保護者
「久しぶり~!!樹くん、元気だった?」
両手に大きな紙袋を引っ提げてドアを開けたのは樫本楓だった。不満そうな岬玲奈がその背中を睨んでいる。
ここは怪盗レイナのアジトのビルである。レイナの保護の下で、三宅樹はここで暮らしている。一週間ほど前からである。
「えっと……ご無沙汰してます」
楓はズカズカと部屋の中に入ってきて、両手の袋を適当に机の上に置く。
「もう、樹くんはそんな硬くならなくていいんだよ?怖いお姉さんじゃないからさ」
「楓はもっと遠慮してくれ……」
玲奈がそんなことをこぼすが、楓は無視して続ける。
「それにしても、この部屋殺風景すぎない?怪盗レイナはお金持ちなんでしょ?もっといい家具とか置いたらいいのに。こんな部屋つまらないよね。ね?樹くん?」
「……えっと……」
玲奈は困惑している樹の前に割って入る。
「ほら、樹が困ってるよ。そこら辺にしといてよ。っつか半ば脅しみたいに押しかけといて、遠慮という言葉を知らないのか?」
「あれ、私のことそんな扱いしていいの?泥棒さんは検挙されちゃうよ?」
「やめろ!泥棒って呼び方もやめろ!」
「いつもそう言うけどさあ、泥棒も怪盗も同じじゃん?」
その直後、玲奈と同時に樹も反応した。
「違う(違います)!」
玲奈はびっくりして樹に目をやる。樹は真面目そうな顔で楓を睨んでいた。楓は少し怯んだようで、語気を弱めて続けた。
「……へぇ?どう違うの?」
「全然違います!泥棒は、盗むだけで。でも、怪盗は神出鬼没で、鮮やかな手口で盗んでみせて。……とにかく、かっこいいんです!」
いつもの大人しい様子とは打って変わって、身振りを交えながら力説する様子に楓はタジタジだった。ちょっと後退りながら「へえ、そうなのね」と返すだけだった。
これには玲奈も驚いて、目を丸くすると同時に、なんだか恥ずかしくて耳が赤くなっていた。
「……すみません」
我に帰ったのか、樹は俯いて黙り込んでしまった。
そんな樹を前に、楓は暫く両手と目線を空に泳がせていて、それから何か思いついたかのように今日持ってきた紙袋に手を伸ばした。
「そっ……そういえば!いいもの持ってきてあげたんだよ」
楓は紙袋の一つを開けて、取手の付いたクラフト紙製の箱……つまり、ケーキの箱を取り出した。
「じゃじゃ~ん!ケーキ買ってきたんだ。とりあえず甘いもの食べて落ち着こう!」
朝、玲奈との待ち合わせが遅れた理由はこれだった。駅前のケーキ屋で山ほどのケーキを買ってきたのだ。
「ほら、とりあえず食べよ?もっと大きめのテーブルとかないの?」
すぐに勝手に場を仕切り始める楓に、玲奈はうんざりしながらも従うしかなかった。ケーキは美味しそうだった。
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