第29話 【番外編】百合ップル観察人の日常

男視点が書きたくなったので書きました。


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 俺の名前は佐々木ささき幸喜こうき

 三度の飯より百合が好き。

 座右の銘は百合の間に挟まるな。


 陰キャを極めすぎて教室で百合小説を読むしがないイケメンである。容姿に対する自信だけはあるんだよな。

 普段女子と話すことはないし、百合の邪魔をしたくないから必要な時以外は話さないようにしている。


 趣味はクラスメイトで百合カップリングを作ること。

 妄想は自由だと思うんだ、うん。例えそれが如何にキモいことなのかを自覚していてもやめられないことはある。


 だが聞いてほしい。

 最近はマジでユリユリなんじゃねぇかと思う二人がいる。

 

 夢見ゆめみ蓮華れんげ川内かわない江里子えりこ

 片や美少女。片や普通の女子。


 何とも素晴らしい百合の香りがする。

 普通女子の川内さんだが、俺としては別に普通と言っても良いところは全然あるし、サバサバしてるところに好感がモテる。 

 なぜか嫌われてる俺だけど、女子からの好感度はぶっちゃけどうでも良い。


 そんな二人は学校ではいつも一緒にいる。

 それ自体は珍しくない。意味もなく友達に抱きつくのが女子高生だ。ベタベタするのは俺としても百合成分の補給が捗ってありがたい。


 だが!!!!!


 夢見さんと川内さんは仲は良いが、一定の距離感がある。互いのパーソナルスペースをしっかり守った上で接しているのだ。

 それだけでも親友&百合ップルって感じがして鼻血が出そうになる。


 なのに!!!

 時折そのパーソナルスペースが侵害される時──


 ──俺の鼻から鮮血が迸るのである。



 今から例の一つを紹介しよう。



☆☆☆


Case 1


 あれは俺が夏の暑い日に学食に行った時だ。

 うちの高校は結構在籍人数が多いためか、学食は大混雑していて席が空いていなかった。

 かといって相席を頼むにはハードルが高いし、食事くらいは一人で取りたい。そんな陰キャ心があった。


 たまたま角が空いているのを発見した俺は、少し安堵して黙々とカレーライスを食べていた。


「あ、ごめん。相席良いかな? 他に空いてなくてさ」

「ちょっと、やめようよ。イケメンの側でご飯食べたくないぜ、私」

「川内ってイケメンにトラウマでもあるの? 拒否反応大げさすぎない?」


 漫才的やり取りをしながら話しかけてきたのは、件の夢見さんと川内さん。この頃から川内さんには普通に嫌われてた。


「あぁ、全然構わないよ」   


 内心キョドりながらその言葉を言うと、夢見さんは「ありがとー」と軽く言って、川内さんと対面に座った。

 意図せずに百合の間に挟まりそうになった俺は、軽く血が出そうなほどに唇を噛み締めながら、カレーライスを大急ぎで頬張っていた。


「川内さー、またラーメンじゃん。栄養のこと気にしたら?」

「良いんだよ、別に。金払ってるんだから好きなもの食べたくね?」

「金で健康を買うのが今の世の中だよ」

「世知辛ぇ……」


 何とも身も蓋もないことを言うな……。

 達観してるのか諦めてるのか、どちらにせよ真理ではあると思う。

 

「本人の自由だから私はとやかく言わないけどさ。太るよ? 最近ウェスト気にしてるの知ってるよ?」


 直球言ったぁー!

 と思いながら、俺は川内さんの反応が気になった。

 大抵こういう場合は、キレるか悲しむかどっちかだ。

 だが、川内さんの場合は違った。


 ケッ、とやさぐれた目で吐き捨てながら彼女は言う。


「いいんだよ。私みたいなモブは太ってても痩せてても変わりゃしないでしょ。しいて言うなら肉付き良くなった? とかからかわれるだけじゃね」


 強っ。どこでそんな感性身につけたんだよ。

 明らかに華の女子高生がしていい目つきじゃないだろ。


 しかし、問題はここから。

 俺の鼻血が炸裂する瞬間がこちらである。


 ──夢見さんはふふっ、と笑いながら、対面の川内さんの頬に手を当てながら言った。


「まあ、私は太ってても痩せてても川内が好きだよ。でも、早死にしてほしくないから健康にも気を使ってほしいかな?」

「ちょ、ちょ、ちょいちょいちょい。そうやってすぐにイケメンオーラ出すんじゃないよ! 照れるでしょうが!」

「チョロい川内が悪いと思うなぁ」

「うるせぇ! てか、ここ公共の場!」

「どこでやっても照れるじゃん」

「そういう問題じゃない!!」


 顔を真っ赤にして叫ぶ川内さん。

 対称的に余裕を持った笑みで飄々と川内さんを弄ぶ夢見さん。


「……ごちそうさま」


 俺は全てに合掌しながら席を立つ。

 


 そしてその足のままトイレに直行する。  

 ……よし、人はいない。

 ポケットからハンカチを取り出し、口を当てて叫んだ。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」


 

「てぇてぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!」



「できることなら150m先で観測したかったあああ!!」


 俺のこと途中から存在消してたよね!?

 ありがとう! 俺は感知されずに百合を観測したい!

 あぁ、よかった! 品行方正に過ごしてて!


 傘のないお婆さんに傘をあげ、転びそうな男の子を助けて、痴漢されてた男の娘を庇い、コンビニ強盗を撃退し、捜し物を6時間一緒に探して良かった!


 

「人生最高でぇぇぇす!!!」





 

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