第45話 学力王決定戦編⑥ まだ見ぬ一期生へのこと

 ツナちゃんとクラちゃんが宇宙そらさんと顔合わせをしている間、私はマネージャーやスタッフさんと司会の打ち合わせをしていた。

 司会ともなると、その仕事量や注意事項は膨大で、養殖ハイスペックの私でも深く読み込んで努力しないと到底無理。というか努力するのは当たり前なんだケド。

 

「……うーん、マネージャーもしかして、ここで司会のキャリア積むことで他箱とのコラボでも画策してます?」

「ぎくっ……い、いえ……まあ、その魂胆がないと言えば嘘になりますけど、花依さんにはこれからそんな役回りをさせてしまうことが多くなってしまうので……負担の軽減と言えば綺麗事ですが……」


 深読みかと思ったけど、私の発言は正鵠を射ていたらしい。

 事務所が力を入れていることは、このイベントの規模から見れば明白だ。だけとそれにしては、私への打ち合わせの仕方が些かおかしい。

 何か私が答えを出すことを目的としているような感覚がした。これはきっと私が司会として成長することを促しているんだろうね。

 ここまで来たら答えは簡単。

 事務所は閉鎖的な環境を変えようとしているんだと。


 ……素直に嬉しい。

 前世の知識だけど、閉鎖的な環境を変えきれずにライバーの数を多くした結果、様々な綻びが生まれて失敗してしまった。

 これは社長が退任してから輪をかけて酷くなって、『数撃ちゃ当たる』戦法に切り替えたせいで、ライバー一人一人に寄り添うことがなくなった。

 ライバーにもその風潮が影響してしまい、リスナーを大事にするよりも数字にこだわるようになった。


 それが私というイレギュラーを通して変わろうとしている。私という存在の意味があったんだ、って分かる。

 嬉しくなるし、当然やる気が出る。


「構いません。ビシバシお願いしますよ。私だってウカウカしてたらツナちゃん、クラちゃんに追い抜かされますからね〜。──負けてられませんよ」

「花依さん……」


 いまだかつて無い真剣な目をした私に、マネージャーは目を見開いて驚いた。

 そんなに意外かな? 私はいつだって本気だよ?


 ただ、思ったよりも負けず嫌いだったみたいだケド。


「それに、私の目的は変わってないんですから。堕とす。誰であろうと変わりませんよ」

「……ふふ、そんな花依さんがいるから私も楽しく仕事ができるんです」

「だとしても寝てくださいねぇ」

「うっ……。と、ともかく、この後はプロミネンスさんとの打ち合わせでした……が」


 狂気の一期生プロミネンスさん。

 実は今日はその打ち合わせも兼ねていたみたいだけど……マネージャーの沈鬱な表情を見てどうもその通りにはいかないことを悟った。


「……欠席、と?」

「そう、ですね。ドタキャンと言っても過言ではないです、けど。……ここだけの話、ソロ配信はともかく彼女はコラボを拒絶していたんです」


 私の耳に向けてこそこそと話すマネージャーさん。

 真面目な話なのは分かってるけど、マネージャーさんは隈と疲れが美貌を隠しているだけで、かなりの年上美人さんだ。

 いきなりの内緒話はこそばゆいし堕としたくなる(?)


 ……ま、こんなこと当然言えるはずもないから真面目に聞こう。


「拒絶、となると今回の件は……」

「あぁ、いえ、私達としても彼女が断るようでしたら仕方ないと思っていました。悪い意味ではなく、向き不向きがありますから」

「プロミネンスさんが望んだんですね」

「はい。いつになく真剣な様子でしたし、意欲も高かったので改めてオファーを掛けたんです……。ただ打ち合わせに顔を出さないとなると些か厳しい部分はあります。花依さんにも迷惑をかけてしまいますし……」


 そう言ったマネージャーの顔には疲れと申し訳無さが滲み出ていた。……全て自分のせいにしようとするんだから、このマネージャーは。


「マネージャー」

「はい?」


 私はマネージャーの頭を包み込むように抱きしめ、ゆっくりとした癒し系ボイス(当社比)を耳元で囁く。


「よく、頑張ったね。マネージャーは偉い。いつも私達に寄り添ってくれる。でも、その責任を全て自分のものにするのはダメ。マネージャーの期待に応えるのも私達ライバーの役目だから。ね?」


 粗方言ってみて流石にやり過ぎたかと自省する。

 当のマネージャーは何らかの感情に耐えているのかぷるぷると小刻みに震えてるし。

 ……うーん、マネージャーも大人だしこの対応はないかな……? 怒ってたら謝るしかないけど……。


 私が何か声をかけようとした瞬間、マネージャーはガバッと顔を上げて、潤んだ瞳のまま呟いた。



「花依……ママ……」

「うぇ?」 


 そしてなぜか起こる拍手とどよめき。

 気づけば周りで作業していたはずのスタッフさんたち全員が私の方向を見ていた。


「「「おぉ……!!」」」


 いや、なんのどよめき!?

 ……まあ、喜んでもらったようで。


 一先ずマネージャーを嗜めたのは良いとして、プロミネンスさんとの問題は早急に解決したい。

 これだけの人員とお金が動いている。計画の遅れは社会的損失に値する。もちろんそれだけじゃないけど、個人的にはプロミネンスさんと一度しっかり話しておきたかった。

 ……ファンとしてもね。



 私はその後もプロミネンスさんとのことを考えながら打ち合わせを終え、暫しの休息となった。




 ──家に帰ってきた一時間後。



ーーー

全智『花依。最近家来なくてさびしい』


花依『明日行きますんで覚悟しておいてください』


全智『!?!?』

ーーー



 全然メッセージ送られてきた二秒後に返信した。






ーーーーーーーーーーー

次回は久しぶりの全智さん回です。

やっと物語を動かせそうでホっとしてます……。

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