第4話
倒れている異形の【
さっきまで俺のそばにいたはずの【
だが、まだ銃弾の範囲内だ。
男子高生二人は【
「退いてください。今は公務の最中です。邪魔をするなら公務執行妨害で逮捕しましよ?」
「うるさい。なにが公務だ。それならば協定を守れ」
【
どうやら『協定』というものがあれば、俺たちを守ることができる……んだろうか。
【
そういうものがあるんだろうか……。
「起きろ」
男子高生の一人が俺を助け起こす。
黒い髪に切れ長の黒い瞳。色白で、きれいな顔をしていた。こんな場面じゃなければ、モデルや俳優だと思っただろう。
「どうします?」
【
すると、もう一人は俺をじっと見やった。
「お前らと違い、そいつには識別の首輪がない。ただの【
言葉には殺気がある。
俺がこうして助けられることを望んでいなかったようだ。
【
だが、その言葉を遮るように、明るい声が続いた。
「まあね~? でも、ボクたちがここに来たからにはわかるでしょ? 彼は制御できてる。ボクたちと同じように首輪を得ることができるんだよ」
俺を庇うように立つ男子高生の髪は金色。目は青色だった。緊迫した現場にも関わらず、あはっと笑っている。
そして、見せつけるように首元へと指を差した。そこにあるのは……チョーカーだろうか。
話をしていた【
「……チッ」
ギロッと睨んだが、男子高生二人はまったく気にしない。
すると、もう一人の【
「わかりました。つまり二体目の【
「え……?」
思わず声が漏れる。
話の流れはわからないが、たぶん、俺は助かったのだろう。
男子高生二人はどうやら俺を助けに来てくれたらしい。それも、【
なのに、二人は倒れている【
「な、んで……。こいつも、俺と同じ、……同じ高校生なんだ。た、すけて……やって」
掠れる声で、俺を助け起こした男子高生を見る。
俺を助けられるなら、コイツだって助けることができるはずだ。
だが、黒髪の男子高生は、俺の言葉に首を横に振った。
「……無理だ」
「な、んでっ」
非情な宣告に、俺は声を荒げる。
同じ……なんだ。俺とこいつは。だから……!
「【
「はい。二体目は運が良かったですね。人間の姿と知能を保て、しかもこうして迎えが来ました」
「……迎えなどいらなかった。どこから情報が漏れた?」
「うーん。ちゃんと情報統制したんですが」
【
「あ~あれで情報統制したつもり? ボクの手にかかればあんな暗号ちょちょいのちょいだよ。わたあめぐらいフワフワのロックだったなぁ~」
「……くそ犬が」
「え~公務員がそういうこと言っていいのぉ? ボクたちもちゃんと政府に認められてますけど?」
「……行け。次に首輪がない犬がいたら、殺す」
金髪の男子高生はその言葉にあははっと笑って返し、俺へと視線を向けた。
「重傷だね。早く治そう。君が死ぬ前でよかった」
「ああ……行こう」
黒髪の男子高生も頷き、俺に肩を回して、歩き出そうとする。
「ま、って、……なんで、俺はよくて、アイツはだめなんだ。なんで……?」
「……暴走した【
そんなこと俺も知っている。
【
そう思って、ずっと普通の人間のフリをしていたのだから。
でも、俺は今、助けられた。
理由はなんだ? アイツと俺の違い。それは――
「……あ、いつが、人間の姿に戻れば、いいのか?」
――人間の姿をしているかどうか。
もし、もしそうなら……。
俺の質問に黒髪の男子高生は苦しそうに眉間に皺を寄せた。
「――二度と、戻れない」
低く重い声。
……助けたくないわけではない。どうしようもないことなのだとその表情を見ればわかる。だが……。
「……俺は、……戻れた」
「あ?」
「俺はおかしくなった体を戻せたんだ。思い出せた。……アイツももしかしたら……っ!」
膝とアキレス腱、背中の銃創もすでに治った。
骨が突き刺さった肺は治ってはいないが、あとで直せば問題ない。
俺は黒髪の男子高生の手を払うと、倒れている【
「おいっ! お前!」
「あぶないよ~?」
男子高生二人の声を背に、気にせず倒れている【
「おい、まだ生き、てるよな。……思い出せ。思い出せ、自分の姿を」
「グウゥ……」
俺のものかコイツのものかはわからない血で、赤く染まった体。
胸に手を当て、顔をこちらへ向けた。
「俺、は、覚えている。お前のこと……」
電車で見た一瞬。
記憶を頼りに、伝えていく。
「お前は高校生。今朝は電車に乗って登校していた。身長は……160cmぐらいで、髪はこげ茶色。筋肉はついてなくて、黒縁の眼鏡だった」
「ウグ……う、うあ……」
「そうだ。思い出せ。思い出すだけだ。お前はこんな姿じゃなかった。こんな力はなかった。……普通の、高校生だった」
「あ……そう、ぼ……く……」
異形が一度ドクンッと震えた。
最初に電車で変化したときと同じように突然。そして、あっという間に体がみるみる縮んでいく。
――まるで、元の細胞に戻るかのように。
「嘘だろ……」
「わあ~。やる~ぅ!」
背後から聞こえる声にも振り向かない。
俺は目の前の【
黒髪の男子高生は「二度と戻れない」と言った。だが、俺は五歳のとき、一度は人間の姿を失くしたのだ。
異形になった【
だから、コイツもそれができれば元に戻れると思った。
そして、今、それがうまくいっている。
きっと、みな【
「やめろ!!」
「撃ちます」
――聞こえたのは銃声。
「な、……んで……っ」
また背中に痛みと衝撃が走る。
痛いだけ。俺はなんとかなるが、人間に戻った男子高生は、今度こそ本当に死んでしまうかもしれない。
男子高生の胸から手を離し、振り向く。
そこには銃口を向ける【
「させない。影犬、いけ!!」
――銃が撃たれる瞬間、【
あれは……犬……?
「ナイス、
「え?」
「早く!!」
金髪の男子高生が、倒れていた男子高生を肩に担ぎ、俺の手を取った。
そして、まっすぐに走る。
一見すると、そんなに力があるように見えないが、その身体能力は人間のものではなくて……。
「逃げるな! 二体目の【
「わぁ、すみません! 銃を取られてしまいました!」
「くそ犬め……っ」
【
その声に一瞬、振り返ると、【
「二体目の【
これまでと違う雰囲気に背筋にぞくぞくと寒気が走った。
思わず、立ち止まりそうになると、だれかが俺の肩に手を当てる。
「どうした? 傷が痛むのか?」
「え……あ?」
驚きに声が漏れる。
だって、俺は今、全速力で走っている。そんな俺に追いついて、肩を並べるなんて……そんなことありえない。そんな人間なんているわけがないのだ。
ただ、今は逃げるのが先決だろう。
金髪の男子高生についていけば、人に会うこともなく、どこかのビルの前で立ち止まった。
どうやら地下へ続く道があるようで、電子端末を操作すると、扉が開く。
そこへ入れば、普通の住居のようになっていて、二人はリビングのような場所ではぁと息を吐いた。
これは……一体……。
「あ~こういうときのためにね、隠れ家がいくつかあるんだよ。ここはそのうちの一つ。血とか汚れとか気にしなくていいよ。そういう場所だから」
「気にせず、好きな場所で休め」
「あ……ああ……」
「ボクは彼を寝かせて、研究所に連絡とって迎えに来てもらうね~。あー疲れた~」
そう言うと、隣の寝室に男子高生を寝かした。
そして、そのまま俺の背後に回る。
「あ、アイツは?」
「意識はないけど、心拍、呼吸ともに問題なし。人間の姿に戻るときにケガも治っちゃったみたいだねぇ。ボクたちがここでできることはなさそうだし、あとは研究所に戻ってからかな」
「そっか……」
どうやら、男子高生は命の危機にあるとかの状態ではないようだ。
ほっと息を吐くと、金髪の男子高生がまじまじと俺を見た。
「君もケガの手当とかしたほうがいいかと思ったけど、もう大丈夫そうだね~?」
「あ、自分でできる」
「っぽいね~。あ、じゃあとりあえず、そこに座って話そうか。ちゃんとした話は研究所からあると思うけど、先に聞いときたいよねぇ」
金髪の男子高生が俺をほら、とソファへと座らせ、自分自身はその隣へと座った。
どうやら、聞きたいことを聞いていいようだ。
それならば、最初に聞きたいことは決まっている。
「……二人は、どうして、そんな力がある?」
【
そして、【
そんなの……おかしい。
もし、そんなことができるなら、それは――
「俺たちは二人とも【
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