第42話 学力王決定戦編③ 打ち合わせ
告知してから日が空いてるとは言え、演者側である私達がすることは膨大だ。
何せ、初めての箱内コラボ。
所属人数は他箱に比べたらそこまででもない代わりに、あの癖の強さ。私が全てまとめてやる! って言えたら良かったんだけど、流石にそこまで自惚れてない。
「う〜ん、一対一なら特効ある方だと思うけど、箱内コラボ……自信がないわけじゃないけどちょっと不安かもね」
失敗は許されない。
だからこそ全霊を持って私は捧げる。
……でも、楽しく、楽しめるように。そこは履き違えたらダメ。
演者が楽しくなくて惰性でやっていることは、リスナーの目には一目瞭然だ。バレなければ良い、じゃない。無理して楽しむ、じゃない。
心の底から楽しませる。
それは私の役目でもあり、みんなと共有したいことでもある。
「よしっ、打ち合わせ行こうかな」
今日は一期生との顔合わせ兼打ち合わせ。
とは言っても、この段階で詳細を詰めることはしない。顔合わせという名の交流会だとマネージャーが言っていた。
まあ、初の大型コラボだし、そもそも初対面。
最初から仲良く仕事の話なんかできるわけないよね。
「例の人とまだ見ぬ一期生。会うのが楽しみだなぁ」
ようやく堕とす対象を一期生にシフトすることができる。私が憧れ、画面でしか見ることができなかった存在。
原点にして頂点。
一期生との邂逅は近い。
☆☆☆
「クラちゃん、そっちは違う。相変わらず方向音痴だね」
「仕方ないでしょう。分からないのだから」
「頼ってくれるようになったのは嬉しいけど、かなり他力本願だねぇ……」
「だって、助けてくれるんでしょう?」
「まあ、そうだけど」
堂々と言い放ったクラちゃんに感心しつつ苦笑する私。
前回同様、道に迷ったクラちゃんを回収することから打ち合わせが始まった。遠足は目的地に到着する前が大変だよね。それと一緒。
さっきの話だけど、私を頼ってくれるのは喜ばしいことだ。頼ることを覚えたクラちゃんに不安感はないし、私としても約得だし。
でも、
「手繋ぎはないんじゃない? はぐれないためなのは分かるケド」
「あら、嫌なの?」
ふふ、とまるで分かってると言わんばかりに微笑むクラちゃん。
私はちょっとだけイラッときた。
変わったクラちゃんに余裕のようなものが見え隠れしているけど、本質はおっちょこちょいで変わってない。
だからこそ私は、繋いでいた手を離して、今度は私からクラちゃんの腕を巻き込むように掴む。
そう、腕組みだ。
「ちょ、花依さん!?」
「あれ、どうしたの? まさか……嫌?」
声音を変えて吐息混じりの甘い声を演出する。
過剰にならないように、相手に不快感を覚えさせないギリギリのレベル。
散々慣れてるはずのクラちゃんは結局顔を真っ赤にさせて黙ってしまった。
私にてぇてぇで勝とうとするなんて百年早い。
「じゃあ、事務所に行こうか。こっちだよ」
「は、花依さん。まさかこのまま……あ、あと当たってるわ」
「そんな細かいこと気にしてないで行くよ」
「細か……うぅ」
トレードマークみたいになっている赤いワンピースと、真っ赤な顔。明らかに動揺を浮かべているクラちゃんは非常に可愛かった。
ごめんねクラちゃん。ひょっとしたうちにすぐ嗜虐心が顔を出しちゃうんだよね。そろそろ慣れてとしか言えない。
思ってもいない謝罪を心の中でして、私を歩を進める。
弱々しい抵抗をするクラちゃんだけど、明らかにカタチだけの抵抗で、全然嫌がっているように見えなかった。
それこそ……いや、これは言わぬが花かな?
「着いたー!」
「やっと着いたのね……」
明らかに疲れた表情を浮かべるクラちゃんが呟く。
そのまま腕を離すと、ホッとしたように……そして、残念そうにため息を吐いた。
そんな分かりやすい表情するから私がドSになるんだよ。
「さて、明らかに黒くて怪しい泣いてる人がいるけどスルーして進もっか」
「そうね。明らかに私たちを見てるけど行きましょうか」
私とクラちゃんが傍らにいる人物を通り過ぎようとした瞬間、ガッと強い力で肩を掴まれた。
「ちょっとぉ……! なんでそんな意地悪するんですかぁ!!!」
「え、ツナちゃんだから」
「存在が理由!? 酷いですぅ……!!」
即答した私に泣きつくツナちゃん。
明らかにネタに偏ってたらイジりたくなるじゃん。正直仕方ないと私は思う。
この一連のイジリを最も美味しいと思ってるのもツナちゃんだろうし。じゃなきゃ口元がニヤけてない。
あれ、二期生腹芸下手すぎ……?
「とにかく二人とも行くよ。二期生の絆の力を一期生に見せ付けよう!」
「……花依さんありきの固い絆だけれどね」
ボソッとクラちゃんが不穏なことを言うせいで、私達は無言での行進となった。
あながち自覚があるから何とも言えないよね。
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