独り暮らしには広すぎない?

 いつも通りカップラーメンで食事を済まそうとしたら、楓に怒られた。でも、私は自炊したことないし多分できないという意を伝えたら、食材を買ってくるところから全て楓がやってくれた。お陰で、今朝もベーコンエッグにウインナーという優雅な朝食である。

 食器の片付けに食べこぼしの掃除までしてもらって、なんかもう駄目になってしまいそう。いや、まだ駄目になってないから。まだ大丈夫だから。


「何見てんのさ」

「物件」

「へー」

 楓は、朝から賃貸物件を漁っているようだった。そういうの好きな人居るよね。

 パソコンの画面をちょっと覗いてみたが、独身女が一人暮らしするにはちょっと広い。警察って稼げるのかな。将来誰かと一緒に住むところまで想定してたりするんだろうか。

「ねーねー、これとか良くない?」

 キャピキャピという擬音が聞こえそうな楓。ディスプレイを覗き込むと、とある物件の間取りが映っていた。それなりに広い2LDKの部屋。マンションの外観は綺麗そうだし、4階だから防犯とかの点も安心。私レベルの大怪盗じゃないと窓からコッソリ侵入なんかは難しいだろう。確かに良さそう。だけど、

「一人暮らしには広すぎない?」

 言われた楓は、間取りを見たままキョトンとしている。数秒してから、楓は言った。

「れなと同棲する部屋なんだけど……」

 今度は私がキョトンとする。

「えっ」

 間取りと楓の顔を交互に見つめる。

「あのさ、」

「昨日の夜の、覚えてない?」

 ……どうしよう。何も覚えてない。だって、昨日の夜はお腹いっぱいに食べさせられて、数年ぶりに10時前に寝てしまった。

 しかし、楓は私より遅くまで起きていたはずだ。つまり、考え得ることは。

「その時の私、本当に起きてた?」

「……寝てたの?」

「……カモシレナイ」

「そっかー」

 楓は私のことを無視して部屋探しを続けている。暫しの沈黙。楓がマウスをカチカチクリックする音だけが聞こえる。

「寝ぼけてた私が何したか知らないけど、でも、同棲なんてダメじゃん」

「でも、あの時の楓はOKしてくれたよ?」

「……何に?」

「…………んー。……ひみつ」

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