少年
突如起きた館内の爆発。それと同時に確認された人影を追って、レイナは暗い館内を走っていた。
岬玲奈……怪盗レイナは、足の速さに関してはそれなりに自信があった。怪盗というモノに手を出す手前、身軽さだとか筋力だとかに関しては一応のトレーニングを積んできた。プロのランナーとかならまだしも、アマチュアの男子ランナーくらいなら追える程度には鍛えているつもりだ。
そのおかげか、美術館のエントランスから駆け出す人影を確認できた。ようやく追いついてきたようだ。美術館を出たら、広い街の中である。入り組んだ路地裏とかを使われたら簡単に撒かれてしまうし、それでなくとも、怪盗レイナの衣装のままでは人の多い場所には出られない。夜でも人の多い駅前とかに出られたら、それ以上は追えない。既に息が切れつつあるレイナだったが、そんな体に鞭打って走る足を速めた。
少し追って気付いたが、あの逃げている人間は然程足が速くない。それに、走るモーションも素人のような不恰好さだった。事実、美術館を出て100メートルほどのところにある公園の手前でコケて、そのおかげで想定より早く追いつくことができた。
モタモタと起きあがろうとしていたところを、レイナは押さえつける形となった。
「ゆっ……許して!」
特に抵抗する素振りはなく、第一声で謝罪を始めていた。暗くてよく分からないが、どうやら中高生くらいの少年のようだった。
「あの爆発は君がやったの?」
レイナが聞いても、少年は震えてブツブツと謝罪の言葉を並べているだけである。
「あっ……えっと、ごめん。私こんな格好してるけど、コスプレ変人とかじゃないから」
慌てて言い訳してみても、少年は応答しない。
「あーもう。……ショタコンコスプレ痴女に喰われたくなければ正直に答えろ!」
「ひぃぃい!そうです僕がやりました!僕が爆発の原因です!」
ようやく少年が答えてくれた瞬間、彼の手に手錠が掛けられた。いつの間に追いついたのか、すぐ横に樫本楓が立っていたのだ。
「自白させてくれてありがとね、ショタコンコスプレ痴女さん?」
「……ウルサイ」
「それにしても、分からないことだらけだね。」
楓は少年の方に向き直る。
「君、名前は?どこの子?」
楓が聞いても、少年は答える気配がない。
「コスプレ痴女さんも聞いてみたら?」
「痴女じゃない!コスプレでもない!」
でも、少年が何も答えないままじゃ埒が開かない。仕方なく、レイナもやってみることにした。
屈んで、視線を合わせる。……合わせようとしたが、少年は俯いているため目が合わない。だから、右手で顎をグイと押し上げて、無理やり少年と目を合わせた。急にそんなことをされて、少年は目を逸らそうとする。それも、左手で押し戻して無理やり目を合わせる。少年は目玉だけでキョロキョロして目を合わせないように足掻いていたが、やがて諦めて、レイナのマスクの奥の目と少年の目が合った。
「……少年?君が爆発を起こしたので間違い無いんだよね?」
少し間を置いて、返答する。
「……はい」
「それは、君がやったの?それとも、誰かに指図された?」
暫く待っても返事はない。
「もし話したくないならそれでもいい。でも、話してくれなきゃ何もできない。1人で抱え込んで大丈夫?」
少し間を置いて、少年は話し始めた。
「……僕、お金に困ってて。誰にも相談できなくて。……それで、これをしたらたくさんお金を貰えるって言われて。それで……」
「誰に言われたか、言える?」
少年は首を横に振った。
「最初は、SNSの
「それは怖かったね。……じゃあ、何歳かと、名前を教えてくれる?」
「……14歳。
最後に、レイナは少年の頭をポンポンと撫でた。
振り返ると、楓が変な顔をしてレイナを見つめていた。
「何?あんた、子供の扱い得意だったの?」
「そりゃあ、警察に詰められるのは怖いからさ」
「ショタコンコスプレ痴女に言われたくないなあ」
「だから、ショタコンでもコスプレでも痴女でもない!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます