タルト
玲奈は隣の部屋から折り畳みテーブルを2台持ってきて、向かい合うように並べた。それに向かって、玲奈と楓、その向かい側に樹が座る。
「玲奈はチョコケーキでしょ?樹くんは何にする?色々買ってきたから好きに選んでいいよ」
楓は苺タルトを取って、チョコケーキを玲奈の皿の上に置いた。樹はずっと迷っていたが、シンプルな苺のショートケーキを手に取った。
「ショートケーキ好きなの?」
楓が尋ねた。
「特に好きとかなくて、選べなくて。でも、こういうケーキなら、本で見たことがあるので」
「……ふーん」
黙ったままチョコケーキを食べ始めていた玲奈が口を開いた。
「手紙の話。しに来たんでしょ?」
三宅樹は、正体不明の黒幕――レモンと仮称している――に指示を受けて行動していた。紆余曲折あって今は玲奈が樹を保護しているのだが、黒幕と思われる仮称レモンから手紙が届いたのだった。これまた紆余曲折あって、その内容の詳細に至るまでを警察官である樫本楓にも見られてしまっているのだが……。
楓は息を吸って吐いて、それから1枚の紙を取り出した。
「どうするつもりなの?怪盗さん?」
「怪盗レイナってのがどういう奴かは知らないけど。でも、こんなことされて何もせずに引き下がるようなダサい奴じゃないとは思うよ」
その紙には、大きな邸宅の間取りが描かれていた。そして、恐らく金庫室と思われる場所が赤く強調されている。間取り図の下には、「10億円相当の金が存在」と、手書きの文字で書かれている。
「これは、法務大臣・吉原修司の邸宅。そして、その金庫には10億円相当の金の存在が示唆されている。怪盗レイナは、やると思うよ」
「だったら、私は警察として、それを防ぐだけね」
「そんなこと言っちゃってさ。動く理由がないんじゃないの?怪盗レイナと直接繋がってるなんて、上には言えないだろうし」
楓は少し考えていたが、すぐ答えた。
「まあ見てなって。怪盗レイナは私が捕まえて見せるんだから!」
「大した志だこと。勇猛と蛮勇くらい区別してほしいものね」
「誰が蛮勇って?」
「タルトの生地の硬いところをフォークで割って食べようとして、毎度割った勢いで吹っ飛ばしてる人のこと」
「そんなことないもん!」
楓はタルトの生地にフォークを突き立てた。それから少し力んで、次の瞬間、真っ二つに割れた欠片の両方ともが、勢いよく飛んでいった。そのうち片方は見事に玲奈の目の前の皿に乗っかって、間も無く玲奈の口の中に運ばれていったのだった。
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