第4話

「え、二宮くんいつからいたの?」

「二十分前だ」

「待ち合わせって時間に遅れても早く来すぎてもダメなんだって。つまり私たちは同罪だね」

「遅れたほうが悪いに決まってんだろ」

 約束の時間から十分後に現れた和泉は悪びれもせずに「まあまあ」と僕をなだめる。約束の十分前に到着していた僕は何も間違っていないはずなのに、そこまで堂々とされるとなんだか揺らぐ。

「さ、行こっか」

 和泉はそれを言い終わるより先に歩き出した。

 辺りには僕たち以外誰もいない。「晴れてよかったねえ」「予定通りだな」と話しながら、グラウンドの照明が落とされた暗い道を進んでいく。

 僕らが歩くたびにアスファルトが擦れる音が聞こえた。時折ぬるい風が吹くが、肌に貼りついた湿気は拭いきれない。

「あれ、まだ門開いてるんだ」

「まだ先生たち残ってるんだな」

「え、うそこんな時間まで働いてるの。こわ」

「これが学校の怪談か」

 寒くもないのに身震いしながら半分あたりまで閉められている正門を抜け、並び立つ校舎の間を歩く。音の無い校舎は生気がない。ただひとつ明かりのついている職員室がまるで心臓のようだ。

 あまりに静かすぎて地面を踏む音でバレてしまいそうだったので僕たちは足音を忍ばせて進んでいく。

「――ねえ、二宮くん」

 校舎の間を抜けると、目の前にグラウンドが広がった。そして同じように淡く暗い空が広がる。

「晴れてよかったね」

 前を歩いていた和泉が振り返って微笑む。彼女がどうして曜日と天気にこだわっていたのかようやくわかった。

 どこまでも広がる夜空の中央に穴を空けたように、真っ白な満月が浮かんでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る