例の美術館
美術館長、
全ては、先日のピンクダイヤ盗難事件のせいである。来月からの国宝展を控えた状況であんな事件が発生したせいで、国宝展の中止もあり得ると向こうのお偉方に言われたのだ。
当時は、連続で発生していた便器汚損事件の調査で警察が一人来ていた。でも、彼女もピンクダイヤ犯は見つけられなかったという。屋根の上を走る足音が聞こえただけだとか。「まるで漫画や小説の怪盗ですね」なんて能天気なことを言っていて、あの女警察官のことはいまいち信用できない。
でも、不幸中の幸いか。”怪盗”は、分かりやすく警備の穴を付いてきただけであり、容易に対策できる。対策は万全であると国宝展の方にアピールすることで、予定通りの開催でまとめられそうである。
今日も各方面との連絡で精神疲労を重ねていたところ、館長室のドアがノックされた。
「どうぞ」
「館長!こんなものが!」
部屋に飛び込んできたのは、事務員の
「何かね?……とりあえず見せてくれるかい?」
渡すことすら忘れていたようで、ハッとした彼から奪うようにしてそれを――手紙を受け取った。その中身を読んだ館長は、もともと顰めていた顔をさらに歪ませた。
「で、これがその手紙と?」
元・トイレ汚損事件担当、現・ピンクダイヤ事件兼任の警察官、樫本楓。館長から手紙の実物を受け取って、色々な角度から眺めている。
――国宝展の目玉、雪舟の山水図を頂く
Lena――
お洒落な感じのフォントで書かれていて、”Lena"の横にはヴェネチアンマスクを象ったようなマークも付いている。
「かっこつけちゃって……」
「レナ?ですかね?」
「いえ、レイナです」
「……?」
「あっ……いや、確か、イタリア語でレイナって読むって言って……読むんです。ハイ」
「…………?それにしても、わざわざ名乗るなんて腹立たしい奴ですね。」
「あはは、ほんとそうですねー。馬鹿というか、通り越して可愛いというか」
「可愛い……?」
「えっ、いや……頭が悪そうで、凶悪犯に比べると可愛く見えてくるなーって」
「……そうですか。」
「とにかく、これはこっちで鑑識に回しておきますね。私たち警察がどうにかするのでご安心ください。」
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