2-2 快楽の虫
「ちょっとぉ待ったぁぁぁ!」
頭に直接響く鈴の音と同時に、無闇にテンションの高い男の声が実際に聞こえた。
真央はわたしへの攻撃を止めると、怪訝そうに振り返る。わたしは尻餅をついたまま、呆然と声のする方を見た。そこには背の高い男が立っていた。
「女の子に向かってさぁ、『ちょっと待った』なんて叫んで乱入するとさぁ、昔のお見合い番組みたいだよなぁ。それにしてもお姉ちゃん達、随分楽しんでるみたいじゃん。俺も混ぜて貰おうかなぁぁ」
彼は軽薄な口調でそう言った。
男の服装はグレーのジャケットに白いボタンダウンシャツと細身の黒いコットンパンツ。足元は茶色の革靴でカチッとしたいで立ちだけれど、ネクタイはしていない。肩に大きなナイロンのギターケースのようなものを下げている。髪はやや長めのウルフカット。銀縁のメガネに高い鼻筋、切れ長の目。面長で整った顔立ちをしている。年齢はよくわからないけれど、お兄さんとおじさんの間くらい……、歳は三十前後だろうか。
「あっ……」
わたしはその男が先程、隣のベンチに座っていた人だと思い当たった。さっきは掛けていなかったメガネのせいで、直ぐには分からなかった。
「何か用ですか? 」
真央は不機嫌そうに突然現れた背の高い男を睨んだ。
「俺は野比沢武(のびさわたけし)。ご覧の通り売れないミュージャンさ。そしてもちろん……、俺も『常世の蟲』の蛹だぜぇぇ! 」
さなぎ……?
野比沢と名乗った男の言葉を聞いて、真央の顔つきが変わった。
わたしのすぐ近くで鎌首をもたげていた半透明の鎖はスルスルと真央の手元に戻っていく。まるで意志を持って生きているみたいだ。
野比沢武は真央の様子を確認してから、おもむろに肩にかけていた大きなナイロンバッグを開けて何かを取り出した。
出てきたのは肩がけタイプのキーボードだった。形はエレキギターに似ているけれど、弦の部分がピアノの鍵盤になっていた。わたしの銃と同じで本体フレームは吸い込まれそうな漆黒。鍵盤の上方には『拍子狂い』という文字が刻まれている。
「これが俺の武器さぁぁ! 」
野比沢はそう言って鍵盤に指を滑らせた。クラシックピアノのような硬質な音色が辺りに響く。
「えっ……、それが武器? 」
真央が驚いて聞き返す。
「そうさぁ! 楽器タイプは初めてかい? こいつはショルキーっていうんだぜっ! 80年代のバンドブームの時に流行ったんだよな。キーボードの神様であるあのお方もさぁ、ライブなんかでよく使ってたんだよ。イカすだろ! こいつが俺の相棒『拍子狂い(ビートマニア)』だぜぇぇ。そしてなぁぁ、こいつにはこんなことだってできるんだぜぇぇ」
白々しいまでに軽薄な口調でそう言った野比沢は、キーボードの上についたボタンをいくつか押してみせる。
「ツツッチャ! ツツッチャ! ツツッチャ……」
頭の中で直接、打楽器のリズム音が鳴り出した。
野比沢はリズムに合わせて体を揺すると、ギターのネックにあたる部分にある調節つまみのようなものをひねりながら、鍵盤でなめらかにコードを押さえていく。
「チャラァー、チャラァー」
先程とは打って変わって鍵盤からは電子和音が響く。続いてリズムと伴奏の音が重ななり音色は楽曲になった。その音色は相変わらず直接頭の中に響いてくる……。
野比沢がおもむろに息を吸い込む。
「呼吸を〜止めて! 1秒ぉぉ、あなた! 真剣んんな目をしたからぁぁぁ! 」
「えっ……、歌うの!? 」
ぽかんとした顔で真央が呟いた。
えっ……、何がはじまってるの!?
わたしも呆気にとられて野比沢を見つめた。彼はわたし達の冷たい視線も意に返さず、真顔で熱唱した。
「そこからぁぁ、何も! 言えなくぅぅなるのぉ……」
すると……。
不思議な事にわたしの体は勝手に動き出した。
自分の意思とは関係なく、わたしはスッと立ち上がって背筋を伸ばす。そして黒い銃へと掌をむけた。
『飛跳閃光(ジャンピングフラッシュ) 』
わたしはよく分からない単語を口する。その声に応えるように手元に黒い銃が飛び込んできた。そして銃のグリップを握り込むと……。
あれ!? 何だろう、この感じ……。
それは不思議な感覚だった。
黒い銃を握った瞬間、頭のてっぺんから爪先まで電気が流れたみたいな痺れが駆け抜けた。それからすぐに身体中から力が溢れてくる。銃のグリップからはそれ自体が生きているみたいな……、ほんのりとした熱が伝わってきた。
黒い銃はまるで昔から何度も手にしてきた道具のように、わたしの手にしっくりと馴染んだ。
……いや、違う。
馴染んでいるというか……、握っている事をうまく実感できないくらい、それは当たり前にそこにある。
そして銃のグリップを握った瞬間、わたしは自分が口にした単語の意味を理解した。
あれがこの銃の名前。この銃身に刻まれている『跳飛閃光』という文字は「ジャンピングフラッシュ」と読むんだ。それがわたしの武器。見た目は大きくてとても重そうなのに、実際、握ったそれからはほとんど重さを感じなかった。『飛跳閃光』という銃は、まるで自分の腕の延長みたいに自然とわたしの手の中にある。
わたしの正面にいる真央はしばらくの間、リズムに合わせて体を揺すっていたけれど、不意に両掌を地面に向けた。真央の動きに呼応して『影牢』と呼ばれた金色に輝く半透明の鎖は、ジャラジャラと音を立てながら彼女の周りで旋回を始めた。
真央の瞳にも困惑の色が浮かんでいた。
たぶん真央も自分の意思とは関係なく、野比沢の『拍子狂い』の奏でる音色に支配されているみたいだ。
野比沢はそんなわたし達の様子を満足気に眺めるとこう言った。
「俺の曲はぁぁ、人を操るぜぇぇ! それじゃぁ、そろそろ殺し合って行こうかぁぁ! おまえらぁ、盛り上がっていこうぜぇぇー! 」
野比沢は体でリズムをとりながら激しく鍵盤を叩いた。
音楽に合わせるようにわたしの体は勝手に動いて『飛跳閃光』の銃口を真央に向けた。
銃口の先に真央を捉えた瞬間、わたしの視界には丸いカーソルのようなものが浮かび上がる。カーソルはどうやら敵を狙う印のようで、真央の体にに銃口を合わせると、それは白から黄色に変化した。
そのままわたしは自然に引き金を引いた。
「バシュ! 」というくぐもった空気音と共に光の弾丸が発射された。体全体が発射の反動で揺れて、グリップを握る掌にジーンと痺れが伝わってきた。
真央はわたしの弾丸に合わせて瞬時に両手をクロスさせる。
半透明の鎖は彼女の手の動きに連動して、真央の体の周りを螺旋状に高速で旋回した。
「キィィン! 」
わたしの放った光の弾丸は、真央のまわりをバリアみたいに旋回する鎖に阻まれて消滅した。
ああ、そうか……。これはこういう戦いなんだ。そしてこの銃はその為の武器……。
わたしは何となく事態を飲み込んだ。
『常世の蟲』を宿したもの同士の戦い。蟲が与える武器を使った殺し合い。うまく相手を倒せばまた蟲が手に入る……。
それからしばらくの間、わたしは野比沢に操られるがままに光の弾丸を放ち、真央は鎖を使って器用にわたしの攻撃を防いだ。
体は野比沢の演奏に合わせて自動的に動くので、頭では冷静に状況を観察する事できた。そしてわたしは密かに野比沢が乱入してくれた事に感謝した。
彼の『拍子狂い』に操られているお陰で、この銃の使い方や、戦いにおける身のこなしが自動的に行われている。
もしもあのまま真央とやり合っていたら、何も知らないわたしなんて一瞬で殺されてしまったはずたった。
そんな事を考えながら、わたしは引き金を引く。
体は羽根のように軽く、5メートルくらいの高さを軽々とジャンプした。全身がバネになったみたいに地面を蹴って宙を舞う。わたしは武器の名前の通り飛ぶように跳ね回り、真央を翻弄していた。
わたしの体は常識では考えられないほど運動能力が向上している。これも『常世の蟲』を食べたせいなのだろうか。運動はあまり得意じゃ無かったのに……。
そうしてわたしがこの戦いに慣れてきた頃、野比沢が叫んだ。
「おまえらぁぁ、まだまだ足りないぜぇぇ! もっとこぉぉーい! 」
まるでライブ中のロックスターみたいだったけれど、その声はやはりどこか白々しい感じがした。
野比沢は再び曲調を変化させた。
わたしの体は弾けるように素早く動き、次々と光の弾丸を放つ。真央はわたしの攻撃を防ぐので精一杯だ。表情はどんどん険しくなっていった。
「調子にぃぃ、乗るなぁぁ! 」
真央は余裕の無い眼差しでわたしを睨み叫ぶ。声に反応して2本の鎖が螺旋のように捻れ絡み合いながら突進してきた。
しかしわたしの視界には黄色いガイドラインのような表示で、鎖の攻撃軌道が表示されている。わたしはガイドに従ってひらりと宙を舞い真央の攻撃を簡単に躱すと、そのまま羽根のように鎖に着地して、サーカスの綱渡みたいに鎖の上を駆けた。
真央はわたしの動きに息を呑む。彼女の思考が一瞬、止まる。動きも一瞬、止まる。
わたしは鎖を足場にさらに高く飛び跳ねる。そして真央の頭上から彼女の脳天に銃の狙いを定めた。真央の頭を捉えているカーソルは瞬時に黄色から赤に変化した。その刹那、飛び上がったわたしを見つめる絶望した真央の表情。
当たる!
直感的にわたしは思った。
けれど引き金を引いても弾丸は発射されず、かわりに「カチッ!」という乾いた音がした。
視界の隅の弾丸マークが点滅している。
弾切れ!?
「オイオイ、肝心な時に弾切れかよぉ? 」
野比沢は大袈裟に叫ぶとまた曲調を変えた。野比沢の言葉はひどく薄っぺらい。
彼の表情、しぐさ、佇まい、そして言葉遣い……。それらは何かが変だった。まるで下手な演技でもしているみたい……。
わたしは頭の片隅でそんなことを考えながら、体は勝手に銃のグリップの中にある弾倉を引き出し、左手で強く握り締めた。
「痛っ! 」
鋭い痛みが掌に走った。
わたしは呻いて手の中の弾倉を見る。
何故か弾倉の側面には光の針山みたいに小さく尖った出っ張りがあって、それがわたしの手のひらに食い込んでいた。血が滲む。けれど痛みから逃れようとするわたしの意思に反して手は勝手に、そしてよりきつく弾倉を握りしめていった。
「ん……、くっ……、痛っ」
痛みに唇を噛む。弾倉から血が滴った。
すると弾倉から黒い光が溢れ出した。同時にマガジンは重みを増していく。
ああ、なるほど……。
どうやらこの銃はわたしの血を吸う事で弾丸が補充される仕組みのようだ。
やがてマガジンから溢れる黒い光が吸い込まれる様に消滅した。
わたしはスムーズに銃へマガジンをリリースすると、再び真央に狙いを定める。
左掌にポツポツと小さな傷口と血の跡が残たけれど、その傷は見る間に塞がっていった。痛みもすぐに消える。
一瞬で怪我が治った!?
今のわたしは回復力も異常だ……。
そんな風にして、わたしは徐々にこの戦いに慣れていった。今の自分に何が出来て、何が出来ないのか、クリアになっていく。
体の動かし方が分かってくると、この戦いはまるでスポーツでもしているみたいな奇妙な快感があった。
地面を力強く蹴れば、数メートルも飛び上がる。景色がギュンと上昇する。身体中の筋肉が喜び、吹き出す汗さえ心地よかった。
真央に狙いを定めて銃の引き金を絞る。
そう、引き金は引くんじゃなくて絞るんだ!
銃身の後ろにあるスライドが自動的に動く。
「バシュ! 」
弾丸が発射されグリップを握った掌に心地よい反動が伝わってきた。
楽しい! 今のわたしは自由自在だ!
わたしはいつのまに笑っていた。
真央はわたしの攻撃に圧倒されて、ますます余裕の無い表情だ。
それからしばらくの間、一進一退の攻防が続いた。
わたしは風のように舞いながら真央に次々と光の弾丸を放つ。真央は鎖を使ってわたしの放った弾丸を防ぎ、時折、尖った鎖の先端でわたしを突き刺そうと攻撃してくる。蛇のようにウネリながら迫ってくる鎖をわたしは軽々と躱す。
思い描いた通りに小気味好く動く体が気持ちいい……。
銃の引き金を引く瞬間が気持ちいい……。
そして段々と真央の動きが見えてきた。彼女が次に何をするのかが、……分かる!
戦いの中で、わたしは自分の武器『飛跳閃光』の性能と、このバトルのコツを掴んだ。
光の弾丸は全部で18発。全て打ち切るまで弾倉は外せず、リロードにはわたしの血が必要だ。またトリガーを引く時間に応じて弾丸の威力が変わる。長い時間トリガーを引いたままでいると、目に映るロックオンサイトの表示はどんどん大きくなり、トリガーを離して発射される光の弾丸もまた、それに応じたサイズと威力になる。このタメ撃ちはかなり強力で、流れ弾は近くに停まっていた車を粉々にしてしまうほどの破壊力だった。そしてこのタメ撃ち弾丸で攻撃した時、真央は必ず鎖で弾かずに体ごと攻撃を避けていた。
タメ撃ちはあの鎖じゃ防げないんだ。でもどうして、瞬時にわたしの弾丸の種類が分かるんだろう……?
初めのうち、わたしは真央が戦い慣れしているために、その経験から弾丸の種類を瞬時に見分けているのかと思っていた。
でも真央はチャージしている威力に関係なく、100パーセントの確率でタメ撃ちを避けている。少ししか貯めていない弾なら、あの鎖で弾けそうなのに……。
迷いのない……、いや考えることを放棄しているような真央の動きを見ていて、わたしは確信した。
この銃『飛跳閃光』は、構えるとわたしの視界に攻撃を助けてくれるカーソルが現れる。わたしはそのカーソルの位置や色を目安に彼女を攻撃している。きっと真央の鎖『影牢』にも、わたしの黒い銃と同様のガイド的な何かがあり、それが真央の戦いをサポートしているんだ。だからわたしのタメ撃ち攻撃を瞬時に把握できるし、逆に言えば、真央の能力では攻撃の威力を正確に測れない。
それに真央の鎖は思ったよりも射程距離が短い上に、わたしの弾丸を防御している間は攻撃が出来ないみたいだった。彼女が攻撃してくるのは決まって弾切れのタイミングだった。
ふと気がつくと、野比沢の演奏は止まっていた。
彼は難しい顔をしてわたし達の戦いを見ている。さっきまでの軽薄な口調が嘘みたいに、野比沢は理知的な佇まいだった。
わたしはそんな野比沢の視線をあえて無視すると、真央の心臓あたりに狙いをつけて引き金を絞った。
今のわたしは野比沢の『拍子狂い』に操られていなくても充分に戦えるようになっていた。
そして戦いに集中して真央の一挙手一投足を粒さに観察していると、初めの印象ほどには彼女が魅力的な外見では無い事に気づく。
真央は頬骨が少し張りすぎている……。女の子にしては肩幅が広くて骨格ががっしりとしすぎている……。小さくて整った顔に対して首が太い……。それにこれだけ激しく動いていていても、おっぱいはまったく揺れていない。わたしより貧乳……。やっばりお姉ちゃんに比べたら……、どんな女も見劣りする。
わたしはいつもの癖で、目に映る女を姉と比べている。そしてそれを自分と比較している……。
お姉ちゃんの影を頭から追い払い、わたしは真央に集中した。
彼女は明らかに追い詰められていた。
苦しげな表情。荒い呼吸。頬を伝う汗を拭う暇を与えないほど、わたしの攻撃は激しさを増していた。銃の残弾はあと3発だ。
わたしは2発連続で発射してから、銃の上部にあるスライドを素早く自分の手で引き、弾倉に残った最後の弾丸を撃った。
真央の鎖は先に撃った2発の弾丸を波打つように荒々しく弾いた。3発目の弾丸は明後日の方向にそれていた。真央はそれを一瞥してから、そのままわたしに突進してくる。
「弾切れ!! 」
真央が苦しげに笑って言った。
わたしは弾倉を素早く取り出し、左手で強く握る。弾丸をリロードしている間も、わざと右手の銃口を真央に向けて固定した。左手に握った弾倉に弾が込められるより早く、真央の尖った鎖の先端がわたしの目の前に迫ってくる。
「もう死ねぇぇ!」
真央が目を見開いて叫ぶと同時に……。
「ズバン! 」
大きな破裂音がして、わたしの弾丸は背後から真央の胸を貫いた。
「えっ……!? 」
真央は信じられないという顔で自分の左胸にぽっかりとあいた穴を見た。それから胸にできた拳大の穴に震える手を添えた。傷口からドッと血が溢れ出す。
「え……、えっ!? どう……、して? 」
困惑の表情を浮かべて崩れ落ちる真央。
同時にわたしの鼻先まで迫っていた鎖が、空中で錆びていくみたいに黒いチリに変わっていく。
「ゲホッ……」
仰向けに倒れた真央は口から大量に血を吐き出すと、それきり動かなくなった。
「はぁ……、はぁ……」
わたしは肩で息をしながら、右手に握られた黒い銃を見る。この『飛跳閃光』はただの銃じゃない。わたしの操作で何種類かの特殊な弾丸を撃てる。
1つは引き金を引く時間で威力が変わるタメ撃ち。
もう1つは通常、引き金に連動してオートで動く銃上部のスライド。ここを自分で引いてから撃つ特殊弾。
この撃ち方をすると、視界に映る丸いカーソルがギザギザに変化して、それがクルクルと回り出す。ギザギザのカーソルが回転している間、発射された弾丸は銃口を向けている相手を自動的に追いかける。
わたしは戦いながら、この特殊弾の撃ち方を知った。まだ野比沢に操られていた時、彼がわたしにこの攻撃をさせてくれたおかげだ。
しばらくの間、わたしは倒れた真央を見つめる。彼女は全く動かない。
たぶん……、死んでる。
銃を握ったまま、どうしたものかと銃身で自分の肩をトントンと叩いた。
「誘導弾か。その武器の使い方が分かってきたようだな」
後ろから野比沢が声を掛けてきた。肩に掛けていた『拍子狂い』はどこかに消えている。
そしてその声色は先程までの彼とはまるで違っていた。硬い床に石が転がるみたいな乾いた声……。
わたしは静かに目を閉じた。
そして肩に銃をのせたまま、トリガーを引いた。
「バシュ! 」
「ドガッ! 」
発射音と共に、背後にいた野比沢が弾け飛ぶ音がした。
ゆっくり目を開けた。手応えはあった。
わたしが目を閉じた時、わたしの視界は銃口と一致する。銃口が見ている景色がわたしの視界になる……。
これはつい今し方、真央と戦いながら偶然、自分で見つけた機能だった。野比沢に操られていた時は使っていなかったので、『飛跳閃光』にこんな事が出来るなんて、彼は知らないないはずだ。
「グクッ! バカな……」
「えっ!? 」
即死だと思った野比沢が不意に呻いたので、驚いて振り返る。
確かに彼の額の中心を狙ったのに!?
「ダダダッ! 」
振り返ったわたしが見たのは、凄いスピードで走り去って行く野比沢の後ろ姿だった。とても頭に弾丸が当たった様には見えない!
わたしはすぐさま彼を追いかけようと駆け出すが……。
「あっ!? 」
膝がガクガクと震えて前のめりに倒れ込んでしまった。
足が震えてる……。体が思うように動かない。
わたしは自分で思ったよりずっと疲れているみたいだった。緊張の糸が切れたせいか全身が鉛のように重い。
「はぁ……」
諦めたわたしはペタンと地面にへたり込んだ。
とにかく……、戦いは終わったんだ。
「シュュュゥゥ……」
わたしが気を抜くと『飛跳閃光』はキラキラ光るチリに変わっていった。
そのチリはしばらくの間、空中にとどまり、やがてわたしの呼吸に合わせて鼻や口から体の中に吸い込まれていった。戦いの為に呼び出した武器が体の中へ還っていく。
そしてキラキラ光るそのチリを吸い込んだ時、フワッと体が熱くなった……。
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