第二話 入学式

女神暦8484年 4月14日 

 ステラは学園生になった。

 ステラが通いはじめるネフェリル神聖王国が運営するアレスト王国立学園は、世界有数の名門校となっている。

 特に魔法や化学、医療や政治など様々な分野が学べるこの学園で、ステラは5年間ここで学園生活を送る。


入学式三時間前 王国立学園正門


「ステラ様、そろそろ学園に到着します。降りる準備を」

「わかった」


 エレファン家領〈フェネック〉からおよそ49時間の旅で、アレスト王国立学園がある王都〈シュベティーナ〉に到着した。

 王都には父と数回しか来たことがなくて、あまり馴染みのない場所だ。

 王都について馬車を走らせること5分、ようやく学園の門の前まで来た。

 馬車を降りるとそこには美しい光景が広がっていた。

 しっかりと手入れされた庭園、透き通った川、白い石でつくられた道、学園とは思えないほどのスケールだった。

 ステラは学園の門をくぐり歩いていると、あることに気づいた。

 それは、注目されていることだ。

 初めは紋章の事だと思っていたが、「何処かの下級貴族の者だろ」と周りの生徒から聞こえてきたので、少し安心していた。


入学式二時間半前 


 クラス発表がおこなわれ、ステラは四組だった。

 よく見ると、発表の掲示板には父がステラの正体を隠すために変えた〈ステラ・ゼロ〉が記載されていた。

 それにステラは入学試験を受けていないため、成績は一番下の〈Underachiever(劣等生)〉だった。

(入学できたのは謎だが……)

 そのため、四組の教室に入るとステラの方を一斉に顔を傾けた生徒。

 無理もない。

 四組は特に成績優秀な生徒が集められたクラスで、劣等生のステラは、クラスの中では悪い印象しかなかった。

 大人の世界では紋章で決まるのに、学園生の世界では成績と階級で決まる。

 なんて不幸な制度なんだろうと、感じてしまう。

(別に試験なんて受けなくてもいいのではないのかな?)

 ステラは頭を抱えた。


「君がステラ・ゼロですか?」


 突然、赤が目立つ生徒に声をかけられた。

 周りにいるクラスの生徒はざわついている。


「はい。僕がステラ・フォ‥ ステラ・ゼロですが。何か御用でしょうか?」

「少し来ていただけますか」

「なぜですか?」

「ここでは話せないので」


(まさか…… 正体がバレているのでは……)

 ステラは警戒しつつ彼について行った。


入学式二時間前 第三訓練場


「では本題に入りましょうか。なぜ君は、この学園に入ることができたのですか? 普通なら入学試験を受けないといけないはずですが」

「この学園になぜ入学できたのか…… それは分からないな」

「分からないだと……」

「ああ…… わからないさ」


(それって、そんなに大事な話なのか…… まあ、正体がバレなくて良かったが……)

 ひとまず安心かと思ったステラだったが、それは一瞬にして破壊される。


「私は、この学園に合格している自分が一番誇りに思う。どんな手を使ったかはわからないが、ステラ・ゼロ、君だけは絶対に許さない! 今ここで、決闘を申請する」

「まじかよ……」


 この学園では決闘はよくあるものだ。

 日にちや会場を決めて申請したり、今のように突然申請したりと、様々な決闘申請がある。


「どうするんですか? 決闘、受けますか」

「は~ わかった。決闘、受けてやるよ」

「成立ですね」


 成立とともに訓練場の照明が暗くなり、カウントダウンが始まった。


「一応、こう見えて私の成績はこの学年の上位クラスです。相手になりますかね」

「それはどうかな」


 剣は訓練用だが、頑丈で折れそうもないものだった。

 「何事か」と思った生徒達は続々と第三訓練場に入ってきた。

(正体バレそう……)

 少し足を後ろに下げた。



 カウントダウンが少しずつ、迫ってきた。

 この学園では初めての決闘が始まろうとしていた。


「手加減はなしだ」

「もちろん。全力で勝たせていただきますよ」


5…… 4…… 3…… 2…… 1……

 カウントダウンが0になり、決闘が始まった。


「レイン・ミコラスト・エディン、参る」


 レインは紋章を発動し、ものすごい速さでステラに攻撃を仕掛けた。   

 さすが成績上位と言うだけのことはある。


「どうしたのですかステラ君。ずっと受けているだけのようですが?」

「まだ慣れないからな」

「そうですか。ならば本気出しても、文句言わないでくださいよ」


 また、速さと攻撃の精度を上げてきた。

(ならば僕も本気出しますか)

 ステラは深く息を吸い、構え直した。


「では僕も…… いきますよ」


 ステラは護身用に習った技で反撃したが、レインは正面から受け止めた。


「なかなかな攻撃ですね。ですが、その攻撃では私を倒せませんよ」


 レインは炎の紋章を再び発動し攻撃した。


「秘剣〝アルベスト〟」


 ステラは咄嗟に交わした。

(今の攻撃、当たっていたら大変なことになっていただろうな)

 ステラは再び構え直し、レインの目を見た。


「レイン、君と戦えてよかったよ。これで終わらせようか」

「私もですよ、ステラ君。全力でかかってきなさい」

「あぁ…… わかった」


 全ての魔力を剣に込めた。


「全てを終わらせるーー白夜刀刃びゃくやとうしん


 次の瞬間、一筋の光がレインが持っていた剣を貫いた。


「さすがだよ。ステラく…… ん」


 その場でレインは倒れた。

 倒れた瞬間、終了のブザーが鳴った。

 この学園で唯一の劣等生が、学年上位クラスのレインに勝ってしまったから、周りで見てた生徒は声も出なかった。

(まあ…… 別にいいが……)


入学式30分前 保健室


「ここは……」

「起きたかレイン。具合はどうだ」

「大丈夫だ。ありがとう」

「そうか」


(砕けた口調だ……)

 ステラは窓の外を見た。


「一つ聞いてもいいか?」

「答えられる範囲だったらな」

「君は一体何者なんだ? あの攻撃は普通、受けられないはずだが」


 ステラは少し考えた。

(ここで正体をバラした方がいいと思うが…… いやここは……)

 ステラは微笑み「ただ少し強いだけの学園生だ」と答えた。

 レインは笑った。


「私を倒しておいて何が少し強いだ」

「確かにな」


 ステラとレインの顔は柔らかくなった。

 まるで親友のように……

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