はじめては彼女がよかった
ヒツジ
第1話
私の初体験は26歳。風俗店でだった。
当時は恋愛に縁がなく、そういった経験をする機会がなくその歳まで過ごしてしまっていた。周りからの圧力や自分は欠陥があるんじゃないかという不安に押しつぶされそうになり、意を決して行ったのが風俗だった。そんな理由だからか、得られたのは快楽よりこれで童貞ではないという安堵の方が強かった。
巡り合わせとは不思議なもので、それまで全く縁がなかったのに数年後に友人の紹介で恋人ができた。
経験が風俗しかないために気持ちよくさせてもらう知識しかなく、彼女との触れ合いは困惑だらけだった。
体のことはさておき、彼女との時間はお互いにとても心地よいものだった。自然と一緒になることを考えるようになった。
共に歩むというのは大変で今まで色んな苦労があったが、それゆえにお互いを思いやる気持ちが幾重にも重なって大きくなっていった。気づくと困惑だらけだった触れ合う時間がお互いを気持ちよくするための時間となり、こんなにも心が満たされるものなのかと幸せを噛み締めるようになった。
ある晩、彼女が急に初体験の話をしだした。
「私、26まで経験がなかったんだよね。特に気にしてなかったんだけどさ、友達にいい加減処女捨てなよって言われて、なんか急に危機感覚えてさ。変な男と付き合って、やっちゃったんだよね。当時はその人のこと好きだったし別にいいんだけどさ、後になってみればなんであんな男とって。焦ってたのかな」
正直言って少し驚いた。彼女がそんな話をしだしたことにも、恋人と初体験してもそんな感想になることにも。
「セックスってなんなんだろうね。してないと一人前じゃないとかさ。ほっとけって感じだよね。自分の全てを曝け出して、危険な面だってあるんだし」
なぜ急にそんな話をするのだろう。彼女の気持ちがわからなくて聞いてみた。
「なんでだろ。最近あなたとすると気持ちが満たされるって気づいたからかな。お互いを思いやってるって感じる。本来セックスってこういうものなんじゃって思ったからかな」
彼女も同じ気持ちでいてくれたことに、心がじんわり満たされるのを感じた。
「初体験があなたとだったらこんなこと考えなかったのかな。それとも初体験済んだ身だから、焦らなくていいとか言えちゃうのかな」
それは私にもわからない。でも……
「自分を大切に考えられるようになったということじゃないかな」
言いながら胸の奥に痛みがあった。無理やり済ませた初体験。わけのわからない安堵のために自分がしたことは何だったのだろう。
あまりに浅はかな快楽への感覚。その上に置かれた自分や他人は、随分と軽いものだっただろう。
「私、あなたといれて幸せよ。」
それは私もだ。彼女のおかげで自分を大切にできるようになった。人を大切にするということを学んだ。
「…ありがとう」
「…おやすみ」
「…うん。おやすみ」
はじめては彼女がよかった ヒツジ @houboku-hituji
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます