第2話
「うーん……あ、そうだ」
お客さんが忘れていったものを思い出す。僕は店の奥にそれを取りに行き、メシコの前に広げた。つい最近オープンしたジムのチラシだ。健康的なボディメイク、という黄色い文字と筋トレ用のマシンを笑顔で使う女性が載っている。
このジムではひとりひとりにあったトレーニングメニューを作ってくれるそうで、評判もいいと聞いた。僕もそれなりの年齢を迎えて自分の身体が気になっていたところだ。
「一緒に通うってのはどう? 仲間がいればサボらないでしょ?」
「え……あ、いや、
「べーつーに。メシコの恋がうまくいくようにサポートしたげる。それとまあ、僕もそこそこの年齢だしね。いつまでもかわいい格好できるように、身体に気をつけておかなくちゃいけないなあって思ってたし」
僕は着ていたシャツの襟元を指でつまむ。新しく買ったオープンショルダーのトップスだ。
かわいい上に、僕の身体の男っぽさが目立たないデザイン。こういう服に出会うのは意外と難しく、運命だと思って同じデザインのものを色違いで三枚買った。
僕はいわゆる女の子向けとされている服を着るのが好きだ。これは僕がかわいいと思うから着るだけで、僕は身体を女の子にしたいだとか、心と身体の性別が合わないだとかは、あまり考えていない。
だけど、男の身体でなければもっとかわいく着られるのにと思わなくもないし、男の身体でどこまでかわいくできるか、挑戦するのも嫌いじゃない。なんだか複雑だ。
まあ、それはどうだっていい。今はメシコの恋のゆくえのほうが大切だ。
メシコは切れ長の目を僕に向ける。ぽかんと口を開けていて隙だらけだ。そんなにぼーっとした顔してるとチューしちゃうぞ、とからかうと、メシコは呆れたように笑った。
「で、どうする? さっそく明後日見学に行ってみようか。僕、休みだし」
「いいんですか? お休みなのになんだか悪いな……じゃあ私、もうサボれないですね」
「だねえ。サボろうとしたら僕が引きずってでも連れていくから、覚悟してよ」
メシコの顔が一瞬引きつったのを僕は見逃さない。僕の心に使命感のようなものが燃えあがる。僕はなにがなんでもメシコをきちんと連れ出し、尻を叩いてやる。
まあ、僕がサボる可能性もなきにしもあらずだけど。
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