第9話 お貴族さま

今日も異世界珈琲店、開店です。


「じゃあ、オープンするよ」

「「はい」」

「いいのだ」


今日もギルドと珈琲店がはじまった。

ドアを開けると、冒険者たちがまっている。


「いらっしゃいませ」

「ああ、いつものコーヒーを頼むよ」

「はい、かしこまりました」


ギルドのカウンターに並びだした。

ソフィアにはカウンターに入ってもらった。


サンドウィッチは多めに作ってある。

おれが注文を受けてもっていき、コーヒーももっていく感じだ。

ありがたいことにかなり繁盛していてソフィアにお金をかえすことができた。


「ソフィアさん」

「なんですか?」

「これ~」

「これは?」

「お店を開くときに出していただいていたお金です」

「そんないりません」

「いえ、これは受け取ってください」

「そしてこれはお仕事代です」

「これはシルスタの分」

「これはノアの分だ」


「ギルド本部から送られてきたお金と珈琲店での売り上げをあわせた」

「そうですか」


ノアは喜んでいた。


「わ~い、わ~い」

「「ありがたくいただきます」」


ふたりとも受け取ってくれた。


「これからも、がんばろうな」

「はい」


――――


そんなある日、お店に黒いスーツを着たかしこまった格好をした人が入ってきた。


「いらっしゃいませ」

「こんにちは。こちらのご主人ですか?」

「はい」

「わたくしは、ドゥーカス伯爵家の使いで参りました」


伯爵家?

貴族?

この人は執事ってこと?


「はい、ようこそいらっしゃいました」

「お願いにまいりました」

「お願い?」

「はい、旦那様がここのコーヒーのお噂をお知りになってどうしてもお飲みになりたいとおっしゃっています」

「そうですか、ありがとうございます」

「そこで、あなたさまをお連れしたくまいりました」


え?

連れていく?


「え~っとそれは、自宅にいってコーヒーを飲ませてほしいということですか?」

「はい、その通りでございます」

「今すぐには無理なんですが」

「では、いつならよろしいでしょうか?」

「明日、明日でもいいですか?」

「はい、ではお迎えにまいります」

「あ、はいよろしくお願いします」

「では、明日まいります」


そういうと、執事はかえっていった。


その夜、ソフィアたちに話をした。


「今日、何とか伯爵の使いの人がきたんだ」

「伯爵? 貴族の方ですか?」

「たぶん、それでコーヒーが飲みたいから家にきてくれと」

「いくんですか?」

「うん、明日行くつもりだ」

「明日ですか」

「そこでおれとノアで行ってくるから、ギルドをたのめるか?」

「はい、大丈夫です。ギルドはわたしとシルスタでなんとかなりますから」

「うん、お願い」


ノアのしっぽがビュンビュン動いていた。

嬉しいようだ。

ノアはわかりやすくていい。


――――


次の日。

ドゥーカス伯爵家の執事が馬車で迎えにきた。


「では、いってきます」

「はい、お気をつけて」


おれとノアは馬車に乗った。

ソフィアとシルスタはおれたちを見送っていた。


しばらくいくと外が賑やかになってきた。

窓からのぞくと、外の感じは一気に違っていた。

まるで、田舎から都会にきた感じだ。

かなりカラフルな家が並んでいる。

ここはどこだ?


「もうすぐ着きます」

「ここはなんという街ですか?」

「アルベッロ街です」


この街も素敵な街だ。

円錐形のとんがり屋根に白い壁が特徴だろうか。

装飾がかわいい街だ。

コーヒーもあう街だ。

すると、住宅街にまぎれてひときわ大きなお屋敷に入っていった。


「着きました」


おれたちは馬車をおりた。

この屋敷か。


「ノア!」

「なんだ?」

「ソファーに座ってもピョンピョンしちゃだめだぞ」

「わかったのだ」


ほんとにわかったのかな~


「こちらになります」


おれたちは案内されるがままについていった。


トントン!


「旦那さま、お連れいたしました」

「ああ、入るがいい」


思っていた声より少し高いってことは、若いってことか?


中に待っていたのはおれより少し年のいった男性だった。

この人がこの家の旦那さまなのか?

若いぞ。


「お待ちしていました」

「あ、わたしは異世界珈琲店のソウマといいます」

「ノアなのだ」

「お掛けください」


おれたちはソファーに座った。

ノアはピョンピョンはしていないがしっぽが激しく動いている。

ピョンピョンしたくて我慢しているようだ。


「今日はコーヒーをお飲みになりたいってことでしたが……」

「はい、そうだ。さっそく飲ませてくれるか?」


おれは部屋を見回した。


「はい、ではこちらを少しお借りしてもよろしいでしょうか」

「ああ、かまわん」


おれは、テーブルに紅茶とクッキーが置いてあるのをみてその場所を借りることにした。

そこで、さっそくコーヒーの準備をした。


「こちらのポットとお湯をお借りしていいですか?」

「ああ」


このクッキーにあうコーヒーは、ローストの浅いアメリカンコーヒーがいいな。

なら、こっちの粉を使おう。


おれは、コーヒーの粉を小さめの布袋に入れカップにいれその上からお湯をかけた。

早くドリッパーがほしい。


「はい、できあがりました。こちらのクッキーと一緒に飲んでも美味しいと思いますよ」

「ああ、いただこう」


「ん~変わった香りだ」


まずは匂いを確かめていた。

そして一口、ごくっ……。


「いかがでしょう」

「うん、おいしい。噂通り、嫌うわさ以上だ」

「もし、苦いと感じるならお砂糖とミルクをいれてもおいしいですよ」


旦那さまは言われるがままにお砂糖とミルクをいれた。


「うん、これはおいしい」


ふぅ~よかった~


「よかったです」

「ほしい、わたしもこれを毎日飲みたい」

「はぁ」

「この豆を買いたい」

「買っていただくのはうれしいのですが、入れ方や食べ合わせでも味がかわります」

「ああ、クッキーと飲むと味がかわる」

「そうなんです。すべてのクッキーがこのコーヒーとあうわけではないのです」

「……」


旦那さまは少し考えていた。


「そうか……、なら大事なお客を招待するときにはぜひ飲ませたい」

「はい」

「その時は、コーヒーをいれにきてくれるかい?」

「はい、出張でコーヒーを入れにきます」


おれは、契約した。


「わたしは、アラン=ドゥーカスだ」

「アランさま、ありがとうございました」


異世界珈琲店のお得意さまとなった。

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