第38話 ツナちゃんとお泊りオフコラボ!③
雑談でそれなりに時間を消費したから、配信を切ったナウ。ナウってもう使わないっけ。古いか。
それはさておき、私に散々からかわれたツナちゃんは、床の上でのたうち回って悶えてる。
うつ伏せになってお尻を突き出しながらピクピク痙攣するツナちゃんは、やはりあざとい歩くセンシティブに見合うだけの扇情さがあった。
こんなことばっかりしてるから私にからかわれるんだよ。
「ほら、ツナちゃん。復活しないとお尻叩くよ」
「もう好きにしてくださぃぃ……」
じゃあ、遠慮なく、といけるほどに私は変態じゃないし、Sである自覚はあるけど行き過ぎた性癖は持ち合わせてないから勘弁。
色々な意味でツナちゃんとは相性が良いのかもしれない。
「仕方ないなぁ……。とりあえず、台所借りるよ? ご飯できるまでに復活してよね」
「花依しゃんの手料理……」
「思考回路が復活してないよ、ツナちゃん」
脳死で心の声を呟くマシーンと化しているツナちゃんに軽くツッコむ私。これを配信で披露したら、またてぇてぇって言われるんだろうねぇ。
実際可愛いのが腹立つ。
私は意趣返しに、ツナちゃんの剥き出しの背中をツゥーとなぞっておいた。
「うひゃい……っ!?」
これでよし。
私は更に悶えたツナちゃんを放って台所に向かう。
事前に許可は得てるから、勝手知ったる様子で冷蔵庫を開けて、ある食材で何を作ることができるか頭の中で組み立てる。
料理は慣れ、って言うけど、自分の頭の中にあるレシピを工夫とかしながら、そこにある分量で組み立てる技術……これができるようになれば苦労はしない。
全智さんがその域に達するにはまだまだだけど、習得スピードは速いから期待してる。って師匠面したり。
「さぁて、まあ、オーソドックスにハンバーグでも良いかな。ツナちゃん童心に帰るどころかずっと童心だし」
好きな食べ物もハンバーグ、オムライス、カレーライス、とか言ってたはず。それ自体は全然悪いことではないけど、ツナちゃんが言うと子どもっぽさが全開になる。
ハンバーグは造り手によって味が180°変わることもあるし、そもそも料理って一手間をするかしないかで美味しさが変わる。
どうせならツナちゃんには喜んでほしいし、全力で作ってあげよう。
でも、そろそろ悶えるのから回復して?
☆☆☆
「美味しいっ、美味しいっ! 美味しいです……っ!」
「うんうん、落ち着いて食べなさい」
「は、箸が止まらないんですよぉ!!」
掻き込むようにハンバーグにがっつくツナちゃんは、私のハンバーグがお気に召したようで瞳をキラキラしながら一心不乱に食べている。いや、大袈裟すぎるでしょ。
その様子をジト目で見ながら箸を動かす私は、ツナちゃんが一段落着いたタイミングで話しかける。
「ねえ、ツナちゃん」
「ふぁい? なんでふか?」
「……まあいいや。……あのさ、今日、どこか上の空で隠れてため息吐いてたよね? あ、怒ってるとかそうじゃなくて、何かあったんでしょ?」
ツナちゃんは、まさか気づかれてるとは思ってなかったのか微かに目を見開くと、話そうとして口の中にハンバーグが残ってたことを思い出し、もぐもぐゴクリと一呼吸置いて言った。
……食い意地すごいね?
「……花依さんって、細かい感情の機微には気づきますよねぇ……」
どこか含みのある言い方に首を傾げると、ツナちゃんはジト目で睨むように私を見た。
「怒ってる?」
「そうですよぉ……! 私は怒ってるんです。激怒です」
「へぇ、どうして?」
「…………」
茶化すようにわざとらしく怒りをアピールするツナちゃん。どこか真意を問い正して欲しくない雰囲気を感じ取った。
でも、私は緩んだ空気を元に戻すように、ジッとツナちゃんを見つめて再度問うと、ツナちゃんは口を噤む。
一応真面目なツナちゃんが配信中に上の空になるなんて、相当な悩みを抱えているはずだ。
仲良しだから。同期だから。てぇてぇのため。
色んな言い訳は思いつくけれど、結局私はツナちゃんが心配だから一線を踏み越えて、ツナちゃんのデリケートな心に触れようとする。
私は一拍置いて優しい声音で語りかける。
「聞いて欲しくない?」
「…………」
ツナちゃんは無言のまま頷いた。
そっかそっか。聞いて欲しくないのか。うん。
私はニヤリと笑う。
「ねえ、ツナちゃん。私ってお節介なんだよ?」
「……あ」
ツナちゃんも思い出したのか、ハッとして私を見た。
いつの日か、私がクラちゃんのことで悩んでることに気がついたツナちゃんが言った言葉。
私はお節介だ、って。でもそれで良いんだ、ってツナちゃんが言った。だから私は好き勝手にお節介しようって思えた。
「ツナちゃんや。自分で言った言葉が跳ね返ってきた時の気持ちを140字以内で述べよ」
「ツニッターの文字数制限……!? この状況において出る言葉じゃありませんよねぇ!? もうちょっと……! 優しく労ってくれるような言葉ではなく……っ!?」
「ほら、良い加減シリアスパートもやりすぎたし」
「謎の配慮を私に発揮してほしかったですよぉ!!」
いつも様子でツッコミを入れるツナちゃんに笑うと、どこか吹っ切れたようなツナちゃんの表情が視界に入った。
どうやら私の言葉はツナちゃんに届いたらしい。……私の言葉っていうか、ツナちゃんが自分で言ったことが後々高速ブーメランで跳ね返ってきただけだケド。
あざやかなフラグ回収はさすがとしか言いようがない。ツナ虐は一般性癖だね、うん。
「それで……?」
「うっ……。そ、そのぉ……。い、言いますよ! 言いますからニヤニヤして私を見ないでくださいよぉ!」
「分かった分かった。 真面目に聞くから」
「い、いえ、真面目に聞かれるのも後々羞恥心的なアレに苦しまされると言いますか……!」
うーん、本当に真面目でシリアスな内容かと思ったら、ツナちゃんの反応的にもどうも違うような気がする。
思い詰めるんだから、悩んではいるんだろうけど……。
私はニコリと話を促す。
ツナちゃんは観念してポツポツと話し始めた。
「そのぉ……。寂しかったんですよ。時々配信でコラボはしますけど、0期生の全智先輩みたいに家にお邪魔するような関係じゃあありませんし……。花依さんは優しいです。でも、その優しさが時々辛くなるんです。優しくされる度に、私はつけあがってもっと、もっと仲良くなりたい、って思っちゃうんです。ほ、ほら!! 花依さんって好感度管理上手いですし、そこまで文句はありませんよ!? でも、もっと私とのてぇてぇが必要なんじゃないかな、って思った次第であります! はい!!」
ツナちゃんらしくない元気な締めに私は苦笑する。
噛み砕いてみれば、若干の嫉妬と微量の湿気。誤魔化しと照れ。そこに交じる確かな本音。
「そっか。ごめんね。ツナちゃんの好感度を測り間違えてたよ」
「言い方ぁ……っ!!」
「ごめんって。ツナちゃんが私を好きなのは分かったけど、私だって普段言わないだけでツナちゃんのこと好きなんだよ? 配信関係なくさ」
「……そ、そうですか」
明らかに羞恥と嬉しさの混じった表情のまま、真っ赤に染まった頬で呟くツナちゃん。
あざとい。
私はツナちゃんの両手を握りながら笑う。
「良いんだよ別に。クソデカ感情を私にぶつけたって。言わない方がストレス溜まるだろうし、私だって言われなきゃ気が付かない。悶々するなら私に要望を叩きつけてよ。私のてぇてぇに賭けて実現してみせるから」
「……ぬぐぅ……くぅ……ズルい……っ」
ツナちゃんの真っ赤な頬が燃えるように赤くなる。
必死に耐えるツナちゃんに、私はあらん限りの美少女フェイスの力で見つめる。
「ぬぐぐぐ……ぐぐ」
見つめる。
「うぅぅぅ……」
見つめる。
「……うわぁぅぅ」
見つめる。
「──きゅう」
よし、堕ちた。
私の見つめる攻撃に気絶したツナちゃん。
きっと次起きた時には、自分の行動言動その他諸々に悶えるであろうことは予測できる。
どうも根本的な解決には至ってないような気がするけど、時々ガス抜きさせてあげたらまあ、大丈夫でしょ。
「とりあえずミッションコンプリート」
ーーーーー
遅れてすみません!!
新生活の準備その他諸々でごたついておりました!
>まあ、大丈夫でしょ。
フラグです。
次回は掲示板回で触れた学力王決定戦編です!
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