俺と親友のお家騒動
第3話 1
魔熊のお肉で、お祭りをしてから三日後。
あたしは初めて、村の外に連れて来てもらった。
お隣のダストール領の領都ダストアまで、家族みんなでお出かけ。
壊れた兵騎を直すのと、魔獣の素材を買い取ってもらう為なんだって。
おとさんが馬車を改造して作った、兵騎で牽く大きな荷車に魔獣の素材を載せて。
あたしとおかさんも荷車に乗せてもらって来たの。
アシスはおとさんと一緒に兵騎に乗ってる。
歩きだと、二日かかるらしいんだけど、あたし達は朝早くに村を出て、お昼過ぎには到着。
おとさん、おかさんが言うには、ダストアには赤ちゃんの時にもしばらく住んでたみたいなんだけど、あの頃はずっとおうちの中だったし、すぐ眠くなっちゃってたから、住んでたって実感がないんだよね。
「うわぁ~……」
ダストアの町並みは、すごかった。
建物が大きい。
通りを歩いてる人も、すごく多い。
大通りの左右には露店がたくさん並んでて――前世で一度だけ、お父さんが連れて行ってくれた、花火大会の夜店みたい。
「――サティ、これからあそこに行くのよ」
そう言っておかさんが指さしたのは、大通りのずっと先。
丘があって、くねくね道があって、その上に。
「――お城っ!?」
思わずあたしは立ち上がって、おかさんとその建物を交互に見る。
まだまだすごく離れてるみたいなのに、ここからでもすごく大きく見える。
前世でテレビで見た、豪華な三段重ねケーキみたいな形。
一番下の段には四角い塔が四本あって、一番上の段にもひときわ太い尖塔が伸びてる。
真っ白な壁に綺麗な赤い屋根があって、やっぱりいちごのケーキみたい。
「そう、お城ね。あそこがダストール辺境伯のおうちなの」
おかさんはにこにこ笑って、あたしの頭を撫でてくれた。
「ダストール辺境伯は、おとさんの上司!」
撫でられたのが嬉しくて、あたしは覚えてる知識を披露する。
「そうね。だから到着したら、お行儀よくしないとダメよ?
サティはちゃんとご挨拶できる?」
人差し指を立てて訊ねるおかさんに、あたしは力いっぱいうなずいた。
それから前世でアニメで見たお姫様を思い出しながら、スカートをつまんで腰を落とす。
「えっと――お初にお目にかかります。ダストール辺境伯さま。
あたしはサティ・ルキウスです。おとさんがいつもお世話になってます」
お姫様をマネて、挨拶のセリフを言うと、おかさんが目を丸くしていた。
「――ちょっと、ノルド!
ウチの子、天才じゃない!?」
荷車を牽く兵騎に手を振りながら、おかさんはおとさんにそう声をかける。
『……ああ、サティ。それ、どこで覚えたんだ?』
兵騎が肩越しにこちらを振り返り、おとさんも驚いた声で訊いてくる。
前世の記憶――なんて言えないから、あたしは少しだけ首を捻って。
「おうちにある、なにかのご本で読んだんだっけ? そのマネッ子だよ?」
おうちには、おかさんが行商人に取り寄せてもらってる物語のご本がたくさんあるから、これで誤魔化せるかな?
「ああ、確かにあたしの持ってる小説には、貴族の挨拶シーンはたくさん出てくるものね。
でも、サティ。あなた、もう小説が読めるの?」
「ご本好き。お姫様が出てくるのとか、冒険者が戦うのとか!」
これは本当。
文字を覚えてから、あたしは暇な時はおかさんのお部屋に置かれてるご本を読んで、時間を潰したりしてるんだ。
「じゃあ、村に帰る前に、本屋さんに寄って、サティの好きな本を買おっか?」
「――ホント!? やったぁ」
新しいご本を読めるのは嬉しいな。
晴れてる時なんかは、みんなで外で遊べるんだけど、雨が降ると、ひとりでお家にいないといけないから退屈なんだよね。
おうちにあるご本は、みんな読んじゃったし。
そんな話をしている間にも、あたし達は大通りを抜けて、お城へと続く坂道に差し掛かる。
くねくねした道で曲がるたびに、身体が左右に振られて面白い。
後ろを振り返れば、高い壁に四角く囲われたダストアの街並みが見渡せた。
やがてくねくね道は終わり、大きな門と高い壁が目の前に現れる。
壁のすぐ下にはお堀があって、門の前には石造りの頑丈そうな橋がかけられていた。
『――ルキウス開拓領領主、騎士ノルド・ルキウスだ。
バルディオ閣下に報告があって参った』
おとさんはそのまま橋を渡って門の前まで進んで、左右に立つ門番さんに声をかける。
門番さんは、笑顔で兵騎を見上げて。
「ああ、ノルド様。お久しぶりです。
いま、門を開けますので、少々お待ちを――」
と、兵隊さんはそう言って、門の横にある黒い板に触れた。
途端、ガチンって大きな金属音がして、それからギシギシ言いながら、門が左右に開いていく。
「魔道器よ。歯車を動かして門を自動で開け締めするの」
驚くあたしに、おかさんが微笑みながら説明。
門が完全に開くと、おとさんは再び兵騎を進めて。
「おや、奥様もご一緒でしたか。お久しぶりです!」
荷車に座ってるあたし達に気づいた門番さんは、そう言って敬礼。
「ご苦労さまですっ!」
あたしも立ち上がって、門番さんをマネて胸の前で拳を握って敬礼を返すと、彼は表情を崩した。
「ありがとう。お嬢様もずいぶん大きくなられましたね」
門番さんはそう言って、あたしにも再度敬礼してくれる。
「村に住む前、しばらくこのお城に滞在してたから、あの人達もサティの事を知ってるのよ」
「へぇ~」
おかさんの説明を聞きながら、見送ってくれる門番さんに手を振って。
進む先に顔を向けると、石畳が敷かれた通りの左右には、綺麗に整えられたお庭が広がっていた。
そして正面には、三階建ての建物――街で見た一段目があって、その上には、さらに二階建ての二段目、一階建ての三段目の建物が重なっていた。
全部で六階建てになっているようだけれど、上の段になるほど、幅が小さくなっていくから、別の建物みたいに見える。
「領主様のお城って、みんなこんなに大きいの?」
すごく大きいから、おかさんに訊いてみると。
「ここは特別大きいのよ。
辺境伯って言ってね、国の端っこにあるから、もしお隣の国が攻め込んできても耐えられるように、特別大きなお城が用意されてるの」
「そっか。特別なんだ」
ウチも領主だけど、お家は普通の大きさだもんね。
ウチが貧乏とか、そういう事じゃないってわかって、ほっとしたよ。
おとさんは建物の脇にある駐騎場まで進んで兵騎を跪かせると、胸の鞍から降りてきた。
「――ぎゃう~ん!」
アシスも鞍からあたしのところまで飛んできて、肩に留まる。
「アシス、おとさんのお手伝い、お疲れ様」
「きゅ~ん!」
頭を撫でてあげると、アシスは目を細めて嬉しそうに甲高く鳴く。
おかさんが荷車から先に降りて、あたしを降ろしてくれて、入れ替わりにおとさんが荷車に上がった。
魔熊の素材の中から、牙を選んで小脇に抱える。
魔熊は大きかったから、牙一本でもあたしの背丈くらいあるんだよね。
「とりあえず、全部は持ち込めないから、これだけ持ってって、人を手配してもらおう」
「そうね。その牙だけでも、バルディオ様ならあの魔獣の異常さを理解してくれるでしょうしね」
そうしてあたしは、おとさん、おかさんと手を繋いで、お城の中へと向かう。
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