ツナちゃんのお泊りコラボ編
第35話 全智さんと朝ごはん
百合小説なのに佐々木の野郎が出た回が一番コメント数多いってマジ???
というわけで二章開幕です。
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堕とし続けて三千里。
私の飽くなき欲求は未だに留まることを知らない。
「そろそろ好感度管理の時間かな?」
気まぐれで全智さん宅で一夜を明かした私は、ぼぅっとした思考のままそんなことを呟く。
ちなみに一夜を明かしたことに他意はない。今もグッスリ隣でふにゃふにゃ言いながら寝てる全智さんがいようと他意はない。
「はな、より……すぅすぅ」
「朝から尊みがすごい」
寝言で私のことを呟く全智さんは、傍から見ても勘違いとは思えない程に嬉しそうだ。いつか私の理性壊れないかな?
このゆるふわ天使が私を全力で惑わしてくる。
ここ一帯だけ聖域でしょ。付け入る隙もなく、周り全てを浄化して「てぇてぇ」と叫ばせるだけの空間。
私は全智さんの真っ白な髪をサラリと撫でる。
私がケアの仕方を教えてから髪質が目に見えて良くなり始めたんだよね。……ケアの存在を知らない頃から非常識なくらい艶々だったケド!
あれは女子全てを敵に回す天然完璧美。
全智さんの成長は外面内面ともに止まることはない。
それもこれも私が教えたお陰……とは自惚れだから言わないけども、美少女をスーパー美少女に育成させたのは私だから何か嬉しい。
やっぱり最初から強いモンスターを捕まえるよりも自分の手で育成して強くする方がやり甲斐あるしね。それと同じだよ。効率はともかくとして。
「うん、全智さんは頑張ってる。偉い偉い」
「ふみゅ……えへへ」
「──ぐはっ」
はっ! 血反吐を幻視した!
尊み溢れる全智さんのはにかみ。
寝ている最中という無防備状態の中で、紛れもなく私がだけが見ることを許されている笑顔は破壊力しかない。
周りが美少女だらけだから死なずに済んだけど……危なかった。私も成長しているってことだね!
ん? 成長の方向性が間違ってる?
いや、てぇてぇに関することは前に進めば全部成長よ。
「ヤバい。これ以上全智さんの近くにいたら自滅する。全方位てぇてぇカウンター怖い」
私はソっと布団から抜け出してリビングへと向かう。
ちなみに配信は勿論ミュート状態である。同じ轍は踏まん。
そう簡単に私たちの聖域に入ってこれると思うな。
「さて、と。そろそろ好感度管理の時間かな。ん? 二度目じゃない?」
全智さんのてぇてぇ攻撃のせいで記憶が曖昧だ。
やっと本題に戻るけども、堕としてからが本当の勝負だということは何回も言っているはず。
堕としました。はい、終わり。
なんて、そうは問屋が卸さない。ギャルゲーじゃあるまいし。
ここはリアルなんだから、堕としたならその先がある。誰か一人を贔屓にして他は蔑ろに、なんかすれば堕とした意味がない。
私は! リアルてぇてぇハーレムを狙っている!
……あながち冗談とも言い切れないんだよなぁ〜。
「そろそろツナちゃんが寂しがってる頃だろうね」
漆黒剣士ツナマヨ。
そんな厨二ネーム満載の、根はコミュ障チョロド陰キャ。更に妄想癖付き。
私独自の調査で微妙にツンデレも入っていることが分かった。属性多すぎだよね。私も人のこと言えないケド。
「というわけで送信、と」
私はツナちゃんにメッセージを送る……と秒で返ってきた。
「はっや」
ーーー
花依『明日コラボ配信しないー?』
ツナマヨ『ええ、ええ、構いませんとも! 暇ですので!』
花依『ツナちゃんはどうせいつも暇でしょ』
ーーー
食い気味の返答に私は苦笑する。
メッセージなのに焦ってるのが丸わかりって、隠し事下手すぎでしょ。
ツナちゃんは存在があざといからね。何か隠してる時は目が上下左右に泳ぐからすぐに分かる。反応がテンプレすぎて笑えるよ。
「およ?」
ーーー
ツナマヨ『ど、どうですかぁ? 私の家に来てお泊りオフコラボでもしていいんですよぉ?』
ーーー
ツナちゃんらしからぬ攻めたメッセージに微かに驚いた。
ヘタレ脱却計画でも始めた?
……まあ、これはチャンスかも。
クラちゃんの一件以来ツナちゃんとオフコラボはしてないし、視聴者もそろそろ花×ツナが見たがってるよね。
私の欲求満たすためだけだから、例えリスナーが見たくなかろうとやるんだケド。
ーーー
花依『え? 良いの? じゃあ、住所送ってね、行くから』
ーーー
私はそんなメッセージを送ると、ブツリとスマホの電源を切る。
どうせしばらく自爆ダメージ食らって動けないだろうから、今のうちに諸々の準備をしようか。
「ふわぁ……ん、花依おはよう」
「あ、おはようございます、全智さん。珍しく早いんですね」
トロリしたと眠気溢れる眼を擦りながら起きてきた全智さんは、私の声掛けに一瞬言葉に詰まりながら答えた。
「……花依がいなくなったから」
「……っ」
微かに羞恥を堪えて。私の方をチラチラ見ながら顔を赤くする全智さんに──舌を噛んで耐えた私は無理やり笑みを作る。
「早く起きちゃったので朝ごはんでも作ろうかと思ったんですよ」
「……! 私も手伝う……!」
「そうですね。じゃあ、顔洗って目覚ましてきてください。寝ぼけて火傷して全智さんの綺麗な肌に傷なんてついたら一生後悔するので!! 私が」
「う、うん。わかった」
私の剣幕に気圧された全智さんは首を傾げながら洗面所に向かって歩いていく。その様子を見た私は大きく息を吐く。
「はぁ……危なかった」
今日は尊み注意報らしい。
ちょっと気障なセリフを吐いて演技に入らなければ、私は余りの尊さに血反吐を吐くところだ。……朝で頭が回ってないのか、普段以上にてぇてぇに耐性がない。
「攻められるのはたまにで良いの。くっ、天然に策略で挑んでもあんまり効果ないし……」
全智さんを照れさせるなら簡単だけど、その代わりに倍返しになってカウンターを仕掛けてくる。
タイミングが急だから私の防御も易易と突破されてしまう。
「それにしても……本当に料理にハマったんだねぇ」
健康に悪い食生活を止めるためだったけど、思わぬ良い誤算だ。朝食くらいなら一人でも用意できるレベルだし。
まだちょっと危なっかしいから見守ってあげなきゃね。……おっと、また母性が。
「花依、花依。目覚めた」
「あははっ、アピールの仕方独特すぎですよ」
指で輪っかを作って目に当てる全智さん。
どうやら目が覚めた合図らしい。何それ可愛い。
当の全智さんは何で笑われているのか理解できない様子で首を傾げている。どうかこのまま純真無垢であってくれ。
「さて、今日はお味噌汁と焼き鮭。あとは消費期限ギリギリの納豆があるので、それ使っちゃいましょうか」
「わかった」
「全智さんはお味噌汁作ってもらっても良いですか? 今回は私の手助け無しで」
「がんばる……!」
ふんすっ、と腕まくりをして気合いを入れる全智さんに、私は可愛らしいと笑う。空回りしないことを願って注意を図っておこう。
今の全智さんならレシピ通りに作ることは容易い。料理する時限定で緊張しいなところがあるから、そこで失敗しなきゃ大丈夫かな。
「ふんふふーん♪ お米は炊き終わってるから〜。鮭を……蒸し焼き!」
「鮭、蒸すの……?」
「こうすることでパリパリになるんですよ。その前にちょっとした工程を挟みますケド」
「そう……」
「後でレシピにまとめますね」
「うん、ありがとう」
「いえいえ」
全智さんは最近はとくに顔に出やすい。
何を求めてるのか。何をしたいのか。それが私にはすぐ分かってしまう。わがままになって欲しいという私の願いが叶えられてるようで満足満足。
控えめだけどねぇ。
そうして二人でキッチンに立っていると、私は調理完了。全智さんも不慣れな様子ではあるものの、及第点どころか満点をあげたくなるお味噌汁を完成させていた。
「お〜、上手くできたじゃないですか」
「自信作っ」
「ふむふむ、味もよし、見た目良し。はい、全智さん。あーん」
「……! おいしい」
むふー、と胸を張る全智さんが作った味噌汁を味見する。
最早気にせず私の使ったスプーンであーんを受ける全智さんは、想像以上の出来に顔をほころばせた。……ちょっと顔赤いね。照れてるのかな?
「さて、次は納豆ですね」
「普通に食べない……?」
「ええ、オクラとネギと醤油。これだけで美味しくなりますよ。ネバネバ好きには垂涎モノですね。あとは単純にすりおろした大根と混ぜるのもアリです」
「わかっ……た?」
「あはは、これも纏めて渡しますよ」
「うん……」
歯切れ悪い返事に私は笑いながら答えた。
まあ、そんな一気に言っても憶えられるわけがない。
どんどん全智さん用のレシピが溜まっていくけど、ちゃんと使ってくれる保証があるから渡す方も嬉しいよね。
納豆レシピは前世の一人暮らしの時に覚えた。
意外とシンプルで美味しいんだよね。健康にも良さそうだし。完全主観だケド。
「花依は物知り」
ポツリと呟かれた声は、どこか羨ましさを含んでいた。
私はぽんっ、と全智さんの頭に手を置いて笑う。
「こういう知識ってやってるうちに覚えていくんですよ。家事レベル3くらいの全智さんが知らないのは当然です。私の立つ瀬が無くなりますから。……だから、こうして覚えていきましょう。知らないことを知るって楽しいですよ?」
「うん。それは知ってる。最近はずっと楽しい。花依が教えてくれるからだけじゃない。私が知ろうとしてるからたのしい」
「ふふっ、それは良かったです。本当に」
心の底から私は嬉しかった。
全智さんの停滞していた時間を動かすことができたから。
変わるきっかけを与えられたから。
推しの成長を間近で見られたから。
……うーん、最後のが過半数を占めてる気がする!
変わらないな、私は。それで良いんだけどね。
私はパンッと手を叩いて料理を運ぶ。
「さっ、湿っぽい話は止めにして、冷めないうちに朝ごはん食べましょっか!」
「……うん!」
タタッ、と歩幅小さく追いかけてきた全智さんは、見惚れるほど綺麗な笑みを浮かべていた。
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