怪盗レイナと美術館の秘密
怪盗レイナ颯爽登場
初めての怪盗は、思っていたよりヌルッと成功した。
この日のために用意した衣装。マント、タキシード、シルクハット、ヴェネチアンマスクとブーツに至るまで真っ黒……じゃなくて”漆黒”の衣装。真っ白……じゃなくて、”純白”のシャツが映える。これに合わせるために髪も銀色に染めたんだ。もちろん、形だけだと意味がないから格好良いギミックはたくさん仕込んである。
そして、計画も完璧だった。アニメや漫画と違って事前情報を仕入れるのは少しばかり難しかったけど。ただ、予告状がまともに受け取られなかったのか警備が緩くて、少しばかり張り合いがなかった。
深夜の美術館の屋根の上を走る。アニメだとこの辺りで警察がクソデカスポットライトを持ち出してくるはずなんだが。職務怠慢か?せっかく格好良く作った衣装を自慢できないじゃないか。
そんなことを考えてぼんやりしていて、ドジを踏んでしまった。足を滑らせて屋根から落ちてしまった。咄嗟にフックショットを引っ掛けたおかげで地面にぶつかる前に十分減速できて、怪我はなかったけど。
でも、見つかってしまった。落ちたところにちょうど人が居たのだ。
「だっ……誰?!」
懐中電灯で照らされる。眩しい。
逃げなきゃ。でも、これはチャンス。懐中電灯が眩しくて顔は見えないけど、一人だけ。
アニメのようなスポットライトじゃなくて懐中電灯だけど。大勢の野次馬は居なくて知らない女が一人だけだけど。
私はここぞとばかりにマントを翻して叫んだ。
「私は怪盗レイナ!予告通りピンクダイヤは頂いた!」
決まった。最高にカッコいい。
「…………」
あれ?この静寂はなんだ?なんでこいつは反応してくれないんだ?
「……もしかして、
……ん?私の名前を知ってる?……というかこの声、顔もよく見ると……あれ?
「ちっ、違う!私は怪盗レイナなの!」
慌てて顔を隠して、必死の言い訳。
「あなた玲奈でしょ?
そう。暗くてよく見えないし、髪型もショートボブになっていたけど。綺麗な黒髪と整った目鼻立ちは変わっていない。それにしても、ずっと連絡とってなかったけど警察になってたのか。……あれ?
「えっ、警察?!……の前に、あんたのことなんか知らないの!私は神出鬼没の大怪盗レイナなの!」
「もしかして……。いや、ごめん。…………付き添うからさ、一緒に病院に行こ?ね?」
「ちょっ、ちょいちょいちょい!私の精神状態は極めて正常ですけど?!っていうか警察なら知ってるでしょ?ほら、怪盗レイナだよ!予告状の!」
「……?」
あれ?完全に「?」って顔してる。ちゃんと予告状は館長室の机に置いておいた筈なんだけど。
「警察なら、予告状のおかげで呼ばれたんじゃないの?」
「ヨコクジョウ……?私は、館長さんからトイレに悪戯する犯人を見つけてくれって、」
そう言って楓が私の後ろを指さす。確かに、トイレを案内する看板が立っていた。
「あーーーもう!あのハゲ館長、予告状読まないで捨てやがったな!せっかく手書きで書いたのに!デビュー戦なのに!ムカつく!とりあえず、楓だけでも覚えといてよ。世界を股に掛ける予定の大怪盗レイナをよろしく!」
「あっ、ちょっと、逃げるな!まって……足はやっ!」
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