第21話 誤解なんだ!
おれは、ゴブリンのチップが気になって眠れなかった。
ふぁ~ぁ。
さすがに今日は寝不足であくびがとまらない。
濃いめのコーヒーを飲んだ。
クーゥ。
苦い。
でもこのくらいじゃないと眠くなる。
しばらくすると、本当に眠くなくなった。
コーヒーはすごいな。
すると、常連のお客から妙なことを聞かれた。
「亭主のところのサンドウィッチ盗まれなかったか?」
「なぜ?」
「ゴブリンがサンドウィッチをたくさんもってたって」
「え?」
「コルマージュ街での最近のいたずらゴブリンを捕まえたって噂だぞ」
「え? それってもしかして……」
おれは、慌てて店を飛びだした。
「ソウマ、どうしたのだ?」
ノアの声も聞かず、走っていってしまった。
ノアはソフィアに店を任せて、ソウマを追いかけた。
――――
コルマージュ街まで必死に走った。
コルマージュ街にいくと大騒ぎになっていた。
「あれが最近いたずらしていたゴブリンかい?」
「そうらしいよ」
「でも、まだ子供みたいだね~」
そんな声が耳に入ってきた。
おれは嫌な予感がした。
そして、街の中央をみた。
すると、チップが棒にくくられて捕まっていた。
チップ!
おれはチップに駆け寄った。
「チップ!」
「うっ! サンド……ウィッチの」
チップはからだに傷がたくさんあった。
きっと捕まるときに蹴られたり殴られたりしたのだろう。
話をするのもやっとだった。
なんて、ひどいことを。
「チップ! 待ってろ、いま助けてやるからな!」
「ソウマ! これはどういうことなのだ?」
「チップを助けないと」
「街の長に会いにいかないと」
「そうだな」
おれはこの街の長がだれなのか知らなった。
ブリキ職人の亭主に聞くことにした。
「すみません」
「はい、おお珈琲店の」
「あの、この街の長を教えてください」
「え? 町長かい?」
「はい」
「それなら、この先の……」
「ありがとうございます」
おれとノアは急いで町長に会いにいった。
「すみません」
「はい」
おじいさんがでてきた。
「あなたがこの街の町長さんですか?」
「いかにも、わたしが町長だが」
「わたし近くで珈琲店をしています、ソウマと申します」
「ああ、噂はきいていますよ」
「それで、いま棒に巻かれているゴブリンなんですがあの子はいたずらしていないんです」
「はい?」
「だから、いたずらしているゴブリンではないんです」
「なんでわかるんだね?」
「それは……でも、あのゴブリンがもっていたサンドウィッチはわたしがあげたものなんです」
「なんでまた、そんなウソを?」
「嘘ではありません」
「……」
「どうか、わたしを信じてあのゴブリンを解放してくれませんか?」
「……」
「お願いします」
おれは頭を下げた。
でも町長はなかなか信じてはくれなかった。
どうしたら信じてくれるんだろう。
「あの、でしたらしばらくあのゴブリンをわたしに預けてはくれませんか?」
「あずける?」
「はい、珈琲店で働くよう指導します」
「えええ?」
「しばらく様子をみてくれませんか?」
「ん……」
「絶対にあの子ではないんです」
「わかりました、そこまで言うならしばらく様子を見ましょう」
「ありがとうございます」
「でも、なにかあったらあなたにも責任をとってもらうことになりますよ」
「はい、わかりました」
おれは急いで、チップのところにいって縄をほどいた。
「チップ、ごめんなこんなことになってしまって」
「助けてくれて、ありがとう」
「チップ、珈琲店に帰ろう」
「うん」
チップを縄からはずすと、街の人はうわさをしていた。
「本当に大丈夫なのかい?」
「あの珈琲店、しばらくいけないよ」
「怖いね~」
そんな声が聞こえてきた。
おれとノアは、チップを抱きかかえて珈琲店に戻った。
――――
珈琲店につくと、おれの部屋にチップを寝かせた。
そして、ノアが傷薬をもってきた。
おれが傷に薬を塗った。
「チップ、きっと誤解がとけるよ」
「うん」
「だから、安心してここにいればいいよ」
「うん、ありがとう」
ここにゴブリンがいると噂が広まり、珈琲店のお客は少なくなった。
でもギルドのお客はゴブリンくらいなら突然襲ってきても倒せるからと、前と変わらない人がきている。
次の日から、チップは珈琲店で働き始めた。
「いらっしゃいませ」
「うぇ!」
チップを知らないお客はまず驚いて、刀を構える。
そして、チップも驚く。
「お客さま、大丈夫ですチップは店員です」
「そ、そうか驚いた」
チップは一生懸命に働いた。
おれは仕事が終わると、チップとお風呂に入った。
「チップ、今日も疲れただろう?」
「いえ、楽しいです」
「そうか?」
「はい」
お風呂の扉が、ガラガラと開く。
「ノアも一緒に入るのだー」
ノアが全裸で飛び込んでくる。
チップも最初はさすがに驚いていた。
でも何日かすると、なれたようだ。
ノアが飛び込んできたと同時に、ノアにタオルを巻きつけるようになった。
まさにすご技だ。
チップとの生活も楽しくなってきた。
そんな矢先、コルマージュ街でゴブリンのいたずらがあった。
コルマージュ街の人が血相を変えて、珈琲店に押し寄せてきた。
「亭主いる……か?」
街の人はチップを見て、言葉に詰まった。
「なにかあったんですか?」
「い、いや」
おれが顔を出すと、街の人たちは苦笑いをする。
「ああ、このゴブリンじゃなかったんだね~」
「最初から違うと思っていたよ」
「まだこどもだしね~」
ずいぶんと勝手なことを言って帰っていった。
町長がやってきた。
「ソウマさん、信じなくて悪かったね」
「え? それじゃあ」
「ああ、さっきコルマージュ街でまたいたずらされたんだ」
「そうなんですね」
「目撃した人の話だと、ゴブリンだったと」
「でも、チップはここで働いていた」
「ああ、そうだね」
「では、チップの誤解は解けたんですね」
「ああ、チップくんひどいことをして悪かったね」
「ううん、でも同じゴブリンがいたずらをしてごめんなさい」
チップは誤っていた。
町長は帰っていった。
「チップ、よかったな」
「うん」
「よかったですね」
「よかったのだ」
おれたちはみんなで喜んだ。
「ソウマさん、ありがとう」
「ううん、おれはなにもしていないよ」
「そんなことない、感謝しかない」
「チップが頑張って働いたからみんなの誤解が解けたんだよ」
「うん、ありがとう」
「ぼく、今日帰ります」
「もういっちゃうのか」
「はい、ずいぶんと家をあけてしまったから家族が心配していると思うので」
「そうだよな」
「また、遊びにくるのだ」
「うん、くるよ」
「また、来てくださいね」
「うん、おいしいサンドウィッチありがとう」
「いえいえ」
おれたちはコルマージュ街まで送った。
そして、チップは帰っていった。
「寂しくなるな~」
「そうですね」
「寂しいのだ」
おれたちは家に帰りながら、チップの話をしながら楽しい思い出話をしていた。
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