第9話 ほっこりおでかけタイムです

 冒険者向けのアイテム全般をあつかう、装備屋にやってきた。

 棚には、いろんなかたちやサイズのガラス瓶。

 その前で、緑色があざやかな双葉リボンのバンダナが、ぴょこぴょことゆれてる。


「ソラくん、底がひろい空き瓶をさがすのです。ちょっとおっきめのやつで!」


「はーい。底がひろいもの、底がひろいもの……」


 シュシュが棚の下のほうを見てるから、僕は上のほうをさがしてみよう。

 とりあえず左から右へ見てみると、丸底フラスコ型のガラス瓶を発見した。


「あ、これとかどう? ポーション用で、落としても割れにくいんだって。思ったより軽いし、もち運びもしやすそう」


「よいではないですか。じゃあ、1ミットル容量のものにしましょう。店主のおじさん! これ、肩かけの水筒みたいに、ひもをつけてもらうことってできますか? それと、ガラス栓もコルク栓にしたりとか」


「お安いごようさ。オプション加工でプラス1,050ペイかかるけど、いいかい?」


「だいじょうぶです。あ、そうだ! あと、水の魔石アクア・ジェムもほしいです。Sサイズを……替えもふくめて、5個くらい!」


「あいよー!」


 いっぱい買うものがあるってシュシュが言ってたから、荷物もちのつもりだったんだけど、その必要はなかったみたいで。


「ほい、まいどあり!」


「ありがとうございますです。おねがいしていいですか? ポポちゃん」


「ビヨン!」


 どっさり買い込んだ紙袋を、シュシュの肩に飛びのり、「ンアー」と口をあけたポポが、次々と『ぱっくん』していく。


「んっ? 『スライム』に食べさせちまうのかい?」


「ノンノン、『スライム』ではありません。ポポちゃんは、水の妖精『パプル』です。物を溶かすことはできませんけど、たくさん入れて、ためることができるんです」


「ほぉ、『空間圧縮』に『重量軽減』の能力があんのかい。そりゃあマジック・バッグいらずだな。たいしたもんだ!」


 カウンターにひじをついて興味深そうにのぞき込んでた店主さんも、「感心感心!」ってうなずいてる。


「うちの子ですから! あっでも、もう荷物が入らないってなったら、ポポちゃんも『イヤイヤ』してくださいね?」


「ビィ!」


 楽しそうにやりとりをするシュシュたちを見て、僕までほっこりする。そんな昼下がりだった。



  *  *  *



『テイマー』は、モンスターに名前をつけて『服従』させる。

 それに対して『召喚士』は、精霊や妖精から名前を教えてもらって、『契約』するんだって。


『パプル』の名前はポポ。

 ポポが僕たちといっしょに来ることをえらんで、早いもので、もう2日だ。


「お水よーし、浄水用の水の魔石アクア・ジェムよーし。ではでは、これはソラくんに託しましょう。名づけて『ポポちゃんワクワクおさんぽセット』です」


 装備屋を出てすぐ、加工してもらったポーション瓶を託された。

 なかには8分目くらいまでの水と、水の魔石アクア・ジェムが1個、それからポポが道ばたでじーっと見つめてた、白とピンクのお花が入ってる。

 水の魔石アクア・ジェムの影響か、重力とは関係なしにお花がふわっと浮いたり、ひらひら舞うから、ハーバリウムみたいだ。


「ビヨヨンッ!」


 つぶらな瞳を輝かせたポポが、まんまるいガラス瓶にぽちゃん、と飛び込んできた。

 お花が舞う水中で、ふよん、ふよん、と楽しそうに泳いでる。


「んふふっ、はしゃいでますねぇ、やっぱり水の妖精さんですから、お水があるとうれしいですよねぇ。かわいいですぅ」


「ねぇシュシュ、僕『召喚士』じゃないけど、ポポをまかせてもらっていいの?」


「いいんですよ。契約した『召喚士』の指示のもとであれば、だれでも精霊や妖精のお世話ができます。もちろん制限もありますけど、身のまわりのお世話なら問題ナシナシです」


「ンン……ビヨン!」


 キュポン、と気持ちいい音がして、ポポがガラス瓶から顔を出す。コルク栓にしてもらったのは、ポポが出てきやすいようにするためだったみたいだ。

 コルク栓もひもでガラス瓶とつないであるから、落としてなくすこともなさそうだね。


「っていうか、ジャストフィットしてる……あははっ!」


「ビビ?」


「瓶の口にハマッたポポちゃんが、ソラくんのツボにハマッたもようです。シュシュもほっこり……」


 こんどは僕たちを見て、シュシュがほっこりする番だったみたい。

 瓶の口にハマッたまま、つぶらな瞳をぱちくりさせているポポ。

 きみは、みんなをほっこりさせる天才だね!

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