死活問題
生まれて初めての家賃滞納である。大家さんに「ごめんね」という趣旨の電話をして、「馬鹿野郎家賃払えないならさっさと出て行けゴラァ!」という趣旨のお叱りを受けた。でも三ヵ月までなら待ってくれるらしい。ありがたや。
バイトしないとなあ。と、思いながら今日も今日とて覗き込むディスプレイにはFPSゲームの画面が。良くないなあ、と思ってはいるけどキーボードを叩く指が、マウスを動かす手が、止まらない。性分なんだよなあ。
昔からこうだった。やらなきゃいけないことを突き付けられても限界まで逃げて、ギリギリでなんとかしようとしちゃう。でも、なんとかなったことは4割くらいで、2割くらいはどうにもならなかった。残りの4割はというと、アイツの助け舟に乗って事なきを得ていたのだ。アイツっていうのは、そう、樫本楓である。
彼女のことを思い出して急に萎えた。こんな気持ちじゃ楽しくゲームできない。ちょうど死んだところだったからそのままゲームをやめて、ベッドに飛び込んだ。
幼馴染と言えども、警察に怪盗であることがバレたんだ。このままだと堂々と怪盗レイナとして活動するのは厳しいかもしれない。でも、コソコソとする盗みなんかする意味がないじゃないか。私が怪盗になったのは盗みが目的じゃない。みんなからカッコいいと思われる怪盗になるのが目的なんだ。
……楓との関係を完全に断つ?岬玲奈としての生活を完全に捨てる?確かに、岬玲奈という人間をこの世界から消し去るのであれば、岬玲奈と怪盗レイナの生活を切り分けなくて良くなる。怪盗用の資産と岬玲奈の資産を切り分けるなんて面倒事も発生しなくなる。でも。
「嫌だなあ。」
その選択肢は、かっこいいしロマンもあるけど、でも。
たぶん2時間くらいベッドに寝転んでツイッターを見てた。そんな時だった。ラインの通知が来たのは。
「ぇ」
その通知の内容を見た瞬間の私である。
直後、インターホンが鳴った。
慌ててベッドから体を起こした。インターホンがもう一度叫ぶ。何これ怖い。
ラインを開く。樫本楓とのトークを開く。
『今から会える?暫くれなの部屋に泊まらせてほしいんだけど。』
もう一度「ピンポーン」。もしかしてこれが楓って「ピンポーン」ことなの?!「ピンポーン」怖すぎない?「ピンポーン」答え聞く気ないじゃん!「ピンポーン」っていうかさ、
「うるっせー!諦めるって概念はないのか!っていうかピンポンは一回でいい!」
叫びながらドアを開けると、大きなバッグを抱えている楓が立っていた。私がイラついてることに自覚がないのか、キョトンとしている。
「あっ、起きてた。おじゃましまーす。」
「あーっダメダメダメダメ!」
「ごめん、怪盗の道具片づけないといけないもんね。」
「違うから!もっと見つからない場所に隠してるもん。」
「ふーん?」
「あっ」
ダメだ。ボロが出まくる。なんで!?なんでこいつの前じゃこんなになっちゃうの!?
「とにかく、ダメなの!」
「タダで住ませてくれなんて言わないよ。家賃、困ってるんでしょ?」
「…………」
「折半……いや、私が代わりに払ってあげるから。」
「…………」
「家賃、全額払うよ。」
「……………………一回、中に入ってから話そうか。」
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