【2】メイド少女が来る!
一秒で何回転しているのかは記憶にない。
今この棒から離れてしまったら、体がフラフラになって下で見ている客達の前で吐いてしまうだろう。
まぁゲロくらい良いか、いや良くない。
客が来た事を知らせる鈴の音が聞こえた様な気もしたが、お構いなしに回り続ける。
「ねぇ、“バニーちゃん”!」
どうやら今度は、吸血鬼のボーイ君が遠くから話しかけてきている様だ。
だけど、申し訳ございません。私も、私自身の回転を止める事はできません。何故なら今の私は、永遠に回り続ける機械仕掛けのバニーポールダンサーなのですから。
「なんか、小さいメイドちゃんから呼ばれてるんだけどー!」
その言葉を聞いた時には、私は既にポールで回ってはいなかった。
客の上を飛び越え何メートルも先で着地すると、他の人など眼中無しにあの子の目の前まで走って行く。
目前に立つと膝を抑え、息を切らしたフリをしながら挨拶をする機会を伺いだす。
私の顔は今、汗と紅苺色の頬で絶対変になっている。
つい勢い余って颯爽と来てしまったけど、どうしよう。メイクだって直していない。
しかし、名も顔も知らない私の為に勇気を出して来てくれたのだ。それに応えるのが、私の義務であろう。
「は、はひめまひて! わたくし──」
──顔を上げると、私の前に天使様が降り立っていた。
腰まである綺麗な黒髪ロングに水晶玉の様に大きな紅色の瞳、そして雪色のような白肌に一粒のラズベリーにも似た唇。
入れ墨も化粧も無い皮膚はここではとても場違いに見え、不思議と客たちの視線を引いてしまっている。
美意識高い系乙女バニーガール的に例えるのであれば。
私を含め、着飾った
──と言ったところだ。
何かを気にしているかの様にソワソワとしている少女は、私のことを直視しようとせず、メイド服のスカートの裾をふわりと
そこも、可愛らしい。
「あ、あ……始め、まして……!」
謝罪するかの様に体を半分に折り、お辞儀をした。
声も少女らしく高めで、白色の砂糖菓子が似合う様な声色。
──完璧。
少女の手をそっと握り、近くに似たボーイへと静かに話しかける。
「ボーイ君」
小さな手に力を入れたり抜いたりをくり返すも、ボーイ君の顔を私は一瞬たりとて見ようとはしなかった。
「……なに?」
「このまま店辞めます」
「え⁉ ちょ、ちょっと……そんな話し聞いてな──」
「これにて失礼」
ボーイ君の言葉など耳に入れぬまま、少女の手を引いて私はクラブを後にした。
さよならバニーガールクラブ、私はこの中で一番うさぎだったよ。
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