覚悟

 怪盗レイナのアジトの地下だった。コンクリートの壁が剥き出しになっている広い空間で、綺麗な棚と、大きなガラスのケースが置いてあった。ガラスケースの中には、繊細な水墨画が飾られていた。先日、三宅樹によって美術館で爆破されたはずの絵画である。この絵画を、岬玲奈はじっと眺めていた。

 階段のほうから、コツコツと足音が聞こえて、玲奈はすぐさま振り向いた。足音の主は……三宅樹であった。

「宿題が終わったので、報告に来ました」

 宿題。玲奈が樹に出している課題である。樹が隙さえあれば怪盗の弟子にしてほしい、と言ってくるので、そのための知識を付けるためといって適当に課題を出しているのだ。その内容は航空力学から心理学まで色々。

「終わったのは私の机の上に置いておくだけでいいよ。後で見ておくから」

「了解しました」

 そのまま、樹は帰らずに部屋の中をぐるっと見て回っていた。

「広いですね、ここ」

「広さには余裕を持って取ってるからね。いずれは、ここを全部怪盗レイナの戦利品で埋めるんだ。それが今の夢……かな」

「かっこいいですね!」

「そう言ってもらえるのは嬉しいけど……。将来は怪盗になるなんて、そんな馬鹿なことはやめてよね。怪盗はかっこいいしロマンがある。でも、犯罪者だからね。君にはこんな馬鹿なことしてほしくない」

「でも、僕は憧れてるんです!本気で。覚悟もできてます!」

「覚悟なんて、馬鹿なこと言わないの。最初に言った通り、学校の授業をちゃんと受けて進学して、それでもその覚悟とやらが揺るがないようだったら考えてあげる」

 玲奈は出口の階段の方に向かいがてら、樹の耳元で囁いた。

「私は賢い人の方が好きだぞ、少年?」

 玲奈は見ていなかったが、そう囁かれた後、樹の耳は紅潮していた。

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