第5話
「俺たちは二人とも【
答えたのは黒髪の男子高生だった。
「……二人とも」
その言葉に心が震えたのがわかる。
人間の姿を保てる【
でも、今、俺の目の前の二人はその人間の姿を保てる【
そんな俺の感動などわからない黒髪の男子高生は、簡単に頷いた。
「ああ。身体能力が普通の人間より高い。そして、それぞれが特殊能力がある」
「特殊能力?」
「俺は影から犬が出せる」
「あ、じゃあ、【
「俺だ」
「あ、ボクはね~頭がいいんだよねぇ。情報操作なら任せて」
二人は【
初めてのことで、俺はただ二人を見つめることしかできない。
だって、【
「暴走する【
「あ~ボクは零有とは違うから、人助けは興味ないけど」
黒髪の男子高生――零有と呼ばれている、は誇らしそうに頷く。金髪の男子高生はそれを否定しながらあははっと笑った。
人助けに興味はないと言いながらも、その能力自体に劣等感は感じていないようだ。
……俺とは、なにもかも違う。
「【
金髪の男子高生が俺に向かって、首のチョーカーを見せる。
ただの飾りだと思ったそれには立派な金属のプレートがついており、刻印がされていた。
「これがあれば【
「暴走した【
「ほっとくと暴走した【
その話で【
俺は人間の姿を保っている【
が、それを嫌い、俺も殺そうとした。
だから、黒髪の男子高生は「協定を守れ」と繰り返し言っていたのだろう。
「マイクロチップも入ってるし、最初はなんだこれって思うけど、割と便利だから、君も気に入ると思うよ~」
「俺も……?」
「そうそう。君、全然、能力に振り回されてないしね。絶対にもらえると思う。……あっちの高校生はちょっとまだ難しいかもだけど」
金髪の男子高生がちらりと寝室へ視線を送る。
そこにはベッドに寝かされている男子高生。まだ意識は戻っていない。
「まあ、あとは本人の問題だよ~。君があのとき声をかけなきゃ、どうせあそこで殺されてた。そう! 君ってすごいね!」
「ああ。【
「ってか、暴走した【
二人が目を輝かせて俺を見る。
でも、俺の真実はそんないいものじゃなくて……。
「……俺が発現したのは五歳で。……俺も最初はおかしくなったから。そのときの方法を試しただけ」
俺の答えに、黒髪の男子高生と金髪の男子高生は驚いたように、目を丸くした。
お互いに顔を見合わせ、その表情は「マジか?」と物語っている。
「五歳って本当か?」
「いやいやいやいや、一人で? だれにも言わずに? なんの修行や訓練をしたわけでもなく、十年経ったのが今ってこと??」
その言葉に頷くと、二人はハァーと息を吐いた。
「マジよかった。マジ、間に合ってよかった」
「ああ……」
そして、気を取り直したように金髪の男子高生が話を続けた。
「あ、ボクたちの獣性はね、実は細かく分類されてるんだ。ボクは【獣性:ゴールデンレトリバー】」
「犬、なのか?」
「そうそう。人懐っこくて、賢くて。ボクにぴったりだよねぇ」
「俺は【獣性:シェパード】」
「へぇ……」
なぜ獣性を分類し名付けるのが犬種なのかはわからないが、おもしろいかもしれない。
すると、金髪の男子高生が俺に向かって、小さな濾紙のようなものを差し出した。
「これは、それぞれの獣性が表示される機械なんだ。ちょっとここに血を垂らしてみて、そうそう」
濾紙にポツッと血を垂らすと、それを機械の差込口へと入れる。
三人で機械の液晶部分を見ると、ピピッと音がして、文字が表示された。そこに現れたのは――
『【獣性:雑種】』
――俺の獣性。
「……いや雑種って」
「……普通は犬種の名前なのにな」
「まあ、雑種も犬種だけどね?」
黒髪の男子高生と金髪の男子高生がなんともいえない顔をして、俺を見る。
二人は微妙だと思ったのだろう。
でも、俺は……。
「……俺、好きかも」
そう。好きだ。
「雑種って普通っぽくて、いい」
そう。どこにでもいる。日本で一番数が多いだろう。
ふふっと笑えば、二人はお互いに顔を見合わせたようだ。
とにかく、これで二人が【
「で、俺はこのまま元の生活に戻れるのか?」
――俺の今後。
二人は俺の質問に、これまでより真剣な顔をした。
「残念だが、これまで通りとは行かない」
「うん。君はこれからは『政府に認められた【
「……そうか」
二人の言葉に息を吐き、頷く。
……もう普通には戻れない。
俺が【
「まずはボクたちと一緒に02研究所へ行く。そこで手続きを終えると、俺たち【
「【
「うん。特進クラスってことになってる。割と自由でボクは好きだよ~。今の高校に未練があったら、かわいそうだけど」
「……未練はない。知り合いがいないとこを選んだだけだから」
俺が今の高校を選んだ理由は、人と深く付き合うと【
だから、あえて同じ中学のヤツがいない高校を選んだのだ。
そこに行けなくなったとしても、まったく問題はない。
ただ一つ。
「……家族にもバレるのか? ……俺が【
……できれば、父にはそれを知られたくない。
無理だろうな、と思った。普通、そういうことは最初に家族に伝えられるだろう。
だが、黒髪の男子高生は俺をまっすぐに見て……。
「家族に隠すことはできる。02研究所は政府の秘密機関だ。【
「……だよな。俺、人間の姿の【
「そうなんだよね~ボクたちって秘匿されちゃってるんだよね~」
「むしろ秘密保持者は少ないほうが研究所も喜ぶはずだ。話してみればいい」
「……わかった」
一番の懸念だった父とのことが解決され、ほっと息を吐く。
ああ、これなら今まで生きてきたのとあまり変わらないかもしれない。
一般人に紛れて生きてきた今まで。そして、これからは政府に認められた【
むしろ、楽になったのではないだろか。
顔を上げて、黒髪の男子高生と金髪の男子高生を見る。……同じ【
「あ~ただね~、政府の依頼をこなさなきゃいけなくてね? そこは今までと違うかも」
「政府の依頼?」
「ああ。人助けだ」
黒髪の男子高生がきらきらっと目を輝かせる。
それに、金髪の男子高生はあははっと笑った。
「いや、そうじゃないときも多々あるよ~。体のいい便利屋さんだからね~ボクら。一般人より、強い、死ににくい、死んでもめんどうがない」
「やな三拍子……」
「ま~実際そうだからさ~」
金髪の男子高生の言葉は明るいが、口振りから楽しいことだけではないのは間違いない。
だがきっと、政府に認められた【
そして、俺にはほかに選択肢はないのだ。
「……俺の名前は
覚悟を決めて、二人へ名乗る。
すると、すぐに黒髪の男子高生が俺へ自己紹介を返してくれた。
「俺は
「よろしく。えっと、カノカワ?」
「俺は苗字は気に入ってない。名前で呼べ」
「じゃあ……零有?」
「ああ。それでいい」
いきなり呼び捨てで距離が近づぎるかと思ったが、それでいいらしい。
続いて、金髪の男子高生があははっと笑った。
「ボクは
「あ、そうなんすね、すみません」
何歳かわからなかったが、どうやら一つ上だったらしい、慌てて敬語に治すと、「どっちでもいいよ~」と笑ってくれた。
「ハルタ君って呼ばせてもらうね~。でね、ハルタ君、今日会った【
金髪の男子高生……ジーン先輩は笑みを消し、俺を見た。
「あの二人はペアで行動していることが多いんだけど、【
真剣な青い目に、思わずごくりと喉が鳴った。
「今回のことで確信した。彼らは人間の姿を保った【
「……そのチョーカーは政府に認められた証なんですよね?」
今、説明してくれたはずだ。そのチョーカーは政府に認められた【
そして、人間の姿を保った【
それさえつけていれば、殺される心配はないはず。
でも、俺の質問にジーン先輩は首を横に振った。
「この首輪だけじゃ、安全は買えないんだよ。この前、二人死んだ。それは【
「……俺たちが暴走したかどうか、それを証明する者がいなければ、どうしようもない」
「ボクたちは『いつか暴走するかもしれない』って、そう思われてるんだ。……だから、『暴走していた』と報告されれば、だれも異を唱えない。……二人が一度に暴走するなんて、そんなことありえないのに」
「死人に口なしだ」
二人の言葉に俺は下を向き、ぎゅっと唇を噛んだ。
やっぱり、【
「あ~。ごめんね、これは脅しじゃないんだよ? ハルタ君」
「そうだ。ハルタ」
凛とした声に顔を上げる。
そこには力強い黒い瞳があって……。
「俺たちがいる」
「そうだよ~。一人じゃないからね~」
ジーン先輩も明るくあははっと笑った。
「【
「能力を使っていけば、【
二人の声に俺も自然と笑みが出た。
「そっか……。そうだよな。今日も全員、生きてる」
暴走した【
全員、生きてる。
「そうそう~。ボクはハルタ君に希望を見た気がしたしね!」
「ああ、その能力があれば、【
二人の言葉はちょっと俺には荷が重い。
だから、いやいや、と手を振った。
「俺はそんなすごくないけど……。雑種だし」
俺の言葉に二人が目を見合わせる。
そして、深く頷いた。
「……それなんだよな」
「……それなんだよねぇ」
二人があまりに深く頷くので、俺はハハッと笑ってしまう。
が、肺に肋骨が刺さりっぱなしなので、うまく笑えず、咳込んでしまった。
そんな自分が滑稽でまた笑えて、すると咳込んで。笑ってるのか痛いのか、自分でも意味不明だ。
「『殺せ!』じゃなくて『捕まえろ!』って言ってたのが気になるけど、まあ、二度と会わないのが一番いいね~」
「そうだな」
「俺も、もう、会いたくない」
そうして、三人で話をしたあと、俺は体を治すことに集中することにした。
たぶん、俺の特殊能力は「超常回復」になるのだろう。雑種は体が強いというし、ぴったりだ。
「……俺たちがいる、か」
暴走した【
【
そして、もうダメなのだ、と。
本当にそう思ったのに。
「……ひとりぼっちじゃない」
人間に紛れて生きている間、ずっと一人だった。
でも、今、俺の心はたしかに震えていて……。
【
わからないことだらけだが、それが苦ではないのだ。
「……生きる」
ここで。
俺に『一人じゃない』と言ってくれた人たちと。
獣性:雑種 しっぽタヌキ @shippo_tanuki
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