事の出来ない"神獣"を扱った料理を食べられるのだとか。

 そのような未知を食せるという高揚感に、胃液が逆流しそうになる。

 どんな反応をしているものかとメイドちゃんを一瞥したが、未だに不安そうにしながら自分の小さな足元ばかりをジッと見つめている。

 こういう所はきっと、初めてなのだろう。


 ──刹那、背筋から込み上げてくる様な熱を感じだした。


 それはまるで睨み付けるようで、粘着的に刺してくる焔。

 しかし実際に背中は燃えていないし、そこまで大した熱では無い。

 ふと振り向いてみるが、魔術師や異物、邪神の気配や空間移動の形跡すらも感じ取ることは出来なかった。


 いたとしても、其れらはこの熱の原因にすらならないだろう。

 何故ならこれは、物言わぬ寡黙な少女を見た時に感じた感覚モノだったからだ。


 もしかしてこの子、かなりの魔性だったりして。それでも一向に構わないけど。


 段々熱が引いていくのを感じ取るが、背には少々の火照りが残っている。

 「ふぅ」と小さく溜息し、私は顔を向けてくれないメイドの手を引いたまま店内へ入ることにした。

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