第20話 火種の気配と怒りの決意は前者二割

 全智さんのマイク切り忘れ事件から二日経った。

 なぜか私の登録者数は膨れ上がったけど気にしないことにする。いや、無理。気にする。

 

 今や私のチャンネル登録者数は36万人だ。何がどうなったらこうなるか理解し難いんだけど、まあコラボのお陰かなぁと思っている。

 それぞれツナちゃんは18万人、クラちゃんは11万人と大きく数字を伸ばしてきて私は嬉しい。Vtuber黎明期後とはいえ、未だ発展途上のVtuber界隈でこれほど数字を伸ばすのは容易なことじゃない。

 そう考えるとやっぱり全智さんは化け物級である。


「200万人とか到達できる気がしないもんね。ありゃ無理。配信頻度もそこまで高くないし」


 私生活が落ち着けば増やしても良いとは思うんだけどねぇ〜。如何せん勉強だとか友達付き合いで結構の日数を消費してしまう。

 勉強は大学範囲まで履修してるし復習するだけなんだけどね。


「ソロ配信で30万人突破を祝うとして……スパチャも解禁されたし頑張らなきゃ」


 今現在、私はネットで所謂エゴサーチということをしている。自分の評判ってどうしても気になっちゃうんだよね。

 

 某掲示板では絶賛というか面白がっているコメントが多い。


『さっさと全員堕とせw』

『あぁ、もうじれってぇな(ry』

『なお、いやらしい雰囲気は二日前にあった模様www』

『あれは最高だったw』


 とかとか。

 上手く需要と供給が回せているようで私も安心する。視聴者のニーズがてぇてぇだと分析してアピールしたわけじゃないんだけど、私の夢と噛み合ってることが昨今の急増した登録者の現状だと思われる。


「ほほほ〜、言われんでも堕とすよ。完膚なきまでに」


 ここらで私にとっての堕とす。

 それを再確認していこう。


 『堕とす』。その意味は単に相手を絆すわけじゃない。

 私を信頼し、心も体も満足させて全ての世界を色づかせる。私を起点に幸せと喜びを享受させる。

 これこそが堕とす意味だ。


 あと、てぇてぇ。


 前者二割。後者八割ね。


「……うんうん、コラボは満足してるけど、ソロが少し物足りない印象かな。もう少し企画を盛り込んでみようかな。ただの雑談じゃ飽きちゃうもんね」


 大方意見を収集し終えた私は、メモ帳に今後の展望を記録する。

 私は私のやりたいことを全力で遂行する所存だけど、だからといって視聴者をおざなりにしてはならない。私という存在は見てもらえるリスナーがいてこそ成りなっているのだ。


 勢いですることも多いけど、基本私は計算タイプだ。

 計画を立案して実行することは得意なのだよ。台本通りにこなしたりね。もちろん、自分なりに工夫して予定以上の仕上がりにするケド。


「さてさて〜……ん? んんん? あ?」


 低い声が口をついて出た。


『クラシーとかいうやつ人気者の汁吸ってるだけだろw』

『大して面白くもないのにコラボで登録者を増やす女w』

『魔王とか弾いてるだけじゃんw』

『それすらもプロのを流してるだけだったりしてwww』

『あり得るw』


 アンチスレでもない応援スレにこんなアンチコメントが押し寄せていた。ファンの風上にも置けない。

 私はクラシーという偉大なVtuberが、どれほどの努力を積み重ねてきたかを理解している。


 でも、Vtuber、並びに配信者や露出があると、批判の意見が来ることは理解できるし、それは仕方ないと思っている。

 どうしても避けることはできないし、ただの暴言ならともかく感想は人それぞれだからねぇ。


 だからと言って、プロの演奏を流している、というコメントだけは看過できない。

 怒りで歯を噛みしめる。  

 ギリィ、と歯軋りが鳴る。


「……っ、ダメだ。私が怒ってなんになる。人気者に悪評は憑き物だ。応援だってあるんだから」


 ……だけれど、風は悪い。

 仄かな火種が今、撒き散らされている。それは蔓延し、時により爆発する。それこそが炎上。疑いから始まる噂は尾ビレがついて飛び回る。





 音楽系Vtuber、クラシー。


 彼女は前世でチャンネル登録者347万人を超える、超絶大人気Vtuberだ。

 デビューしてから十年後の話だけど、将来的にクラちゃんが全智さんをも超える人気を誇ることは決まっている。


 だけど……!


「焦れったい。……違う、悔しい。前世の時じゃない、今のクラちゃんの良さだっていっぱいある。声を大にして言える」


 けれど……いや……どうしてクラちゃんはのだろうか。


 

 稀代の

 僅か一年で登録者100万を超えた彼女の実力は、数字を見れば明らかだ。初期に見ていたわけじゃないから、いったい彼女がいつ歌い始めたのかも定かじゃない。



 仄かな火種が発芽する前に。


 私は決意した。



「うん、堕とそう。前者二割の理由で」




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第一章、最後の超難関クラシーを堕とそう

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