第9話 初陣
その間に、バサラは小四郎から五戦に二戦は勝ちを得られるようになった。
毎日昼間は別々に行動し、夜に互いの報告をし合う。すっかり日課となったそれを今夜も始めた二人のもとに、和姫に仕える梅が尋ねて来た。
「夜分遅くに申し訳ありません。姫様が、お二人を呼んでおられます」
「和姫が?」
「わかりました。すぐにまいります」
二つ返事で引き受けた
すっかり着慣れたそれを身に付け、二人は和姫のもとへと向かう。
「姫様、
「入って。……こほっ」
「姫!?」
「和姫様、大丈夫なのか?」
和姫の咳き込む音を聞き、
「ええ、大丈夫です。
「あまり興奮しては体に悪いって、お館様からは聞いているから。無茶はするなよ?」
「ふふ。お二人に無茶を強いている身で、そんな悠長なことは出来ません」
ここ数ヶ月をかけ、
最初は遠慮していた
気忙しく過ぎていく日々の中、男子二人にとって和姫と話す時間は癒しでもある。特に
しかし、今宵のような呼び出しは珍しい。バサラは首を傾げ、和姫に尋ねた。
「それで、今夜はどうしたんだ? こんな時間に呼び出すなんて、今までなかったと思うけど」
「……お二人の初陣が近いと聞いたものですから、一度きちんとお話しすべきだと思ったのです」
「ああ……。お館様から聞いたのか」
納得の声を上げた
「ええ、昨日。次の戦に、お二人を伴うと」
「この数ヶ月、かなりしごかれたからな。……怖くないといえば嘘になるけど、オレに出来る精一杯で信功様を守って見せるよ。刀の扱いも弓矢も、槍も一通使えるようになったと自負してる。馬の乗り方も板について来たって、この前小四郎さんに褒められたんだ」
そう言って微笑んだバサラは、この世界に来た時とは別人に近い程成長を見せた。元々のすばしっこさに加え、体力がつき筋肉をつけている。歩兵相手ならば同等以上に戦える、と克一のお墨付きだ。
胸を張るバサラの横で、彼に比べれば貧相な体つきの
「おれは光明さんの傍で、戦略についてかなり学ばせて貰ったよ。まだまだ立案まではいけないけど、考えて地図上で動かすことに楽しさも感じる。バサラたちが無事に帰って来るかどうかは、俺たちにかかっていると光明さんはおっしゃっていた。……それに加えて戦うため、守りたいものを守るための手段として弓矢の扱いも教わっているところだよ。この術を使わずに済むならそれが一番なんだけど」
更に身を護る手段として、そして守りたいものを守る手段として馬上での弓矢の扱いについても教授されている。まだ完璧に弓矢と馬の両方を制御することは出来ていないが、
「お二人は場所は違えど、互いに高め合う間柄なのですね。普段の様子を拝見していても、とても仲がよろしくて。――お二人を選んだことは、正しかったようです」
「でも、和姫の思う未来を描くかどうかは、初陣にかかってるよな。必ず、この国を救う一歩を勝ち取って来るから待っててくれよ」
「おれたちが今出来る全力で。絶対に、和姫が視た未来になんて繋げない」
「御武運を。……必ずわたくしの、和のもとへとお戻り下さい」
水色の瞳が揺れ、和姫は胸の上で両手の指を絡ませた。願い事をするような仕草をして、二人の少年を見上げる。
「あの?」
「ほら、和姫も出せよ」
「こ、これは何の儀式ですか!?」
珍しく戸惑いの声を上げる和姫に、
「和姫も片手を握って。それをおれたちの方に突き出して欲しいんだ。三人の拳を突き合わせて、戦での勝利を祈願するんだよ」
「はい……。こう、ですか?」
「そうそう、上手いぞ」
慣れないながらにおずおずと拳を出す和姫を褒め、バサラが最初に彼女と拳を突き合わせた。続いて、
三人の少年少女は拳を触れ合わせ、笑い合った。互いの存在が、どれだけ力になるか、彼らはまだ知らない。
それから一週間後、
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