第5話 ソロだからメスガキ(笑)配信 #堕とせ花依

 夜が更ける前に全智さんの家からお暇して一日が経った。

 寝れないかなと思ったけど引くほど熟睡した。

 今日は祝日だから学校もないし配信でもするか。


「最低、月5回配信って優しい方だよね、結構」


 個人勢でなく企業に所属している身として、月ごとに『何回まで配信しなさいよ〜』というノルマが設定されている。

 企業ごとにピンキリだけど、うちの肥溜めは月5回以上の配信でノルマクリアとなる。良心的だね。

 これは社外秘で、大学生を含む学生の人が多いからだそう。私も高校生だからスケジュール調整が難しい。非常に助かる仕組みだ。


「もうお昼過ぎてるじゃん……。告知してご飯食べたら配信しよっと」


 と、思ってツニッターを開くと、そこには目を疑う光景があった。

 

「──ッ!? フォロワー17万!? 何事!?」


 初配信後に二万人程だったフォロワーがいつの間にか十倍近くまで膨れ上がっていた。驚きなんてものじゃない。バグを疑うレベルだけど!?


「ってことはミーチューブの方も────アッ──」


 思わず汚ねぇ声が出た。

 いずれはトップVtuberになってやるぜ! という気概は十分にあったものの、それはステップを踏むこと前提の話。

 一ヶ月で五万人でも目指そうと心の中で誓っていたのに。


「登録者……に、20万……17万も増えてる!?」


 待て待て落ち着けクールにいこう、私。取り乱すのは私らしくない。いや、私らしいわ。昨日を思い出せ。

 ……とにかく。


 心当たりはただ一つ。


「昨日の全智さんとのコラボが大きいか……。結構全智さんのリスナーが流れ込んでるみたいだね」


 確かに二百万人も登録者がいれば大きな飛躍もする。

 しかし、予想以上だ。あり得ないとまではいかない数字だが、想像を大きく超えたのは事実。


「別に最終目標がてぇてぇだし数字は二の次なんだけどさぁ……素直に喜べない!! 私の素バレのお陰じゃん! あれ!」


 メスガキで覇権を握るとかほざいた私をぶん殴りたい。やっぱ素直さって大事なんだね。身にしみて分かったけど天邪鬼で行きたい。

 だって、寄生してるみたいで嬉しくないし。どうせなら自分の力とまで言わなくても、胸を張って自分のを言えるくらいには成長したい。

 どれだけ研鑽を積んでも、まだ私はVtuber一年生。


「よしっ、登録者が減らないように頑張る!」


 どのみちしばらく増えないだろうからね。

 コラボメインでいきたいけど許可出るまで時間かかるし、オフコラボなんかは滅多にでないと思う。


 と、気合いを新たにしていると、メッセージアプリ【ザ・コード】から通知がきた。


「およ?」


ーーー

漆黒剣士ツナマヨ『はじめましてっ。同じ二期生のツナマヨです!』

ーーー


「わーお、名前負けした陰キャちゃんじゃん。どうしたんだろ」


 相手は私の次に配信した肥溜め二期生の【漆黒剣士ツナマヨ】。

 どんな厨二病キャラが来るのかと思えば、現れたのはただのコミュ障陰キャだった。私は軽く吹いた。名前負けしすぎだろと。

 とはいえ、その初々しさとによって人気を博している。やっぱり肥溜めクオリティ。


 ビジュアルは、片眼を隠した黒髪の和装美人。

 髪の長さはボブで、常に軽く赤面しているのが特徴で、話し方と声質含めて非常によく似合っている。

 その鈴の音のような透き通る綺麗な声は、私も癒やされた。


ーーー

花依琥珀『はじめまして。二期生の花依琥珀です。どうしたんですか?』


漆黒剣士ツナマヨ『あっ、お返事ありがとうございます!コラボのご相談がしたくて連絡しました!』


花依琥珀『コラボですか。マネの許可が降りれば構いませんよ。ただ堕としますけど良いんですか?』


漆黒剣士ツナマヨ『そんなにチョロくないので大丈夫です!』


ーーー


「ほほう、言ったな?」


 私はニヤリと笑いながら大丈夫です、と言い切ったツナマヨにメラメラと燃え上がるモノを抱く。

 眠気を帯びた目はすでに覚めた。やってやろうじゃないの。


 フフフと笑いながら、私は即座にマネージャーにメッセージを送る。

 たまたま見ていたのか二つ返事で『問題ありません。同期のコラボであれば許可の必要はありませんよ』との言葉が。

 

 まあ、先輩とのコラボは変な軋轢を産むこともあるしね。


 私は続けてツナマヨに了承の返事を送る。


ーーー

花依琥珀『マネの許可が降りました。空いてる日って分かりますか?』


漆黒剣士ツナマヨ『明日はどうでしょうか!あと、敬語不要です!同期なので!私のは素です!』


花依琥珀『オッケー、ツナちゃん。明日の夜9時からでどう?』


漆黒剣士ツナマヨ『ツナちゃん!? か、構いません!』


ーーー


「メッセージ越しなのに生き生きしてるねぇ……。反応見る限り、素で配信してるね、多分。良い意味で裏表なさそう」

 

 コラボの日取りが決まった。

 思いがけずに急遽コラボすることになった漆黒剣士ツナマヨことツナちゃん。

 どう堕とせば良いのか。


 攻略方法も含めて、まずはソロ配信を頑張るぞ!


「あ、お昼ごはん食べないと」




☆☆☆




「はい、キラメク以下略、メスガキの花依でーす」


コメント

・思いの外雑だった

・雑さに磨きかかってて草 

・設定全飛ばしやんけw

・メスガキは嘘だろw


 一時間前に告知しただけだが、同接は一万人ちょっと。今も増え続けているから、新人Vtuberとしては異常な数値だと思う。

 あと、とりあえずメスガキが嘘って言わんといてや。


「祝日なのに予定の入ってない可哀想な君たちに、優しい優しい私が来てあげたよ〜♡」


コメント

・あざとい

・ホッコリするの何でだろ


「煽ってんのに落ち着かないで!?」


コメント 

・分からせ完了後だからじゃね

・自業自得

・花依ママー


「誰がママだ。童貞オタクの世話なんかしたくないよ。どうせ今だってベッドでポテチ食べながら配信見てるんでしょ? ちゃんと片付けよ?」


コメント

・ギクッ(-.-;)

・ママじゃんw

・ふいに醸し出す母性w

・童貞言うな


 童貞は大事だよ。

 Vtuberに傾倒しすぎて童貞で生と性を終わらせた私が言うんだから間違いない。これ以上ない説得力でしょ。


「まあ、それはさておき。朝起きたら登録者増えててビビったんだけど! 何かの陰謀じゃないかって疑ったよ。これも全智さんの赤面のお陰かぁ〜。可愛かったなぁ、あの姿。残念だったね〜、ハンバーグ食べてる時のニマニマした微笑み見れなくてさぁ〜。全智さんってクールゴリラとか言ってるけど、ただの普通の女の子だよ」


コメント

・てぇてぇに命賭けてる女は伊達じゃなかった

・一生分の栄養補給感謝だわw

・まさか肥溜めでてぇてぇが見れるとは思わなんだ

・全智がなぁ……www

・即堕ちだったからなw


「だけどまだ足りない……!! 私は肥溜めのVtuber全員堕とすまで欲求は解消しないよ……ッ! もっと、もっとてぇてぇを寄越せ」


コメント

・瞳イッてて草

・わざわざ白目剥かせんなw

・てぇてぇ欲しいから地産地消した女w

・地産地消は草


 私は美少女だからね。

 やっぱり美少女が美少女と絡む姿でしか取れない栄養素がある。リスナーも満足するし一石二鳥だよね。

 そうだ。ここらでドMのリスナーにサービスでもしようか。


 私は声質を変え、高めで舌っ足らずなカワボに調整して、

 

「ざーこ♡ざーこ♡」


 とハートマークを強調して言ってやった。

 男なんて8割はドMだ。

 メスガキには需要がある……! ドンッ。


コメント 

・なんでだろうか、声かわいいのに萌えない

・素がいい子なせいで煽られてもなぁ……

・HAHAHAメスガキ(笑)


「ボロクソ言い過ぎでは!? 美少女のざーこだよ!? もっと喜ぼうよ! 私なら軽く昇天するくらい興奮するんだけど! もっと……こう……欲望に正直にならない???」


 

コメント

・ナリスギィ!

・その結果百合てぇてぇ過激派あたおかVtuberが誕生したんですね理解しました

・草

・お前が言うのかよwww

・反面教師にします!!


「見習えよ!!!」


 あー、もう! 口調が乱雑になるんだけど!

 男勝りな美少女なんて私のキャラじゃない! ……再三言うけど私のキャラってなんだよ、ちくしょう!


「ぐぬっ、折角今日は君たちに耳寄りな情報を伝えようと思ったのに。告知して驚かそうと思ったのに」


コメント

・拗ね花カワイイ

・かわいい

・かわいい


「ここでかわいいは望んでないの!! ん゛ん゛……花依、好き。愛してる。……よしっ」


 全智さんの声をコピーし、絶対に言わないであろう愛の言葉を自分に囁くことでメンタルを回復する。これぞ本当の地産地消。


コメント

・は?ちょ、え?

・全智?いんの?

・まさかだけど声真似……?

・いや、さすがにこれを声真似って言うには無理だろ……

・地産地消すんなよ

・絶対に言わないであろう言葉だなwww


「言ってない気がするから言うけど、誰のどんな声であっても真似できるよ。男声は喉傷つくからあんまりやりたくないけど出来るし、一度聞いたらある程度完璧に真似できるよ〜」


 これぞまさしく努力の賜物。

 ……まあ、この体自体がかなりハイスペックだったのもある。声の音域が広いから出しやすいうえに、自身がイメージした通りに調整できるから、才能もあったかもね。でもこれは努力だ。

 強い意志の元で行った研鑽は、例えどんな要因があったとしても努力に変わりはない。そうじゃなきゃやる意味がないでしょ?


コメント

・まじかよ

・何となく想像はしてたけどチートだろw

・エグい逸材を入れたな、肥溜め

・これだけで食っていけるのになんでVtuberを……あ、てぇてぇか

・理解早くて草


「ほほほ、そうと分かれば敬いな〜。──と、おっとそろそろ時間だね。告知タイムよ〜」


 私は配信画面に、ドンッと漆黒剣士ツナマヨの立ち絵シルエットを置いて言う。


「明日の夜9時にコラボだよ! 相手はこのシルエットの人! 分かるかなぁ〜? まあ、楽しみに待っててよ!」


コメント

・来たああああぁぁ!!!

・堕ち被害者二人目来たあああ!!

・果たして今回は堕とせるのか!

・よりにもよってあいつかよ!w

・癖強い奴らから狙う習性でもあんのかwww

・頑張れ

・#堕とせ花依

・#堕とせ花依

・#堕とせ花依


 散々言われてるよツナちゃん。

 

 私も明日が楽しみになってきたなぁ〜。

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