ニートか怪盗か

 本当にヤバい。なんで昨日の私はゲームして寝てしまったんだ。なんでバイトも就職先も見つからないまま一ヵ月経ってしまったんだ。一度たりとも履歴書に触っていないのはなぜだ。


 今日もパソコンの前でバイトを検索してみて、そして、

「……あ」

 今日も、気づいたらゲームしている。でもバイトを探すのは面倒なんだもん。働くのは嫌なんだもん。

 バイト求人サイトを覗いているとだんだん億劫になって来て、気づいたら、

「国宝展……?面白そうだな。」

 こうなるのだ。それにしても、国宝展か。怪盗レイナの、今度こそ本当のデビュー戦にいいかもしれない。

 ピンクダイヤの件は地元紙でこそそれなりに大きく取り上げられていたが、怪盗レイナのレの字も見つからなかった。やはりあの館長は私の予告状を悪戯だと思って読みもせず捨てたんだろう。まだ怪盗レイナの存在は誰の記憶にも残っていないということだ。……樫本楓を除いて。

 ラインのトークを遡って当時の彼女とのトーク履歴を見つけた。当時はわりと仲良くしてたんだっけ。大学に進学した途端に会うことも話すこともなくなったけど。最後は私の「奴はとんでもないものを盗んでいきました」で終わってる。なんか反応があったら「あなたの心です」って返すつもりだったけどそれっきり何も来なくなった。元ネタ知らなかったのかな。


 やることがないから散歩でもしよう。いや、やるべきことは山ほどあるんだけど。人間はやるべきことが多いと逃避しがちである。というわけで。これは心を護るために必要な工程なんだ。仕方ないね。


 こうして公園のベンチにぼーっと座ってるのも必要なことなのだ。子供たちが元気に遊んでいる声がクソみたいな生活してる私に突き刺さる。とても良い。どうやら近所のお姉さんが一緒に遊んであげているみたい。ぼんやり見ていると、そのお姉さんがこっちを向いて、

「あれ!?怪盗レイナさんだ!」

 なんて手を振って言うものだから、慌てて叫んだ。

「っゔぁっかやっろぉぉおう!黙れ!」

 よく見たら、知っている顔だ。この間は暗いし逆光で良く見えなかったけど、その顔は確かに幼馴染の樫本楓だった。あの頃と変わらない綺麗な黒髪、整った顔。


 どうやら通行人の方々は楓の言ったことはあまり聞いてなかったみたい。みんな普通に素通りしている。子供たちは「怪盗ってなに?」「かっこいい!」とかウルサイけど。

「だから、この間の怪盗レイナだよね?」

「だから、ちげーって言ってんじゃん。っていうかあんまその名前で呼ぶな。うるさいし。違うし。というか仕事は?」

「今日は日曜日だよ?」

「あっ……。そうだっけ。」

「……そういえば、玲奈は働いてるの?」

「ニートか否かで質問するな。そこは職業聞くところだろ。」

「だって、曜日感覚ないならニートかそういう職業かの二択じゃん。あっ、ごめん、ニートか怪盗か、だったね。」

「だから違うって。」

「じゃあニート?」

「ん〜〜〜〜〜〜〜〜。書類の上ではそうかもしれないしそうじゃないかもしれない。」

「無理しないで吐いちゃいなよ。私は受け入れるからさ。」

「吐いちゃえって警察みたいだな。ていうか警察か、はは……」

「あれ?」

「……ん?」

「私、玲奈に警察やってるって言ってたっけ。怪盗レイナさんには言ったはずだけど。」

 暫くの沈黙。楓は相変わらずニコニコしながらこっちを見ている。それに対して私の顔は、多分げっそりしている。

「怪盗レイナさん、だよね?」

「……いや、これは違くて、」

「お父さんから聞いたの?玲奈のお父さんとは知り合いだからさ。」

「アッ、そうそう、そうだった!そうなんだよ〜。パパから聞いてね。うん、確かにそうだ。」

「ふーん。じゃあ、そういうことにしとくよ。怪盗さん?」

 ニヤニヤ笑ってる楓の顔を見て思った。私の怪盗人生は終わったと。

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