事実
樫本楓は警察官である。警官として優秀なこともあり、上司からは多少のことには目を瞑ってもらっている。上司は岬耕造、幼馴染の岬玲奈の父親である。
そんな樫本楓だが、ひょんなことから岬玲奈が泥棒稼業で生きていこうとしているっぽいことを知ってしまった。面白そうだから、楓は生活費で困っていた岬玲奈を養ってやることにしたのであった。
そんな岬玲奈だったがこれまた紆余曲折あって、次は法務大臣・吉原修司の邸宅の金庫に眠る金塊を盗み出すことになったようだ。それが成功する前に、なんとかして岬玲奈……自称「怪盗レイナ」を捕まえてやりたい、というのが現在の樫本楓である。
樫本楓は、𠮷原修司の邸宅の前にやって来ていた。
警察は、事前に対策を講じるには向かない組織である。その行動には理由が必要であり、理由のためには事件の存在が必要になる。だから、警察が動く頃には全てが手遅れになるのだ。
樫本楓は、そんな警察の体質に決して満足していない。だが、先行して行動しても大して得にならない。そういった理由で、この組織が現状に甘んじているということもよく理解していた。
そんな楓だが、事件が起こる前に動きたいという楓の望みを叶えてくれるのも警察という組織だった。
「警察です」
警察手帳を見せて適当に理由を述べたら、大抵の場所には入り込める。機械とかを利用した大層なセキュリティとか言っても、それを運用する現場にあるのは人と人とのやり取りである。自分には非の打ち所なんてないというふうに気取ってそれっぽく振る舞えば、人は案外「そういうもの」として受け入れてくれる。
軽く下調べしたのだが、ここの隣町で下着泥棒が発生したらしい。
「悪質な泥棒が横行しているようで、お宅のセキュリティを調べさせて頂けないでしょうか」
嘘は言っていない。楓は本当に警察だし、近くに泥棒が出たのも本当である。ついでに言うと、この後怪盗が入る予定なので泥棒対策するべきなのも事実である。
応接に出てくれた奥さんは、特別怪しむこともなく中に入れてくれた。何せ、楓は本物の警察手帳を持っているのだから。
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