第2話 もうひとつの深淵
「か、買っちゃった……」
今は春。私の名前は
右から順にピンクのフリル、黒のレース、オレンジのボーダー柄。そして……
「やっぱり可愛い……。プチピュア最高!」
日曜朝にテレビでやってる私が大好きな魔法少女のキャラものパンツ。別に太ってる訳じゃないけど、少しおしりの大きい私に合うサイズを見つけて即買いしちゃった。だけどさすがにブラは無かったんだよね。そりゃそうだよね。基本女児用だからEカップとかある訳ないよね。うん。知ってた。
だけどパンツだけでも買えたから満足なのです! いや、この歳でそんなの穿くの? って言われそうだけど好きなんだからしょうがないじゃん! それに学校には穿いていかないし! あくまで家の中だけ。あとはちょっと買い物行く時に、スカートじゃない時だけ穿くつもり。ほら、やっぱり見られると……ね?
なのに今、私はパソコンの前で上半身は新しく買ったモコモコパジャマ。下はプチピュアパンツ姿で座っています。ちょっとおしりが冷たいけど。
それはどうしてかっていうと、今日はSNSで仲良くなった人達とのリモート雑談の日だから。それなのにいくらカメラには映らないからって私ってばこんな格好で……あ、なんか目覚めちゃいけないのに目覚めそう。
最初は顔出しするのも嫌だったのになぁ〜。
ってそんな事を考えてたらボイスチャットにメンバーの中で1番仲が良いけーくんが入ってきたっぽい。歳も一緒だから話が合うんだよね。それと……ちょっと顔も好みだったりする。
まぁ、どこに住んでるかわからないし、きっと会うことも無いだろうから好きにはならないようにしてる……んだけど、たま〜にドキッとする事言ってくるのはズルい。真顔で「可愛い」とか言われると意識しちゃうじゃん。もう!
「あ、けーくんこんばんは♪」
『うぃ〜す』
とりあえず挨拶。相変わらず普通だなぁ。少しは意識してくれてもいいのに。リモートでも目線が胸に向いてるのはわかってるんだぞ? これでもけーくんが参加する時は髪型とかに気を付けてるんだから、そこに気付いてくれても……って割りと気付いて言ってくれてるんだった! えへー!
『あ、そういえばアレどうなったん? 転校するって話』
「それなんだけどね? 本当は今日からだったのに、引越しの予定がずれて来週からになっちゃったんだ〜」
『ありゃ』
そんな会話をしてる時、私は何かに気付いた。気付いてしまった。
なんとなく目に入った画面に映るけーくんのさらに後ろにある全身鏡。そこに映るのは……けーくんのおしり!
(え? え? アレって……昔お父さんが穿いてたやつだよね? たしかにブーメランパンツって言ってたっけ。お母さんが「もう穿くのやめて」って言ってたやつ)
そこからはもう大変だった。けーくんとお喋りしながらも私の目にはけーくんのおしりしか見えない。
なんとかして目線をズラそうとしてチャットを見てみると、いつものグループのサーバーじゃない事に気付いた。
その事をけーくんに言うと、とりあえず今日はもうお開きってことに。もう眠くなってきたから今からはちょっとね。それに眠気のせいで何を言っちゃうかわからなかったからちょうど良かった。
それにしても──
「けーくんもまさか私が画面の外ではこんな格好で喋ってたなんて想像もしてないよね。こんな……プチピュアのパンツを履いてるなんて! でも、けーくんもまさかあんなの穿いてるなんて……なんか可愛い♪」
私は椅子から立ち上がって、ベッドに向かいながらそんな事を呟いてぐーっと背中を伸ばす。
「よし! 寝よっと♪ ……あれ? そいえばパソコンの電源切ったっけ? ひゃっ!? うそっ!? 接続切れてないじゃん! 待って待って待って! けーくんに見られてないよね!?」
急いでサーバーメンバーのところをみると、けーくんの名前は黒くなってオフライン表示。
「良かったぁ〜。こんな格好で話してたなんてバレたら恥ずかしすぎてもう無理だったよぉ〜」
──そう。その時はそう思ってたの。見られてるわけがないって。なのに……
リモート画面の向こう側で俺が(私が)○○な事をしているなんて誰も気付かない 泉田 悠莉 @kujiayuu
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