邸宅
東京都港区赤坂。言わずと知れた高級住宅街である。ここの一角に、吉原修司の邸宅があった。
土地は代々のものらしいが、近年になって建て替えたようだ。モダンな外装の二階建てである。周囲は高い柵で囲まれており、柵の中には都内のわりには広めの庭が広がっている。
少し離れた高台から邸宅の様子を観察している女が居た。サングラスを掛けていて、長い髪は銀色に染められている。岬玲奈である。
人の出入りを調べているのだ。この作業は長ければ長いほど良い。人は、毎日とる行動もあれば、週に一回、月に一回、年に一回だけ取る行動なんかもある。それらの行動のスパンを正確に把握しないと、予期せぬタイミングで住人と鉢合わせてしまう。だが、時間をかけすぎてもきりがない。
玲奈はかれこれ一週間以上定期的な観察を続けてきており、だいたいのパターンは掴めた。決行はもうすぐだ。
「……ん?」
玲奈は、邸宅の前に現れた人影を見つけた。
「……あのバカ!」
玲奈は慌てて駆け出した。不審な人影……樫本楓が現れたのである。
急いで駆けつけてきた玲奈は、門の影から楓の様子を観察していた。楓は玄関先で誰かと話しているようだった。相手は女性のようだ。恐らく、𠮷原修司の妻の吉原洋子だろう。
十メートル以上離れており、会話の詳細な内容は判別できない。だが、断片的に「泥棒」「セキュリティ」とか言っているのが聞こえてくる。やがて楓は邸宅の中に消えた。
玲奈は、今すぐ駆け入って楓を止めたいのは山々だ。だが、理性的に考えてそんなの無理である。
「あんにゃろ……」
ぶつくさ言いつつ、離れたところから観察しているしかできなかった。
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