第31話 【番外編】花依がいない全智さんの1日

 0期生、全智の朝は早い。

 元々夜型だった全智だが、花依からの細かいオカン注意を受けて朝が強くなりつつある。

 

 ムクリとパソコン前のソファから起きた全智は、寝ぼけ眼で辺りを見渡し一言。


「花依……いないな」


 当然のことなのだが、花依が全智宅に泊まってから以降全智は花依成分不足に陥っていた。

 依存している、とは一概に言えない。ただ、ずっと一人だった全智に対して世話を焼くアホがいれば……まあ、こうなる。

 雛鳥に世話を焼く親鳥。ただし雛から親への感情はクソ重とする。


「ふわぁ……。顔洗お」


 傍らに置かれていたヘアゴムで髪を結びながら欠伸をする全智。ちなみに勿論、全ての発言はリスナーに聴こえている。


コメント

・朝から尊いもん見せんな

・一瞬で目、覚めたわ

・寝言でも花依って呟いてるからな……

・クソ重すぎやろw

・てぇてぇの過剰供給


 顔を洗った全智は、ボサボサの髪の毛のままキッチンへと移動し食パンを焼く。

 お湯を沸かすことしかできなかった全智も、花依の指導により中学1年生程度の家庭科技術を取得していた。


 全智は焼き上がったパンにバターを塗って黙々と食べる。

 この時の全智の脳内を紹介しよう。


(花依と食べたらもっと美味しい。なんで一人で食べたらこんなに寂しいんだろう。久しぶりに家に呼ぼうかな……。でも迷惑に思われたら。……どうしよう)


 花依一色!

 前言撤回しようか。やっぱり依存している。

 どことなく共依存のような気がしないでもないが、一方がクソ重なのは間違いないだろう。


 食べ終わった全智は、マイクを装着して話し始める。


「みんなおはよう」


コメント

・うぃーす

・ちわちわ

・学校行く前に聴いてるぜ

・花依音助かる


 花依音? と全智は首かしげる。

 知らないのも無理はない。つい一週間前ほどに出来た概念で、全智が花依のことに対して無意識的に言及することを指しているのだ。


「今日は適当にダラダラする」


コメント

・いつものことだろw

・今日は、じゃなくて今日も

・全智の生活ルーティンをリスナーの方が知っている事実www


「私の生活はリスナーと花依に支配されてるから当然」


コメント

・突然の花依音

・あながち間違いではない

・俺らより花依の方が支配している件w

・支配っていうか教育じゃね?www

・それな


 鈍感気質な全智だから、この24時間配信は成り立っている。自分のことに無頓着とも言うが、人に見られ聴かれることを仕事にしている全智が、すべての行動を視聴者に左右されることは当然の話だ。


 そのことを苦にも思っていないから全智は人気がある。


 全智は黙々とパソコンを操作する。配信用でなくサブの普段遣いの方だ。


コメント

・最近よくパソコン弄ってるけどなにしてんの?

・何か仕事するようなことあったっけか


 そんなコメントが目に入った全智は、若干ドヤ顔を浮かべつつ嬉々として話す。


「ふふふ、最近は私と花依の二次創作書いてる」


コメント

・いや、草

・地産地消すんなよ

・花依と会えないから寂しさを埋める代償行為なんですね、泣けます

・遂におかしくなったか 

・花依のセルフ声真似と同じくらいやべぇぞw


「完成したら公開するから読んでほしい」


 全智はクリエイターである。

 家事以外は基本的にハイスペックな全智は、プログラミングもできるし、絵も描ける。小説も漫画も描ける。

 ただ著しくやる気がなかっただけだ。


 しかし、あまりにも花依成分が消え失せた全智は、若干の深夜テンションのままに書き上げている。


 ……していることの恥ずかしさを公開してから後悔するのだが、それはまた別の話。



コメント

・花依ガチ勢やん……

・何を今更w

・花依を愛し、花依に愛された女やぞ

・自分と花依の二次創作は強すぎるwww


 未だ発展途上の羞恥心のせいで、全智はなぜ笑われているのか理解ができない。本人は至って真面目なのである。

 

 


 そんなこんなで時間が経ち、時刻は夕方になっていた。


 窓から射す夕陽のせいだろうか。

 どこか全智はアンニュイな気持ちでいた。

 物憂げにため息を吐きながら彼女は一人の女性を想う。


「花依……。会いたいな」


コメント 

・うぐっ……

・やめろぉ……てぇてぇがァ

・早く会ってやれよ花依


 ネタ的雰囲気もあるが花依に非難が集中する。

 ……補足しておくが、必ず日に一回は花依とメッセージのやり取りを交わしている。直接会いたい気持ちも分からなくはないが。


 すると、ピロリンと全智のスマホに通知音が鳴る。


コメント

・こ、この通知音は……!

・待っていたぞ!

・ナイスタイミング!!

・やっばりお前が最強だよ



 全智はメッセージを見て、ぱぁと顔を輝かせる。

 そのまま立ち上がって、リビング周辺を歩き回りソワソワし始めた。


「花依がうちに来るらしい……!」


コメント

・語尾が強い

・一気に全ての表情が明るくなってて草

・これがてぇてぇや……

・ソワソワしすぎwww

・【花依琥珀】今行くから待っててね♪

・花依おるやん!

・早よ来い!

・ちゃっかり配信見てるしw

・これは泊まりルート来たぁぁ!


 一気にコメント欄が騒がしくなりはじめ、同接もぐんぐん急上昇していく。 

 SNSのトレンド欄には『花×全お泊り』の文字がある。


 全智は花依からのコメントを見て小さくはにかむと言う。



「うん、待ってる!」





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


クール系がデレる時ほど尊いものはない。

ちなみに全智の寝言の十割が花依関連である()

絆されスギィ!

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