第37話 ツナちゃんとお泊りコラボ!② #ポンコツ

「はい、というわけで皆さんこんにちは〜。肥溜め二期生の花依琥珀とー?」

「に、二期生の漆黒剣士ツナマヨです……! というか私の枠なんですが! いつの間にか乗っ取られてる……」

「配信始まってるのにいつまで経っても喋らないツナちゃんが悪いでしょ」

「うぐっ」


コメント

・お泊りオフコラボ来たァァァ!!

・否定できないな、それはw

・花依限定でコミュ障が悪化してる件

・つまりは……そういうことだろ

・コメントに残すのは無粋か


 何か勝手に察せられてるみたいだけど、私もそう思う。そこはツッコむべきじゃないから黙っておくけど、視聴者にバレるくらいに隠せてないツナちゃんにも問題があると思うんだけど。


 開始早々ノックアウトしたツナちゃんの頭を撫で撫でしつつ、私はニヤリとしながら話す。


「実は配信する前にさ、ツナちゃんの弱点を発見したんだよね」


コメント

・弱点しかなくね?

・いや、草

・花依そのものが弱点だよなぁ……w


「私が弱点なのは知ってるけど」

「うぇっ!?」


 狼狽えるツナちゃんを無視して、私はツナちゃんの耳元に息を吹きかけた。


「──ひゃうっ!」

「この通り、耳が弱点みたいなんだよねぇ。やり過ぎたらちょっと危ないような気がするケド」


 ツナちゃん、チョロいから完堕ち超えてドロッとしちゃいそうなんだよね。完全に依存させるのは私の本意ではないから、そこは流石に踏み留まらせる。トラブルの元を放置する程私は愚かじゃないよ。


コメント

・これはセンシティブ

・ツナマヨがまた花依の毒牙に……

・弱点知ったところで、活用するの花依しかいないんだよなぁ……w

・てぇてぇの補給はできるけどもw


 私を恨めしそうに睨むツナちゃん。

 涙目の姿には、私の嗜虐心を大いに刺激してくる。


「そ、そういうのは二人きりの時とか……い、いえ、何でもないですっ!」


 ほう……。

 私は恥ずかしげに視線を右往左往させるツナちゃんに抱きつく。

 色々な柔らかさが全身に広がって、ちょうど身長差的に私の顔がツナちゃんの胸にあるような状態になった。

 

「ひょえ!?」

「あざとい。あざといよツナちゃん。でも、そういうの好き。ツナちゃんってドSホイホイだよね」

「褒められてるのか貶されてるのか分からないんですけどおおお!?」

「聞いたら分かるでしょ。貶してるんだよ」

「ダメな方の回答……っ!」


 普段私は自分から身体接触はしない。

 最初は、元男としてのなけなしの遠慮みたいなのがあったからなんだけど、最近はあんまり気にしないようになった気がする。別にベタベタしたいわけじゃないケド。

 というか、感情が抑えられなくなった時に接触する? みたいな? 自分でも分からない!


コメント

・あざとてぇてぇ

・ツナ虐たすかる

・ドSホイホイは草だけど理解できてしまうw

・とりあえずてぇてぇなのは分かる


「リスナーの語彙力が消失する前に本題に移ろうか。ツナちゃん、何かしたいことがあるんだっけ?」


 私はツナちゃんから距離を取る。

 若干名残惜しそうな目で見たり、抱きついていた部位の匂いを嗅ぐ変態は置いておいて、私は本題に移ることにした。


 ……喋らないな、ツナちゃん。


「ねえ、いつまで私の匂い嗅いでるの? 本物が近くにいるんだから残り香に縋らないの」

「はっ! す、す、すみません! 別に匂いとかは気にしてませんよ……? ただちょっと甘くて私には無い良い香りだなぁ、とか思ってませんから!」

「語るに落ちてるじゃん。良いから、き、か、く。私がチャンネル乗っ取っちゃって良いのかな?」


 冗談めかして私は笑うけど、ツナちゃんはしょぼんとしている。怒ってるわけじゃない。ただ、プライベートと配信とではある程度の分別が必要というだけだ。

 ファンがいて成り立つのが配信業。

 それはツナちゃんもきっと分かっている。

 何かあったのかもしれないけれど、深い悩みを配信に持ち出すことはツナちゃんもしたくないに違いない。


 ……後で聞くのは決定事項かな。

 ツナちゃんが曇るのは本意ではない。


 トントンとツナちゃんの背中を小突いて笑いかける。

 少しホッとした表情で、ツナちゃんは意気揚々と話し始めた。


「そ、そうです! これをやろうと思いまして、ネットで買ったんですよ」

「それは?」


 ツナちゃんは謎に自信満々で広げたのは──


「──ツイスターゲームです!」


 様々な色で出来た円形と、色の名前のルーレット。

 ツイスターゲーム。それは、ルーレットで指定された場所に体の一部を触れさせるゲーム。

 二人でもできるそれは、回数が重ねればなるほど複雑な姿勢を取ることになったり、相手の体の下に手を入れたりしなければならなくなるゲームだ。


 所謂……言葉を取り繕わなければ──美少女たちのくんずほぐれつを楽しむゲームだね。異論は認める。

 ……まあ、仲良い男女間……もしくは仲良くなりたい男女間でしたりするケド。家族間もね。


 私はふふんっ、と笑みを浮かべるツナちゃんと視線を交わしてニコリと笑う。

 その笑みに何を感じたのかぱぁ、と表情を輝かせたツナちゃんに向けて私は言った。


 容赦なく。無慈悲に。



「──うん、ボツ」


「何でですかああああぁぁぁ!!!??」


コメント

・草

・草

・草

・草


「いや、全身3Dじゃないと何してるか分からないし、そもそも規約に触れてBANされる確率あるでしょ? ツナちゃんなんてなんだから」

「初耳なんですけどぉ!? 何ですかその良くない響きでしかないあだ名は!!」


 不名誉ですよぉ! と叫ぶツナちゃんはどうどうと落ち着かせつつ「最初の指摘は理解できるでしょ」と言えばズーンと落ち込み始めた。


コメント

・まあ、そりゃそうだなw

・声だけってのも楽しめるけど、何してるか分からなかったらな

・あざとい歩くセンシティブは草

・V辞書にこのあだ名載せようぜ

・公式化するか……w


「ひこーしき! ひこーしきですよ! 私は認めませんからね!」

「私が認める。よし、いけ」

「ちょっとぉ!」

「元はと言えば何も考えてないツナちゃんが悪いんだよ? ツイスターゲームなんてまさに体を動かすゲームをlive2Dでできると思う?」

「うぐぐぐ……なんか今日の花依さん、辛辣ですぅ」


 あまりやらかなさいポカをするからだよ……。

 これだから私にポンコツ妹枠扱いされるんだって。……まあ、可愛くて憎めないのはツナちゃんオンリーのキャラだケド。ある種才能だと思う。


「雑談枠にしよっか」

「はいぃ……」


 沈んだ様子を見せるツナちゃんだけど、その後の雑談枠では調子を取り戻して、終始私にからかわれる結果になった。

 解せぬ、って言ってたけど、その表情が満更でもなかったことを知っているのは私だけだった。





 

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