第19話 でろでろに全智さんを甘やかそう② #せんしてぃぶ

や り す ぎ た

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 私は全智さん協力の下、オムライスを作り上げることに成功した。……序盤に全智さんが卵の殻割りに失敗して盛大に落ち込んでたケド。

 ちょっとしたコツを掴まないと卵の殻を綺麗に割るのは難しい。特に焦ってたら失敗しちゃうかもね。

 私は片手で綺麗に割れるけど!


「できた」

「おー、フライパンの扱い上手くなりましたね」

「うん、練習した」

「偉い偉い」


 全智さんのサラリとした髪を撫でる。

 くすぐったそうに体を震わせながら、はにかむ全智さんは私から見ても幸せオーラが感じられる。尊みがすごいです。


コメント

・カハッ……!

・てぇてぇ

・語彙力が木っ端微塵になるのだが

・たすけてぇぇ


 コメントも死屍累々としている。無理もない。

 私みたいにてぇてぇ耐性を養わなければ即殺される。全智さんは攻撃力だけなら9999はあるからね。

 防御? 紙でしょ。ぺらっぺらよ。


 私たちは食卓へ移動して皿を置く。

 ふんわり柔らかな卵の乗ったチキンライス。黄金色に輝く艷やかな卵は努力の証拠である。

 若干の感動を覚えていると、全智さんがおずおずとケチャップを手渡し言った。


「その……だいすき、ってケチャップで書いてほしい……い、イヤだったら無理しなくても──」

「──もちろん書きますとも!!」


 ひったくる勢いでケチャップを強奪した私は、丁寧さを心がけてオムライスにメッセージを書く。

 

 なんて愛くるしいお願いなんだ。私じゃなきゃ死んでた。えぐい。心をてぇてぇで抉ってくる。

 寂しさも楽しさも嬉しさも、全てを私に受容してほしい。悲しいことがあれば埋めてあげたい。


 そう──これは母性だ。


「だ、い、す、き……と。どうです?」

「ありがとう」

「アッ──」


 浄化された。

 全智さんの可愛らしい唇が弧を描く。伝えられた言葉と相乗効果で、その破壊力は凄まじい。


コメント

・ハッ!正気に戻った!

・コメントを打つことすら勿体なかったわ……

・てぇてぇ!

・これで一年は仕事頑張れる


 危ない危ない。

 久しぶりに限界オタク化してた。いつでも余裕に冷静にじゃないと私じゃない。

 指を咥えて幸せを享受するより指を使って幸せを掴み取るのが私だ。目の前に極上のご馳走があるのに食す(意味深)ことをしないなんてダメに決まってる。


 よし。変なこと呟いたら落ち着いた。


「じゃ、食べましょうか」


 笑顔で全智さんを見つめる。

 すると、先程同様にもじもじと遠慮がちに何かを言おうとした。


 あ、嫌な予感する。



「その……食べさせてほしい」

「アッ──オッ──くっ、耐えた」

「どうしたの?」

「──抗ってました。どんとこいです」


 私から提案するわけじゃなくて、全智さん側からの要望っていうのがてぇてぇでしかないよね。自分の欲望に抗わず私に頼る。とても光栄で嬉しいことだよ。


 私は全智さんの隣に座る。

 どこか緊張がちな全智さんの頭を撫でて落ち着かせつつ、私はスプーンによそったチキンライスを運ぶ。


「はい、あーん」

「ん。……おいしい」

「二人で作りましたからね」

「うん」

「次は私にも食べさせてくれませんか?」

「えぅ……わ、わかった」


 悪戯な笑みを浮かべた私は、全智さんの正面を向いて口をあける。目を瞑って微かに口を空けるその格好はキス待ちのようだ。

 それを幻視したのか全智さんの顔は赤い。

 スプーンを持ち上げる全智さんの手はふるふると震えていて、傍から見ても緊張しているのは丸わかりだ。しかも、初期位置から全く動かない。


 私は震えるだけで進まないスプーンに自分からかぶりつく。


「はむっ」

「……っ」

「ごちそうさま♪」

「あぅ」


 ペロリと唇を舐めると、その仕草だけで全智さんは顔を真っ赤に染めあげる。瞳の赤色と同じくらい赤いんじゃないかと思う頬は熱を帯びている。

 チョロすぎない? 意識してやってることと無意識でしていることもあるけど、勘定しても全て赤面してる気がするよ。


コメント

・悪の心が浄化された

・全人類見ろ

・尊いっててぇてぇって読むんかwwwwww俺ずっとwwwwwwwww こんなのが見たかった

・↑構文からのガチ本音で草

・ここまでデロデロに甘ぇ空間は見たことないわ

・全智が堕ちて堕ちて堕ちきってる……

・花依の言うこと全て聞きそう

・間違いないw


 いや、別にそれは望んでないんだけどさ……。

 全智さんが幸せになってくれれば私は満足だよ。もう堕ちたし。




 その後、暫く無言で食べさせ合いを行った。

 全智さんはお腹も心も満足のようで、むふー、と腹を擦りながら私をぼぅっと見つめていた。

 

「どうしました?」

「ううん、たのしいなぁって」

「……私も楽しいですよ。こうやって誰かと作り上げる『楽しい』が」

「花依だから。私を見てくれた花依だからうれしい」

「そっか……じゃあ、耳かきASMRするよ」

「なんで……!? 文脈の繋がりが見えない……」

「細かいことは気にしないでください」

「唐突でさすがに気にする」


コメント

・いや、草

・さすがに分からんw

・急にどうしたんだよw

・一気にギャグセン高くなってきたな

・耳かきASMRは草


 えーい、いいんじゃい。長過ぎるシリアスな雰囲気は苦手だからね。強制的に空気を変える。これぞ私の得意技だ!


「そーれ!」

「うわわ」


 呆然とする全智さんをお姫様抱っこでソファまで運ぶ。

 そのまま私の太ももへIN。これぞ必殺、むちむち膝枕である。


 そして懐から取り出すはLEDライト付きの耳かき専用道具。お値段1万5000円!

 

「ちょっと、はずかしい」

「大丈夫です。慣れれば平気ですよ。……慣れるまで遊ばせていただきますケド」

「うん? なにか言った?」

「いえいえなにも」


コメント

・おいこらw

・マイクで直に聞こえてるから呟き声聴こえてんだよなぁw

・遊ばせていただくてw

・これはてぇてぇの気配


 私は慎重に耳かきを操る。

 全智さんは耳が人一倍敏感で、特に人体の中でもデリケートな耳だから細心の注意を払わねばならない。細かい操作は得意だから自信はあるけども。


「んっ」

「おっと、センシティブ」


 耳の中に侵入させると、全智さんは早速嬌声をあげる。本当に弱いらしい。頬も耳も真っ赤でなんとも分かりやすいことか。


「はい、じゃあ取っていきますよ〜。こしょこしょこしょ〜……ふぅー」

「あぅ、いやっ、あっ。んんんん〜ッッ!」

「我慢してくださいねぇ〜ほれほれほれ」

「うぅ、いじわるぅ」

「えっろ」


 嬌声混じりの涙目で私を見る全智さんは、控え目に言ってもセンシティブで、私は思わず本音を呟く。


コメント

・おい、本音漏れてんぞwww

・これはえろい

・てぇてぇすぎてwww

・なにこのやり取り、神か???


 これ以上はBANされたいけない、と本気で耳かきを遂行する。

 

 両耳が終わった頃には、くたっと力なく私の膝枕を堪能する全智さんがいた。


「ひどいめにあった」

「可愛すぎる全智さんが悪いです」

「理不尽……」

「世の中理不尽だらけですよ。それと一緒」

「絶対ちがうとおもう」

「細かいことは気にしたら負けですよ!」

「花依がその言葉を言う時は細かいことじゃない」


 

コメント

・よくわかってらっしゃるw

・全智がツッコミに回ってんのおもろいw

・これはこれでてぇてぇ

・よき

・草


 ぐぬぬ、私のことをしっかり理解している……!

 でも、まあ私の口八丁な言い訳はまだまだあるから問題ない。煙に巻くのも得意だからね。あれ、私の特技悪辣すぎない??



 そんな会話を交わしながらいること数時間──その間ずっと私の膝枕──そろそろ夜の帳が下りた。

 

「さて、夜ご飯でも作りますか」

「カレー食べたい」

「よし、任せてください」

「私も──」

「全智さん、手伝ってくれますか?」

「うん……!」


☆☆☆



 カレーを食べて満腹になると夜も遅いのもあって眠くなってくる。


「お風呂一緒に入ります?」

「さ、さすがにむり。はずかしいから」

「私も自分を抑えきれなさそうなんで勘弁してあげます」

「今日は……?」


コメント

・ナニするつもりだ花依w

・風呂中は何も聴こえんからプライバシーはある

・見えないからこそ想像できるナニかがある

・↑解釈一致www


「まったく……リスナー諸君は変な想像ばかりしてるなぁ……そんなことちょびっとしか思ってないのに」

「変な想像?」

「純粋な全智さんには関係ないから大丈夫ですよ」


コメント

・純粋な全智に色々教え込んだのは誰だよ、言ってみろ

・ちょびっと思ってんじゃねぇかwww

・逃げろ全智

・もっとやれ花依

・↑相反してて草



「じゃあ、先に私入りますね」

「わかった」



☆☆☆


「花依の残り湯……」


コメント

・まずい、花依の侵食を受けている!

・その発想はヤバくねwww

・花依より変態説あんぞw


☆☆☆



 二人ともお風呂に入り終えた。

 全智さん宅の風呂は、風呂というより大浴場で、温泉が好きな私からしても満足度が非常に高いものとなった。これは羨ましい。

 

 互いにホカホカした状態である。

 私はピンク色のごく一般的なパジャマを着ている。女のコらしさを全面に押し出すとともに、第一ボタンを空けることによって色気も醸し出している。

 現に少しばかりの視線を感じている。


「全智さん、見すぎ」

「っ、み、見てない。きのせい」

「ふふっ」

「うぅ」


 分かってるよ、と言わんばかりに微笑むと、恥ずかしげに全智さんは俯いてしまった。

 ……人のこと言えないくらい私も全智さんのこと見ちゃいそうだけどね。

 白のネグリジェ一枚を着た全智さんは、幼い肢体ながらも真っ白な肌と艷やかに流れる髪と、私以上に色気を出していてたまらない。

 可愛さを表現しながらも、培った年齢の色気。

 若々しさの中にある大人の気配。


 全智さんの魅力はそれ以外にも多くある。


 この前知ったけど、全智さんは20歳らしい。

 全てが可愛すぎて吐いた。


 どこまでも無垢で愛らしくて弱々しい。

 それでいて意思はハッキリしていて、決して無知じゃない。悪感情には敏感だろう。


 守りたい。この笑顔。

 おっと、再び限界化しそうになった。


「じゃあ、そろそろ寝ますか?」

「や、やっぱり一緒に寝るの?」

「もちろん。嫌でした?」

「ううん、嫌じゃない。でも一緒に寝てくれるなら……抱きまくらになってほしい」

「うぇ、い、良いですとも」


 抱きまくら?

 大丈夫か、私の体と精神持つか?


「花依に触れると安心するから。気持ちよくねむれるとおもう」

「あはは、私を安眠グッズにしようとしてます?」

「そうかも」

「ちょいとそれは見過ごせませんねぇ。全智さんには抱きまくらじゃなくて抱かれまくらになってもらいましょうか」

「え、あっ」


 再びお姫様抱っこ状態で私たちは寝室へ向かう。

 あんまり使っていないみたいだけど、そこには天蓋付きベッドが、ドンッと構えている。白のレースで区切られたベッドの入口を開けて、私は全智さんを優しく抱きながら寝転がる。


 さすがに距離が近い。

 互いに見つめ合うように肌と肌を接着させた状態で、小さな体から伝わる体温と、腰付近に感じる微かな膨らみが際立つ。


 ふむ、残念だったリスナーよ。すでにマイクは外している。寝る時は無防備になってしまうから、そこは看過できない。

 今しばらく私だけが全智さんを独占しよう。


「は、花依。近い」

「そりゃ抱きついてるんだから近いでしょうよ」

「このまま寝るの……?」

「ええ、もちろん」

「……でかちちで窒息しそう」

「言い方ァ……!」

「でも柔らかくてきもちいい」

「あんまり動いたらお尻揉みますからね」

「べつにそのくらいなら……」

「あんまりそういうこと言わない方がいいと思いますよぉ〜?」

「ひぅ、本当に触るの……?」



コメント

・こいつ、全智側のマイクがオンになってんの気づいてないんだろうなぁ……

・何度やらかせばいいんだ

・てぇてぇというか最早それすら超越してるわ

・リスナー全員賢者になってんの草



 



 

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