終章 道は再び交わる
第10話 正体不明の敵
初陣を飾る
天候は快晴。雲一つない夏の空は、鎧兜の中に汗をかかせる。視界は良好で、敵陣の様子も見渡すことが出来た。
「これが、
「怖じ気付いたか、
「ええ。……でも、もう退かないって決めましたから。あいつと」
ちらりと
昨晩、なかなか眠れずにいた
「オレは、お前たちが立てた布陣を信じてるからな。だから、お前もオレらを信じろ」
「……ふっ、よく言う。これが初陣のくせに」
「それはお互い様だろ? 親友の恋も応援しなきゃいけないし、オレはお前の傍にいるよ」
傍にいる。バサラの言葉にほっとしたのも束の間、
「ちょっと待て、誰の恋だって!?」
「自分で気付いてないのかよ、ウケる。……くくっ、おやすみ」
「あ、待ておい! ……一瞬で寝ただと?」
「……すー」
「……はぁ、まあ良いや」
バサラの体を揺するが、起きる気配はない。
「……そうか。ならば、
「はい!」
「ここから、私たちは戦うんだ」
「……はい」
「私たちの決定が、戦場の武士たちの命を握っていることを忘れるな」
「勿論です」
二人の相談を聞きながら、信功は次から次へとやって来る忍たちからの報告にも耳を傾けて指示を飛ばす。
同じ頃、戦が本格的に始まっていた。
矢が飛び、怒声が吹き荒れ、馬のいななきがそこかしこでこだまする。更に接近戦の歩兵たちは、互いの刀をぶつけ合い、相手の命を狙っていた。
何処かで悲鳴が上がり、断末魔が切れ切れに聞こえる。首が落ちる音、落馬の音、そして人の命が終わる一瞬が無数に存在した。
バサラはそんな死と隣り合わせの戦場において、小四郎の指示を受けながら敵と渡り合っていた。訓練では決して味わうことのない、死への恐怖と気味の悪い高揚感。背合わせの感情に戸惑いながらも、バサラは敵の刃を切り返して死地から何度も逃げた。
「バサラ、お前はそのままお館様のもとへ行け!」
「でも、小四郎さんたちは……」
「俺たちの役割は、これ以上敵を侵入させずに引き返させることだ。見ろ!」
「!?」
小四郎が顎をしゃくる方向を見ると、遥か頭上の崖の上から砲台が敵側に向けられているのが見えた。更にその一段下には、鉄砲隊が控えている。
これだけの味方が出番を待っているのだから問題ない、と小四郎は言いたかったらしい。更に五郎太も近くで怒号を上げながら敵を斬り飛ばし、血の海を作り上げていた。
「お館様を頼むぞ! ここは任せろ」
「だから、行け!」
「――はい!」
五郎太や小四郎たちの方が、戦場を把握している。彼らに任せろと言われてしまえば、バサラは自身の役割を全うしなければならない。
バサラは一つ頷くと、自分に向かって落ちて来た矢を払った。それを合図に、味方とは反対方向―つまり後方―へと走り出す。
やがて見慣れた白い幕で囲まれた陣を守る武士に取次ぎを頼むと、呼ばれたらしい
「バサラ!」
「
「こっちだ。まだここには敵は誰も到達していないけど……、後ろの山を警戒しろって光明さんが」
「わかった」
頷くと同時に後方に回り込もうとするバサラに「おれも行く」と
バサラは崖を見上げ、唾を呑み込んだ。
「あそこから攻められたら、そう思うと怖いな」
「有り得ない話じゃない。創作の線が強いけど、歴史の授業で習った戦いの中にもあっただろ?」
「確かに。でも、絶対に守ってみせる」
「うん。必ず守るって約束したから」
「だな」
ニヤッと笑ったバサラに励まされ、
対するバサラは小太刀を佩く他、抜き身の太刀を持ち、全神経を集中させた。紐で結んでいた髪はばらけ、頬に貼り付く。
「──っ!?」
その時、崖上の草むらで何かが光った。それを目視した瞬間、
突然突き飛ばされて尻餅をついたバサラが「何すんだよ!」と文句を言った時、
「バサラ」
「……お前ら、何もんだ?」
「……」
「我らの主の為、貴様らには死んで貰う。悪く思うなよ」
バサラの問いには答えず、背の高い男が宣戦布告した。隣にいる小太りの男は何も発しない。ただ、手にした刀を構えてこちらを見据えている。
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