第36話 ツナちゃんとお泊りコラボ!① #花×ツナしか勝たん

 事務所の許可も正式に取って発表した私とツナちゃんのお泊りオフコラボは、瞬く間に拡散されて波紋を呼んだ。

 ……まあ、とは言ってもリプライに『てぇてぇ来たァ!』とか『泊まるのか……全智以外のやつと』的なネタコメントが多かったんだケド。

 

 そりゃ泊まるでしょ。てぇてぇのためだもん。

 昨日、全智さん宅を出る時の全智さんの寂しげな表情には心を打たれたし、もう住みたい、とか思っちゃったけれど、甘やかしすぎても全智さんのためにはならない。

 教えたことをすぐに吸収して努力する全智さんには、一人立ちをさせることも大切なのだ。

 一人立ちさせても孤独には絶対させないけどね。


「ふーむ、都内一人暮らしとは聞いてたけど、結構良いところに住んでるじゃん」


 ツナちゃんが送ってくれた住所を元に出向くと、そこは全智さん程とは言わずとも十分なセキュリティを誇ることで有名なマンションだった。

 ま、女の一人暮らしって結構怖いからね。

 男はみんなケダモノだ……という意見に対しては、元男として否定したい気持ちはある。

 でも、勿論全員でなくとも、ごくごく少数の人が悪意を持って行動するのも事実。備えておいて悪いことはない。

 

 ……ツナちゃんチョロいから騙されやすそうだし。


 という私の最大な本音は置いておいて、


「よし、今日の私も美少女」


 コンパクトで化粧、髪型に乱れがないことを確認して私は自信満々に笑顔で頷く。

 高校生だから、ガチのメイクをする訳にもいかないし、そもそも私の素材は最高級だから、一番素材の良さを引き出してくれる薄いメイクのみ。少しリップを塗ってるくらい? ……ほぼスッピンじゃん。


 私は常に最高の状態で彼女たちに触れる。

 頑張って、努力して……それが私の彼女たちへの向き合い方なんだから。


 さてさて、今日の私は髪型を一風変えている。

 どんな感じでツナちゃんと接しようかなぁ〜、なんてことを思い、ハーフツインテールにしてみた。

     

 キャラについてはお楽しみに、ってことで。


 服装は両方の肩が出るほど大きく開いている服に、膝上のスカート風のパンツ。

 露出は多いし寒いけど、それはご愛嬌ってことで。

 

 服装の乱れも確認して、私はツナちゃんの部屋に向かう。

 オフで会うのはちょっと久しぶりかも、と思いながらインターホンを押す────ガタガタゴトゴト! と何かが倒れるような音がした。


「いや、ビビリすぎじゃない? どうせめっちゃ緊張してるんだろうねぇ」


 自分から誘ったくせに何だ、と思うかもしれないけど、それがツナちゃんだ。ヘタレで変なとこはあるけど、芯は強くて優しい。

 本人には言わないケド。調子乗りそうだからね。


 インターホンを押した一分後くらいに、ガチャりとドアが開く。

 

「おおお、お、お、おおお、おお、お……!!」

「お?」


 オットセイかな? と思う程に『お』を連呼するツナちゃんは、ダボッとした藍色のセーターと丈の短いデニムを履いていた。

 最初に会った時の服装と比べて随分ラフだなぁ、と思いつつ若干の色気を感じさせる服装に、私は少なからず感心を抱いた。

 ツナちゃんの場合は無自覚だからね〜。それでいて勝手に劣情を煽るんだからたちが悪い。


 ……ふふ、そんなツナちゃんに細やかな逆襲をプレゼントしてあげよう、という私の気持ちには気づかないだろうね。


 と、心の中でほくそ笑んでいると、ようやくツナちゃんは言葉を捻り出した。


「おおおお、お、お待ちしていました……!」

「え、あ、うん」

「ど、どうぞ中に!」

「はーい、お邪魔しまーす」


 ようやく発した言葉がそれかい、とは思うけど、どうせ緊張していただけだろうから特に驚くことはない。

 表情はガチガチだし、これじゃあコラボ以前の問題だよ。


 だから私は扉を閉めて、手と足を同時に出して歩くツナちゃんを追いかけ、私より身長の高いツナちゃんの耳元に背伸びして──ふぅ、と息を吹きかけた。


「──ひゃぅんっ! な、何するんですかかぁ……!?」

「ツナちゃん、緊張しすぎだって。ここには私とツナちゃんしかいないんだからさ」

「いや、緊張要素しかないんですけどぉ……!?」

「うん、知ってる。でも、いつものビビリだけど謎に大胆不敵なツナちゃんに戻らないと配信できないよ?」

「言い草が酷い……!」


 事実じゃん。

 私は最近、ツナちゃんは実はコミュ力強いんじゃないか、って思い始めたし。しっかり私とクラちゃんと会話のキャッチボールができてるだけで十分でしょ。

 まあ、目を合わせようとしたら逸らすけどさ。

 

 調子は戻ったけど、いつものツナちゃんではない現在。

 私は顔を真っ赤にするツナちゃんの耳元に再び唇を近づけて──少し甘い、色気を重視した声音で、


「私、ツナちゃんのいつもの姿好きだよ」


 ビクンっ、と体を震わせるツナちゃんに、続いて1/fゆらぎの声で語りかける。


「ほら、落ち着いて。ゆっくり、ゆっくり深呼吸して」

「は、花依しゃん……」


 私を見つめるツナちゃんの潤んだ瞳を見てニヤリと笑う。

 

「──わっ!」

「ぶわっ!?」


 トロンとしてきた目に危ういモノを感じた私は、耳元でそれなりのボリュームで叫んだ。

 元に戻ったツナちゃんは、頬を膨らませて顔を真っ赤にしながら私を睨む。うーん、あざとい。

 

「よわよわなツナちゃんが悪いと思うよ」

「だ、だってぇ……部屋に誰かを呼ぶの初めてなんですよぉ……! 緊張するに決まってるじゃないですかぁ!」


 友達……は聞いちゃいけないね、うん。

 この緊張具合からもしかして? と思ったけど、やっぱり家に誰かを呼ぶのは初めてなようだ。だからと言って私が手加減する理由にはならないんだケド。


「そっかぁ。私が初めてかぁ。ツナちゃんの初めてかぁ」

「──ぶっ! ちょっとぉ! 含み持った言い方やめてくださいよぉ! えぇ、そうですよ! 部屋に誰かを呼ぶのは愚か、初めての友達も花依さんとクラシーさんですよ!」


 ヤケクソ気味に真っ赤で叫ぶツナちゃんは、言い方はともかく発言は微笑ましい。

 初めての友達、というワードは私にとっても思ったより嬉しかった。誰かの特別になる、ってなんか嬉しいよね。


「ふふ。じゃあ、その初めてを良い思い出にしないとね。今日は寝かさないよ?」

「全部計算通りじゃないですか、こんちくしょうぅ!」

「冗談だって。寝かさないのは本当だケド」

「──っ!?」


 うーん、やっぱりツナちゃんをからかうのは楽しいなぁ。あざと可愛い反応は私の嗜虐成分を大いに補給してくれる。

 リスナーへのリップサービスも含めて、私はツナちゃんをからかい赤面させてやろう。


 今日の私は──小悪魔系だからね。


 

 


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展開練ってたら遅くなりました!

今週中にもう一話投稿します!

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