第4話 キャラブレ配信 #花依ママ

「……と、いうわけで、二期生の花依がうちに来た」

「その流れに持っていくには些か無理があるのでは!!」


コメント

・草

・草

・無かったことにしようとしてて草

・無かったことにしたいのは花依の方だろwww

・それなw


 そうだけど!

 できないじゃん! もう後戻り無理じゃん!


 私が強くツッコむと、全智さんは目に見えて落ち込む。


「私も……こうなるとは思ってなかった……」

「うっ、私もミュートにしてほしいとも言ってませんし、確かに全智さん、毎回ドッキリしているので予想してなかった私も悪いです」

「……止めようと思ったけど、思いの外手際よく掃除するからタイミングがなかった」

「それはゴミ屋敷なのが悪いです」

「圧が強い」


コメント

・それはそう

・全ての流れを踏まえても全智が悪い

・掃除に並々ならぬ熱があるな、このメスガキ

・全智が平謝りってクッソ貴重だぞw

・いい子


「ハイハイ、私がいい子とかほざく童貞のオタクは黙ってね」


コメント

・一周回ってツンデレに見えてきた

・もうキレない

・どういうスタンスでいくんだこれwww


 私も分からんよ。

 メスガキはメスガキ(笑)になった。かと言って当初のように先輩方にもメスガキポジでてぇてぇを補給することは不可能となった。計画全崩れなんですけど!

 

 ……とやかく、今のスタンスは先輩方には敬語で。

 視聴者にはメスガキ継続じゃい。


「それで。何をする?」

「と、言われましても……堕としたいですけど、そういう雰囲気じゃありませんし」

「堕としたいのは本心なの……? キャラ付けだと思ってた」

「当たり前じゃないですか。嘘だったらあんなに真に迫った顔で言えませんよ。全智さんカワイイですし。隣にいますけど緊張してます。……やーいやーい、オタクども見てるぅ? 君らの推しに触れちゃってるよ私。羨ましいでしょぉ……?」

「切り替えにプロ根性を感じる」

「ちょっと黙りやがれください」


 余計なことを言い出した全智さんを雑に止める。

 仕方ないでしょ、こういう感じにしかできないんだから!


コメント

・雑で草

・ガチ百合過激派は本当だった……?

・一番あたおかな夢だけは本当とか真の肥溜めじゃんw

・そりゃ普通でいい子をあの社長が入れるわけないんだよなぁ……w

・黙りやがれくださいは草

・リスナーにはメスガキなのねw


 そんなコメントが流れる中、ふと全智さんは無表情のまま私をじっと見つめる。そしてずいっと近寄り、目の前に全智さんの美貌が広がり、ひゅっ、と空気の漏れる音が出た。


「な、なんですか。心臓に悪いんで近寄らないでください」

「……? どうして? ただ、髪にゴミが付いてたから取ろうと」

「それならそうと言ってくださいよ。顔面偏差値高すぎてビビるんですから」

「可愛いのは花依も、でしょ?」

「あぁ、この無自覚クール美少女がよぉ……!」


 かぁと顔が赤くなるのを感じる。

 とてつもなく心臓に悪い。ただでさえその場にいるだけで存在感を放つのに、近寄られて甘い言葉を囁かれて……むり。

 限界オタク化しちゃうでしょ。


コメント

・てぇてぇの気配がする

・肥溜め初のてぇてぇ!?

・花×全という概念

・早々に分からされて草生える

・攻められるのは弱いとw

・ふーん、えっちじゃん


「好き勝手言いやがってオタクども! 考えてみてよ! ファンだよ、私は! 正直話してるだけでも限界オタク化するのに、耳元で可愛いとか囁かれた時の気持ち分かる??」

「分からない」

「でしょうね! 囁きましょうか!?」

「良いよ」


 え。

 一瞬思考に空白ができる。

 その間に全智さんは「ん」と私の方へ耳を差し出し、準備を終えている。


コメント

・漫才かよ

・反撃されて固まってる花依カワイイ

・てぇてぇ

・やるのか?……ヤるのか?

・百合豚沸いて……花依自身が百合豚なんだが???

・草


 ……やってやんぜ。やるしかねぇ。

 私だってただの拗れた限界オタクじゃないってことを見せないと、リスナーに舐められる。私はイジられる方じゃなくてイジりたいのだ。他意はない。

 

 私は形の良い全智さんの耳に口を近づけ──意識をガラッと変える。

 声は少し低め。色気のある演出で、


「かわいい」


 と、ただ一言。

 

「──っ、んぁ」


 すると、弾かれたように全智さんは顔を背ける。

 一瞬だけの甘い声。それは、全智さんの隠された性癖の発掘に成功したということになる。

 私は更に畳み掛けようと、逸した全智さんの顔を無理やり合わせて見つめる。


「あれ、全智さん。顔真っ赤だよ……?」

「っ、ズルい」

「どこかで耳が良いって聞いたので、試してみて正解でした」


 私が出した声は、この十数年で身につけた最大の特技。

 1/fゆらぎを用いた相手の心に訴えかけるテクニックだ。ここぞという時に使う。

 1/fゆらぎとは、人が心地よいと感じるリズムのことで、普段の声でこれを発する人はモテたり、初対面でも警戒されにくいなどと言った効果がある。

 これは別段特殊能力というわけでなく、実際に存在が明記されている。


コメント

・てぇてぇ……というか今のはワイも意識もってかれた

・えぐすぎ

・なにおっ始めてんだよwww

・全智が紅潮……!?

・マジで堕とせそうなの草

・花依ハイスペックってマジ??


 養殖ハイスペックだが。

 配信以外は勉強とレッスンしかしてないが。こうなりたい? ずっとVtuberのことしか考えられなくなるぞ。この先は修羅ゾ。


「コレ、堕とせそうだよ……」


 小声で呟く。

 チョロいというわけでもないが、さりとて世間で言われるほど冷徹で無関心なんて程でもない。

 感情を面に出すことが苦手なだけだね。普通の女の子じゃん。


「その声変えるのって元からできる……?」

「いえ、幼少期から鍛えてました。喉虐め抜けば案外できますよ!」

「絶対無理……。というかできてもやろうとしない」

「全部てぇてぇのためです」

「目が本気で怖い」


コメント

・花依の幼少期が気になるわw

・声優でも目指してたんか?今でも普通にできそうなのに

・ガンギマリしてそう

・てぇてぇのために命賭けてそう


「……それにしても、全智さん。本当に可愛いですよね。ケアしてなさそうなのに肌綺麗ですし、多分女子ガチ勢にぶち切られますよ、この艶」

「ケアってなに……?」

「は、ブチ切れていいですか????」


コメント

・女子ガチ勢で草

・伏線回収早すぎだろw

・確かに顔洗うだけで終わりな気がする

・全智のリスナー全員私生活把握してるからなぁ……


 お前のことは全部知ってるんだからな!(物理)

 だからなぁ……自分から個人情報を開示してるからね。そこだけは真似できない。怖いし。守れる力も……あるっちゃあるけども。


「全智さんは……まあそのままでいっか。すでに完全体ですからね」

「よく分からないけど花依もそのままでいいと思う」

「現在進行系でキャラブレブレなんですが????」

「それが花依」

「煽ってます?」


 そんな会話をしつつ、もうすでに時刻は夕方を超えて夜になっていた。永続して遮光カーテンだったから時間間隔が不明だった。全智さんはもとより時間を気にせず好き勝手していたみたいだけど。

 すると、隣でくぅ、と可愛らしい音が鳴った。


「……お腹減った」


 お腹に手を当てて呟く姿は子どものようで、私はくすっと笑いながら提案する。


「もしよろしければご飯作りましょうか? 和洋中なんでもござれですよ」

「カップラーメンならあるけど……?」

「栄養崩れるんでダメです。早死しますよ」

「む、分かった。お願い」

「承りましたっ」


 ビシッとわざとらしく敬礼をして、笑う。

 つられて全智さんも微笑む。やっぱり可愛い。


 私は掃除をしながら把握した家の間取りの記憶を使って、キッチンに赴く。冷蔵庫も設備全てがでかくて多機能だ。羨ましい。


「はぁ……」


 そして、予想通り冷蔵庫の中に調味料しかないことを確認して、手早く財布を持って言う。


「ちょっと買い出し行ってきますね。何が食べたいですか?」

「……はんばーぐ」

「はいはい了解です。行ってきますね」

「ん。お金払う」

「良いですよ。大人しく後輩に奢られてください」


 そう笑って私は全智さんの家を出た。

 廊下の涼しい風に当てられながら、私は誰かのために行動をするのはやはり気持ちがいい、と呆然と思った。

 前世でも世話焼きだと言われたが、今世でも発揮されているらしい。

 私的にはそうかなぁ? と思うが。








 一方その頃。


「……堕ちそう」


コメント

・自業自得で草

・結構深刻な声音してるしwww

・最早花依ママじゃんw

・何気にちゃんと接してくれたのって花依が初めてじゃね

・リアルラブストーリー見せられてる気分だわw


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