第43話 学力王決定戦編④ 試練

「お待ちしていました。ご案内いたします!」

「あ、マネージャー。こんにちは〜」

「お、お疲れ様です……!」

「……こんにちは」


 バインダーを持って現れたマネージャーに、三者三様声をかける私達。

 私は普段たまに話す仲だし、何も気にせず挨拶を。

 ツナちゃんはいつものコミュ障を。

 クラちゃんは迷惑をかけた引け目があるのか、丁寧に、だけど距離感を測りかねている感じだ。


 挨拶だけでも人の性格って伝わるよね。それも、裏側を知ってる私だからこそ、過去に起因してる負い目とかを感じ取ることができる。……ツナちゃんは単なるコミュ障だケド。


 ちなみにマネージャーは、私達一人一人に付いているわけではなく、二期生纏めてのマネージャー一人となっている。

 そのマネージャーを補佐するサブマネもいるらしいけど、直接私達とは関わりがない。何にせよ人手不足兼仕事に忙殺されてるのは分かった。


「マネージャー、寝てます? 隈、できてますよ?」

「まあ、そこそこです。三時間寝れば立派な睡眠ですからね。二週間くらい家に帰れてませんが……フフフ」

「「「うわぁ……」」」


 思わぬマネージャーの壊れっぷりにちょっと引く私達。

 ここ最近、事務所の方でも色々あったみたいで大変な時期とは聞いていたけど……。これは思ったより重症かもしれない。

 というかその大変な出来事って、二期生関連だけどね!

 うん、ごめん、マネ。悪気はないんだよ。


「良いんですよ、別に。皆さんの配信のお陰でモチベ保ってますから。楽しく元気に配信を。裏の憂いは全て私が取っ払いますから!」


 グッと拳を握って笑うマネの表情は、から元気でもなく純粋にそう思っていることが理解できた。

 その表情を見たツナちゃんとクラちゃんは、マネージャーのことを信用できる良い人だと感じ取ったのか、途端に相好を崩した。

 チョロい……チョロいよ! ……まあ、あの笑顔見たら毒気抜かれるよね。


 とはいえ。

 私はマネージャーに近づいて、頬をそっと撫でる。


「マネージャーの憂いも、私達の配信で消し飛ばしてみせますよ。だから安心してください」

「ひぅっ……ちょ、花依さん……私まで落とそうとしないでくださいよ……」


 頬を赤くしながら、撫でられた頬に手を当てるマネージャー。……うーん、可愛いぞ。


「「花依さん……」」


 後ろの二人がジト目で私を見ている気がするけど、多分気のせいだよね。……そういうことにしておこう!


「まったく……。き、気を取り直して控室に案内しますね。もうすでに一期生の宇宙さんがいらっしゃっているので、改めてご紹介と、打ち合わせまでに多少の交流を図っていただきたいのですが……」


 マネージャーは言いにくそうに、チラチラとツナちゃんとクラちゃんを見る。

 コミュ障代表のツナちゃんはさておき、クラちゃんも人見知りの部類に入る。交流できず無言で気まずい時間を過ごすことを危惧しているのだろう。

 仲良しこよしをする必要はないけれど、仕事に支障をきたさない範囲で交流することは、企業所属の責任ある立場として大切なことだ。

 表では仲良しを謳っていても、裏では険悪な人たちだっている。それでもファンを楽しませようという気持ちさえ一致していれば何とかなるもんだ。


「大丈夫だよね、二人とも。



「「──え?」」


 二人揃って鳩が豆鉄砲を食ったような目で見る。


「あれ? 言ってなかったっけ? 私は司会だから別の場所で打ち合わせなんだよね。後で合流はするけど、最初はそっちで頑張ってね!」

「聞いてませんよぉ……」


 元気にサムズアップした私に対して、ツナちゃんは死んだ目で私を見る。うん……あえて言ってなかったよ。

 

 実際、「私ありきの絆」という言葉はかなり刺さった。

 それは裏を返せば、私に依存しているということだ。


 依存されることは全然構わない。むしろ、てぇてぇ過ぎて爆裂四散できる。というかしたい。

 けれど、全てを私に任せることがこの先の未来に悪影響を与えてしまうことは自ずと理解できてしまう。


 私はてぇてぇ関係を築きたい。


 それと同時に、Vtuberとして輝くみんなを見たい。

 私という太陽で輝く月であって欲しくない。


 全員が全員太陽で照らし合う関係を培いたい。キラキラ笑顔でVtuberを謳歌するところを見たい。


 ……ま、結局は私のエゴだケド。


「頑張ってね! 二人とも!」


 止めのように笑顔で言うと、二人は今度こそ瞳のハイライトが消えた。突き放したわけじゃないけど、試練ではある。

 そして私の試練でもある。

 私の強みはコラボだ。

 どこまで一人で上手く事を回せるのかが問われる。


 二期生とのコラボとは違って、人数が多い。たかが二人増えただけ、なんて言えない。個性を持つ二人増えた今、司会の難しさも段違いだ。


 もしかしたら依存してるのは──いや。


「じゃあ、別の控室行ってまーす」


 後ろを振り返らずに私は進む。

 あとは任せたよ! クラちゃん! ツナちゃん!




ーーーーーーーーーーーー


次回はツナちゃん視点での宇宙(そら)と対談です。

結構文字数かさむかもしれません……


思ったより話が進まないことに戦慄を覚えていますが、頑張って隙間時間見つけて投稿頻度上げます……

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