3-5 不死の虫
野比沢と別れたわたしは、急いで中野坂上の部屋へ帰った。
傷の痛みはいつの間にかボンヤリとしていて、どこか他人事のようだった。そして、その遠い痛みさえ……、歩いているうちにどんどん和らいでいった。
部屋に辿り着いたわたしは、靴を脱ぐのももどかしく、玄関で蟲を口に放り込む。
部屋は薄曇りの午後に包まれてほの暗い。
舌で蟲を転がすと、それはきめ細かい泡のように口いっぱいに広がっていく。
視界が歪み、周りの音がスッと遠のく。かわりに甘い疼きが頭のてっぺんから足の先まで行き渡る。
わたしは恍惚の中、口の中で広がり溶けていく蟲を舌で味わう。舌がパチパチと光の粒に触れている。
「ふぅぅ……、んん、あはぁぁ……」
熱い吐息。弾ける光の粒が口の中から体の深いところへ降りていく。
あぁ……、気持ち……、いい……。
体中が待ちかねていたように反応する。
肌が泡立つ。毛穴という毛穴が開いていく。心臓が強く、早く脈打つ。
「はぁぁ……、ふぅぅ」
呼吸がさらに荒くなる。ドロっとした何かがお腹の下でじんわりと疼く。
もう……、たまらない……。
『飛跳閃光』
わたしは黒い銃を呼び出すと、期待に膨らんだ震える舌を銃身に這せた。
「んんっ……? 」
銃はツンとした鉄の味がするだけだった。
あの満月の夜にあった神経が混線したような快感のフィードバックがない……。
どうして……?
あの時と何が違うの??
しかし今のわたしには何かを考える余裕なんてなかった。
考えるのをすぐに放棄して、わたしはスルスルと服を脱いだ。
肌に衣服が擦れるだけで、敏感になっている体の表面がサワサワと刺激される。思わず声が漏れそうになる。
ゾンビに噛まれた肩の噛み傷はもうほとんど治っていた。肌は薄っすらと淫らな桜色に染まり、ゾンビ達の爪や牙がつけたはずの沢山のかすり傷は、ツルリとした素肌のどこにも見当たらない……。
蟲を食べたわたしは、運動神経も回復力も異常に高まっている。蟲を食べれば食べるほどに、わたしの体は強く……、そして美しく変わっていく。同時に、敏感に反応するエッチな体になっていく……。蟲の与える悪魔の快楽が体に、心に、深く刻み込まれていく……。
その時、パーカーのポケットに入れていたもう1匹の蟲が首をもたげて這い出してきた。黄金色に輝くその蟲を見てわたしは思い付く。もっと沢山の快楽を味わう方法を……。
もう1匹は直接アソコに……。
わたしはポケットから這い出した蟲を指で摘む。フワフワとした綿飴みたいな感触。
舌で蟲の蛇腹になった裏側を舐め上げる。
「っっ!! 」
顎から下がとろけて無くなってしまうような甘い快感が走った。
わたしは夢中になって蟲を舐める。
「はぁぁ、あぁ、あぁぁ……」
止めどなく吐息が漏れる。呼吸が苦しい。
蟲を食べたくて、食べたくて、食べたくて堪らなくなる。
でもダメ。コレをアソコに入れたら、きっと、もっと……、すごい。
わたしは潤んだ瞳で自分の唾液でヌラヌラと光る蟲を見つめる。
それから掌を押し付けるようにして、すでにドロドロになっている卑猥なおまんこに蟲を充てがった。
「ふわぁぁぁぁぁ……」
口から長い吐息が漏れた。
ぬるま湯に浸かったような繊細で大らかな快感が下半身に広がる。
蟲はそのままわたしの手を離れてグチョグチョの割れ目にピタリと吸い付いた。
そして蟲はわたしの願いそのままに、硬く勃起したクリトリスを探し当ててからみつく。
「くはぁっ!! 」
クリトリスが弾けたみたいな衝撃!
鋭い快感に背筋が弓なりにのけぞり腰が砕ける。
弾けるように上り詰めたわたしは痙攣して崩れ落ちた。
そんなわたしにはお構い無しに蟲はわたしの敏感なところを這い回っている。蟲が触れたところから発熱するみたいにさらに強い快感が広がっていく。快感に快感が重なっていく。
蟲はモゾモゾとわたしのワレメをなぞる。蟲の体から溢れる金色の光が増していく。蓄積した快感が一気に膨れ上がり弾ける。
「!! 」
わたしはお尻を突き上げたまま頭から崩れ落ちた。足の指が勝手にパクパクと何かを掴むような動きをした。
「ひんっ!! 」
「プシュッ! 」
あまりの快感に膣がキュッと伸縮した。わたしの膣から勢いよく液体が噴き出す。
「ふああっ! ……ああぁ、ふぅん! 」
わたしは覚悟がないまま、一瞬で何度もイッてしまう。さっきよりさらに深く蕩けていく。
全身が痺れてる……。硬く尖った乳首が冷たい床に擦れてる……。太ももの痙攣が止まらない。膣の入り口がヒクついている。お尻の穴がパクパクと口を開けている……。
わたしは息も絶え絶えになって涙を流した。
何で泣いてるのか分からなかったけど、嗚咽が漏れて止まらなかった。
けれど……、蟲の動きは止まらなかった。
わたしの事なんて全く気にしていないその蟲は、焦らすみたいに真っ赤に充血したクリトリスを避けて、尿道の小さな穴をゆっくりと這い回る。膣口でパチパチと光が弾けた。高く突き上げた裸のお尻と剥き出しのおまんこに熱風が吹付けるような感覚……。
「ひぃん! い、いやぁぁ……、ひっ! ひっ! くはぁっ……」
「シュゥゥゥ……」
痺れるような快感でアソコからオシッコが漏れだす。半開きの口から唾が垂れている。わたしはすっかり壊れてしまって体中から体液を漏らして悶え続ける。
もうダメェェ!! 早く……、早く! おまんこの中に……!
わたしはだらしなくよだれを垂らして切望する。心の底からそれを求める。
すると……、蟲は膣の入り口をくすぐるみたいに刺激しながら、不意にお尻の穴にその頭をねじ込んだ。
「いいっ!? ……そ、そこは!!? 」
わたしはとっさに股間の蟲を払い除けようとするけれど……、快感に痺れたわたしの手はグッタリとしてまるで言うことを聞かない。
その隙に蟲は容赦なくわたしのお尻の穴に潜り込んできた。肛門がグワっと広がった。
金色の悪魔はゾワゾワと揺れながらわたしのお尻の穴に押し入り内側で蠢く。そしてどんどん膨らんでいく!
「はっ!! うひぃっ! ひぃぃぃ! 」
信じられない快感の波がお尻から内側を突き抜けて子宮の方へ広がっていく。何かの波がわたしの内臓を揺らしている。
津波のような快感!
止まらない!?
止まらない!!
止まらないのぉぉぉ!!!
助けて!!!!
「いいいいぁぁ!!!! 」
わたしは叫びを上げ狂った。
お尻の中が火傷しそうなほど熱い!
腰が溶けてしまう快感!
体の内側に火が灯り、わたしを燃やして、燃やして、燃やし尽くす!!
「ッッ!!! 」
バラバラになったわたしは全てが真っ暗な深い穴の底に落ちていく……。
落ちる……。
おちる……。
オチル。
遠のく意識の片隅でわたしは思う。
もう戻れない……。
……。……。
……気がついた時、辺りは真っ暗だった。
わたしは裸のまま、玄関とユニットバスの間で、潰れたカエルの様な格好で失神していた。
床には自分が撒き散らした色々な体液が散乱していた。
まだ震えている体でゆっくりと起き上がる。
「はぁぁ……」
甘さの混じったため息をつく。幸せな感覚が体の中を静かに揺らしている。
わたしは緩慢な動きでビチョビチョの床をタオルで拭いた。
心は空っぽで体中が熱い快感の余韻で不確かだった。
脱ぎ捨ててあった衣服を拾うと、汚れ物をまとめて洗濯機へ放り込む。
「あっ……」
何かの拍子にアソコが少し擦れると思わず声が出てしまう。
ノロノロとお風呂に入る。
シャワーを浴びるとお湯の粒が心地よく肌を刺激した。
身体に残っていた快感の余韻が時間をかけて消えていく、わたしは目を閉じて蟲が残した快楽の爪痕を思う。どこからともなく寂しさが吹き込んでくる……。
自分の体をぼんやりした頭で眺める。
肌はツルリとして白く瑞々しい。ウエストのラインは細くくびれて美しかった。
それに……、また少し胸が大きくなったみたいだ。指先の爪でさえネイルケアしたみたいに淡いピンク色の光沢が艶やかだ。肉を噛みちぎられたはずの肩はもう傷跡すら残っていなかった。
わたしは長い時間、シャワーの暖かい水しぶきに浸り、うっとりと自分の体を眺めていた。
……。……。
お風呂から出ると、窓からは白い月明かりが差していた。月は半月だった。
身体に巻いたタオルから露出する素肌を月光に晒してみたけれど、あの時のような感覚は訪れない。
わたしは『飛跳閃光』を呼び出してグリップを両手で包み込むように絞る。
そうすると目に映るカーソルは三角のサーチモードに切り替わった。
この状態では、銃口を向けた相手の情報を読み取る事ができる。この機能もあの夜に銃自身が教えてくれた。
わたしはおもむろに銃口を月へと向ける。
カーソルはびっくりしたように拡大と縮小を繰り返した。
それからしばらくして……、わたしの視界には1つの文字が現れた。三角のカーソルには漢字が一文字。
『母』と表示された。
「えっ!? 月が……? お母さん? 」
その時のわたしにはその意味がわからなかった。
……。……。
……。
朝、目が覚めると携帯にお姉ちゃんからのメッセージが届いていた。
「会って話がしたい」
簡潔な文章に不吉な予感がした。
お姉ちゃんとは滅多にメッセージのやりとりをしないし、あの日を境に連絡は全く取っていなかった。
それに普段のお姉ちゃんの文章はもっと長ったらしくて、心情がよくわからないマークやスタンプがついている。
でもこのシンプルな文面にはお姉ちゃんの強い決意のようなものが感じられた。
どうして連絡してきたのだろう?
目的は何? 謝罪? それとも……。
お姉ちゃんはわたしの初めての彼氏を奪った。そのかわりにわたしはお姉ちゃんの人生をめちゃくちゃにするような動画を拡散させた。たぶん今もお姉ちゃんはあの動画に苦しめられているはずだ。
わたし達姉妹の関係が今更修復できるとはとても思えなかった。もともと心の通った仲良し姉妹ではなかったけれど……。
或いは裸の動画をばら撒かれた事への復讐かも知れない。
どちらにしても気が重い。しかも最近のわたしは蟲以外の事にはまるで興味を持てないようになっていた。学校も、将来の事も、両親も、友達も、全てがどうでもよかった。
けれど……。それでも、わたしはお姉ちゃんに会うことにした。
姉の……、田宮ないしの存在はわたしの中であまりにも大きすぎた。
恨むにしろ、憎むにしろ。或いは許すにしても……。一度、お姉ちゃんと話をつけなければいけない。それが今のわたしには必要だった。
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