第44話 学力王決定戦編⑤ 鉄の女との対談

Side クラシー


「……行ってしまったわね」

「隣の控室ですけどね」

「何か言ったかしら?」

「ぴぅっ、なんでもないですよぉ……!」

 

 花依さんがいなくなるだけでトーンダウンする私たち。

 当然、仲が悪いだとかそんなことはない。けれど、やっぱり花依さんありきで私たちは保っている。

 二人きりになるだけで、そのことが強く実感できた。


 私たちは花依さんという輝く太陽に照らされて、一時的に光っているだけの月に過ぎない。けれども不思議と嫌ではない。

 人に依存していることが。

 ……いや、花依さんに依存していることがあまり嫌ではなかった。


 ……これこそ本当の本当に依存しているのかしらね。


 なんてことを自嘲げに思う。

 何とかしないと、とは思っても、何とかできるような気がしない。


 けれど──花依さんにおんぶに抱っこで迷惑をかけるのは絶対に嫌。

 私は……私たちは一人でもやっていけるところを、今回の箱コラボで見せたい。そのためのヒントは、きっと至る所にあるはず。


「さあ、やるわよ。ツナマヨさん」

「分かっていますよ」


 奮起した私は、ハイテンションでツナマヨさんに声をかける。


 また戸惑ってビクビクすると思ったツナマヨさんは、意外……というか初めて見る真面目な顔で頷いた。

 ……何だかんだ私たちは通じ合っている。  

 今この瞬間だけは、花依さんに報いるため。


「行くわよ」

「はい!」


 私たちは控室の扉を大仰に開ける。

 待ち受けるは一期生の宇宙そら


 私たちがする相手だ。





「え……先生?」

「待っていましたよ。クラシーさん」






☆☆☆


(ひえぇぇぇ!?!? 全然なんかクラシーさんと因縁ありそうな感じなんですけどぉ!? 私あの人知りませんよぉ!! こ、これは空気を読んでお姉ちゃん! とか呼べば良いんですかぁ……!? い、いえ、無理です。顔が怖いです。クラシーさん、一緒に頑張る雰囲気だったのに実は知り合いだったパターンは裏切りですよぉ!!)


 ツナマヨは荒れていた。

 意気揚々と早速控室に入ったは良いものの、眼の前に広がる光景は、実は知り合いだった二人の謎の因縁シーン。

 ツナマヨが疎外感を感じるのも無理はない話である。

 先程までの頑張ろうとした気持ちは、今も胸に熱く残り続けている。それが変わってしまうことはない。


 けれども、共に頑張ろうと誓った同士が早速裏切ったことに関しては、一言物申したい気分である。


「……まあ、積もる話は後にしましょう。ワタシは一期生の宇宙そらです。そちらの方は初めてですね?」

「は、はい! わ、私は二期生の漆黒剣士ツナマヨですぅ! よ、よろしくお願いします……!!」


 突然話しかけられたツナマヨは、ビクッと大きく体を震わせながらも、何とか噛まずに挨拶を言うことができた。

 初対面の人でも丁寧に挨拶ができる。

 一見当たり前に思えても、実行することが難しいプロセスを見事に踏むことができたツナマヨは、Vtuberにデビューした頃と比べて大きな進歩だ。

 

「あなた達の活躍は常々聞いていました。あのバカ……失敬、花依とともに今一番数字を伸ばしていると」


(あれ、これ花依さんとも面識ある感じですか……?)


 一抹の不安を覚えたツナマヨは、恐る恐るといった様子で問いかける。


「あ、あの! は、花依さんとはお知り合いなんですか……? それと、クラシーさんとも何かあるような……その、はい」

「ええ、まあ。端的に言えば師弟関係ですね。歌の」

「そ、そうですか……。歌の……」


 ツナマヨは後ろを向いて頭を抱えた。


(めちゃくちゃ重要度の高い知り合い……!!! 私だけいつものように仲間外れですよぉ!! 私、死ぬほど音痴なんですけどぉ!!)


 そこまで言うほど音痴ではないツナマヨだが、誰かとカラオケに行ったこともなければ、一人で行く勇気もないヘタレである。

 天性の声の特徴はあるが、技術が伴っていないのは確かだった。


 

「アナタと今度は同じ土俵で共演できることを嬉しく思うわ」

「私こそよ。今度は絶対逃げないわ。信頼できる友人と、私を信じて救ってくれた花依さんがいる。彼女たちに報いるためなら、私はどんな努力も惜しまないわ」


 頭を抱えていたツナマヨは、クラシーのその言葉ではたと動きを止めた。荒ぶっていた心は凪のように静かで。

 と言った際に、少し照れながらもツナマヨの方を見たクラシー。それを視界の端に入れていたツナマヨは、堂々と宣言したクラシーに羨望の眼差しを向ける。


(私も……このままじゃだめです。いつまでも誰かの力でおこぼれを貰うなんて、応援してくれるファンにも、信じてくれる仲間にも失礼ですから)


 ツナマヨは、うん、と一つ頷くと、ビクビクしながら跳ねる心臓を抑えて宇宙そらの前に仁王立ちで立ちはだかる。


「……? どうしました?」

「どうかした? ツナマヨさん」


 言葉が、出てこない。

 何を言おうとしたか即興で決めたはずのツナマヨは、眼の前に立ったことでカロリーの大部分を消費してしまった。ゆえに無策。

 言おうとすべきことはある。

 けれども言語化ができない。


 頭が混乱して目がぐるぐるし始めたツナマヨは、勢いそのままに叫んだ。





「あ、あの!! 私と宇宙そらさん、キャラが似てると思うんですよぉ!! 敬語だし! 口調似てますし!! ほ、ほら! 私もクールですからぁ……!!」

「はい?」


 宇宙そらは、いつもの鉄面皮を被れないほどの唐突さと突拍子の無さに疑問符を浮かべる。

 しかし、ツナマヨは続ける。

 本能の赴くままに。


「だから!! 宣戦布告? ですぅ……!! 私、今回の企画で二期生が一番目立ちます。というか私が一番目立ちます!! 二期生の絆を、見せてやりますから……!!!」


 ぐるぐるした目で全てを言い切ったツナマヨ。


「「…………」」


 三人しかいない控室はシーンと静まり返っていた。


「……あ、あれぇ……?」

(私今何言いましたっけ……? あれ)


 ツナマヨの暴走癖。

 妄想癖はいつの間にか暴走癖へと進化していった。


 しかし、時にはそれが良いように作用することがあるのだ。



「……へぇ、面白いですね、アナタ」


 これまで無表情だった宇宙が、ニヤリと弧を描くような笑みを浮かべた。


「ひぇっ」


 堪らず小さな悲鳴を漏らすツナマヨだったが、当然のようにすでに手遅れだった。


「アナタが二期生の中で一番存在感がないと思っていました。マネージメント的要領で見ても、アナタをのし上がらせるには苦労すると思いましたが……。フフフ……、よりにもよってワタシに向かって宣戦布告をするとは面白いですね。そこまで言われてどうにもしないわけにはいかないでしょう。よろしい。受けて立ちましょう、その勝負。その代わり、アナタが勝負に負けた場合、それ相応の代償は払ってもらいますよ。────良い瞳です。楽しみにしてます。では」


 怯え震えるツナマヨに一方的に捲し立てた宇宙は、ぷるぷる揺れるツナマヨの肩をぽん、と叩いて控室を出ていった。

 打ち合わせとはいっても、実は一期生とは顔合わせのみだったため問題はないのだが、しかし無表情だった宇宙の顔が喜悦に歪んだ結果に対しては、ツナマヨはただ震えることしかできなかった。


 仲良くなることは紛れもなく失敗だろう。

 だが、


「あ、あのぉ……私何かやっちゃいましたかねぇ……!?」


 涙を溜めながらクラシーの方へ振り向くツナマヨ。

 クラシーは呆れ顔でため息を吐いていたが、その表情は先程よりも晴れやかだった。

 

「……良い啖呵だったわ。私も期待してるわ」


 内心笑いを抑えつつそれだけ言うと、クラシーは同じくツナマヨの肩をぽん、と叩いた。



「ピエッ」


 今度こそツナマヨはキャパオーバーして、動きを完全に止めたのであった。







ーーー

ツナマヨ覚醒フラグ……!?

物語を通して成長するの、って良いですよね。


それはともかく、息抜きにVtuber小説を書いてみたので、余裕のある方はぜひともご一読いただけたら大変嬉しいです。


↓↓↓こちらです。


裏垢でリスナーやメンバーの愛を語っていた毒舌系Vtuber、バレて無事悶絶しまくる

https://kakuyomu.jp/works/16817330658901831169

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る