帝国英雄戦記
神無月レイ
第一話 ステラ・フォン・エレファン
「建国おめでとうございます」
「皇帝就任おめでとうございます」
沢山の人に見守られ、一人の少年が答える。
「みんなのおかげで、ここまで来れたんだ。本当にありがとう」
「陛下……」
家臣達は泣きそうな顔で、少年を見つめた。
帝国暦元年 6月14日
世界が大きく分断された時代。その世界を統一し、平和な国を作った一人の少年。
彼の名はステラ・フォン・エレファン。
ヴァーミリオン帝国の皇帝だが、誰よりも戦いを好まないごく普通の少年だ。
「ふ〜」
ステラは騒がしい会場から外に出て、空を見上げた。
「振り返ってみれば、色々なことがあったな」
目を閉じ、これまでの出来事を思い出す。
仲間との出会いや仲間と共に暮らした日々。時には辛く、時には悲しいこともあった。
(昔は楽しかったな〜 確かあの頃は……)
ステラは目を開け、持っていた手帳に今までの出来事を記した。
この手帳こそが、ヴァーミリオン帝国ができる今日こんにちまでの長い歴史と、一人の少年の物語が記されている《帝国英雄戦記》なのだ。
時は何十年前に戻り……
女神暦8469年 12月12日
ステラはネフェリル神聖王国の東にある、大都市〈フェネック〉で生まれた。
ステラの父であるゼルド・フォン・エレファンは、大都市〈フェネック〉を治めるエレファン侯爵家の現当主。
ステラの母セリイシャ・フォン・エレファンは、ステラが生まれてすぐに息を引き取ったため、母がどんな人だったのかわからない。
生まれたてのステラを、優しい手で包みながら静かに目を閉じたと、父から聞いた。
上に六人の姉や兄達がいるステラだが、次のエレファン侯爵家の当主。
理由は、紋章の階級によるものだった。
姉や兄達の紋章の階級は真ん中ぐらいに対し、ステラの紋章は遥か昔に消えたはずの《古いにしえの紋章》で、その紋章の階級は最上級の階級にあったからだ。
そんな理由もあり、ステラはエレファン侯爵家次期当主に選ばれたのだ。
女神暦8483年 3月20日
ステラは不老不死になってしまった。とある検査で不老不死が発覚したからだ。
原因は《古の紋章》にあった。
古の紋章は未だに解明されていない特殊能力があり、その特殊能力の一部が不老不死だった。
「なんで僕が……」
ステラは部屋の鏡を見てつぶやいた。
普通の人なら、不老不死は喉から手が出るほど欲しい能力だったが、ステラにとっては、とても欲しくない能力だった。
「……」
ステラは机に置いてあった短刀を手に取った。
「これで…… 母さんのところに行けるかな……」
短刀を鞘から抜き、首に向けた。
(これで楽に……)
ステラは刺そうとした。が……
手から紋章の光が現れ、大きな破裂音と共に、首に刺さるはずの短刀が一瞬にして壊れた。
「あれ‥‥? おかしいな……」
ステラは不意に涙が溢れ出した。
数秒が経ち、誰かの足音が聞こえた。
ステラは涙を拭いたが、涙は止まらなかった。
「おい、大丈夫か! 今、大きな音がしたが」
父は慌てた様子で部屋に入ってきた。
「ステラ、これはなんだ? 怪我していないか」
「父さん…… 僕は……」
ステラは何かを言おうとしたが、意識がなくなり、その場で倒れた。
「う……」
目を覚ますと、ステラは部屋のベットで寝ていた。
(どれぐらい寝ていたんだろう?)
窓の景色を眺めながら考えた。
すると、一人のメイドが部屋に入ってきた。
入ってきてすぐに「旦那様! 坊ちゃんが‥‥ 坊ちゃんが目を覚まされました!」と、大声で叫んだ。
ステラは「何のこと?」と、不思議そうな顔をした。
三分後‥‥
「本当か!」
「はい! 坊ちゃんは今、ベットにいます」
部屋から出た父は、駆け足でステラの部屋に入ってきた。
怒られるかと思ったステラだったが……
「ステラ…… 無事でよかった」
父はステラを抱きしめられた。そして、父は初めて涙を見せた。
「父さん、泣かないでくださいよ。僕も泣きそうになりますよ」
「すまない……」
父は涙を拭き、ステラの横に座った。
「本当に大丈夫か」
「ええ。このとうり」
ステラはベットに降りてバク転をする。
「そうか……」
父の顔は少し悲しそうだった。
ステラはもう一度ベットに入り、父と話をした。
「何があったのか、教えてくれないか」
「…… わかりました」
ステラは今までの事について、父に話した。
「色々あったのだな。ごめんなステラ、何も分かってあげられなくて」
「いえいえ、父さんは何も悪くありません。悪いのは僕の方です」
「だが……」
父は何か言いたそうだったが、立ち上がり、ステラの方を向いた。
「ステラ、一つ約束をしよう」
「約束ですか?」
「そうだ。ついてきて」
父はステラを連れて庭に向かった。
(一体、どんな約束をするのだろう?)
いく途中、少し考えてしまった。
「こっちへおいで」
「はい」
ステラは父の前に立った。
「いいかステラ、約束だ。どんな時でも、人々の希望となる剣となれ」
「人々の希望となる剣……」
「そうだ。希望となる剣になれば、不意に辛さはなくなっていく」
「何故ですか?」
父はステラの頭を優しくなでて、笑みを見せて言った。
「それは、仲間ができるからだ」
「仲間‥‥」
父のその言葉で、ステラの心の中にある何かが取れた感じがした。
「父さん、仲間ができれば、人々の希望となる剣になれるのですか?」
「ああ、なれるとも。ステラなら必ずなれる」
「……」
ステラは、もう一度父の顔を見た。父の顔は、どこか信じてくれている感じだった。
ステラは微笑み、誕生日に貰った、鮮やかな青色に染まった剣を鞘から抜き、地面にさした。そしてステラは誓いの言葉を言った。
「エレファン侯爵家四男、ステラ・フォン・エレファンは、辛い時でも苦しい時でも、仲間と共に乗り越え、人々の希望となる剣になる事を誓います」
ステラが誓いの言葉を言い終えた後、父は「それでこそ我が息子だ」と言って、ステラの肩を叩いた。そのあと、父は「そうだ!」と言って、急いで部屋に戻っていった。ステラだけ庭に残して。
ステラは「忙しい父さんだ」と言って、夕暮れの空を見上げた。
風は囁くように吹き、空は燃えているように染まっていた。
ステラは、空に向かってこうつぶやいた。
「僕の人生は、ここから始まるんだ。もう二度と、立ち止まったりしない」
この言葉は必ず人々の希望に変わると、心の中で願い、一人の少年は前に向かって歩き出した。
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