オウソレミタヨ

 もう一度未明島に行く前にしておかないといけないことがあった。だから俺は寮の前にいる。

「随分早いお帰りだな一久。なんだ、部屋片づけに帰ってきたのか?」

 寮長、朝早いんだな。好都合だ。

「いや、ちょっと等織理呼んでもらっていいすか?大事な話があるんですよ」

「なんだ?朝っぱらから感心しねえな」

「そういうのじゃないです」

 即座に否定する。当たり前だ。あいつだけは絶対有り得ん。

「....お前つまんねえやつだなぁ。乗ってくれてもいいじゃねえかよ?ま、いいんだけどさ。等織理だな。ちょっと待ってろ」

 そう言って建物内に戻っていった。


******


 人影が見える。

 出てきたよ。まじでなんて言おうか。

とりあえず俺にできること。

 それは.....。

「誠に申し訳ございませんでしたぁぁぁぁ!」

 外に出てきたばかりの彼女に対し地面に頭を擦りつけ、土下座スタイルでとにかくひたすら目一杯に謝ることだけだった。

 目的は相手を困惑させること。大事なのはとにかく大袈裟にそしていかにもすまなさそうにすること。そしてそれに乗じて本題を話す。

 ここまでは作戦通りだ。さあ相手の出方を見る。

(どうだ!行けるか?)

 だがあいつの、等織理王叶の反応はまずまずだった。

「はぁ....。あの船、一応学校所有物なんですよ?それを置いてくるなんて何考えてんですか....。ていうか船なしでどうやってここまで帰ってきたんです?まさか泳いだとか言わないですよね?」

 わかりやすく呆れ返っていた。なんなら一周まわって砕けた態度を取ってきやがった。

 くそぉ...。一応先輩だぞ、俺。

 だが何か言える立場じゃない。俺はこいつに多くの借りがある。

 ていうか今回だって借りを増やしちまっただけだ...。

 無理だ。こいつにはどう頑張っても逆らえない。なぜかはわからない。だが、何か凄みは感じている。おそらくそれかもしれないな。

 しかしトッパたちのことも気がかりだ。今は少しでも早くこの場を立ち去りたい。

 ついでにこの件もなんとか有耶無耶にしたい。むしろこっちが今は重要なのだけど。

「話せば色々長くなるんだよ。でもさ?もう言わなきゃいけないことないし、もし仮にあったとしてもさ、俺的には後でもいいと思うわけでしてね。それにこっちは急いでるんだ。だからもう行くね!行かせてもらうね?」

 だがそんな都合よくいかない。行くわけがなかった。

 何故って?

「あれ?あっちにあるのアームヘッドじゃないですか?私、あんな機体見たことないなあ。先輩、乗れないはずでしたよね?ちょっと説明してもらえません?」

 隠して置いたデサラが見つかってしまった。

 もうちょっと拘束されそうだという事実、とにかくこれがなによりもめんどくせえ。

 彼女は我が校のアームヘッド部の部長だ。まあ司令塔役なので乗らないのだが...。

「今までこの私に嘘ついていたんですか?きっちり説明してもらいますよ」

 それは困る。

「わかった!わかったよ、わかったからさ!俺が悪かったんだな!そうなんだろ!だからちゃんと話す!話すからさ!」

「言いましたね?でももし嘘でも吐こうもんなら問答無用で今度の大会出てもらいますよ?もちろん個人戦で」

「それだけはほんと勘弁してください。俺が死んでしまいます」

 アームヘッドバトル個人戦。とても危険な競技だ。これで毎回何人もの負傷者が出ている。

 だが病院送りにしているの転王輪廻ってやつだけだ。

 連戦連勝無敗のチャンピオン。しかも主催者でもある転王輪財閥の跡取り。

 なにそれ、詰め込みすぎじゃね?

 とりあえず俺が出ようものなら確実に死ぬ自信がある。

「冗談ですよ。半分くらいは本気ですけど。見たところ専用機みたいですし、好都合と言いますか。何しろこのままだとうちの学校は...」

「え、なに、なんかあるの、うち?」

「いえ!別に?それにあったとしても先輩には関係ないことですし」

 怪しい。見るからに怪しい。

「なんだ。やっぱ何かあるんじゃないか?言ってみろ。ただし聞くだけだがな!」

「聞くだけって...。でもまあ、お言葉に甘えて...。実はうちの学校、合併するらしいんですよ」

「へえ、どこと?」

「転王輪学園です」

 よりによってそこかよ....。でも有名だし割と悪い話でもないよなあ。

「噂によるとアームヘッド部以外の生徒は退学させるみたいなんですけどね」

「は?そんな横暴な!?ていうかそれは引き抜きってやつじゃねえのか?」

 でも待てよ、となると俺は退学か。そうかそうか、じゃあ失うものもないな。そんなことを思っていた。

「あ、でも先輩は多分対象ですよ」

「なんでだよ!?あむへ部じゃないぞ俺は!」

「なんか適性がある人も対象みたいらしいんで。なんの適正かは知らないですけど」

 やっぱ引き抜きじゃねえか。やり方が気に食わねえ。でも...。

「正直、関係ないことなんだよなあ」

「学校が変わるんですよ?十分結構なことですし先輩だって....」

「悪いが俺は行けない。そもそも行きたくもないけどな」

「え。」

 どうしてだろうか。さっきまでは有耶無耶にするつもりだったのに、今はちゃんと言っておくべきだと思ってしまった。

「今日、もう一度未明島に行く」

「それあれですよね?船を取りに行ってくれるって話。じゃ、なさそうですね」

「戦いに行く。仲間が待ってる」

「嘘だ!だって休み時間にいつも一人でご飯食べてる先輩に仲間!?何言ってるんですか?仮に本当だったとしても先輩が戦力になるわけがない!」

 酷い言いようだ。だがたしかにそうだ。それでもいかなければならない。

「借りを返さないといけないからな」

「だとしても私に黙ってようとしましたね?」

 それを言われてしまうと何も返せないのだが、言葉が何も出てこない。

 この状況が動いたのはしばらくしてからだった。

「はあ...、もういいですよ。船のことは諦めます。合併の話も聞かなかった事にしてください」

「そうするよ」

「でも、絶対に帰ってきて、約束です」

 意外だった。彼女は、等織理王叶はそんなこと言うようなタイプじゃない。そう勝手にそう思っていた。

 不意だった。これでポニテじゃなくてツインテだったら落ちていたかもしれない。

 彼女は誰にでも平等だ。誰かが困っていたら手を差し伸べる。

 そういうやつなんだ。

「じゃあ行ってくるわ」

 こんなことしか言えない自分が情けない。デサラには逃げるように乗り込んだ。

 一刻も早くこの場から抜け出したい。そんな一心だった。やはり情けない。

 王叶の姿がどんどん小さくなっていく。

「頑張って」と聞こえたような気もするが気のせいだと思う。

 だが関係ない、どうだっていい、気とにかくを引き締めろ。これから始めるのだ。


******


 王叶が寮に戻る時のことである、彼女は寮長に話しかけられた。

「なんだ、落ちんで、フラレでもしたのか等織理?」

「そういうのではないです。あと一応そういうのはセクハラになると思いますよ。気をつけてください」

「お前もノリが悪いなあ...。一久のやつも結局片付け終わらせずに行っちまったのか」

「ま、あの先輩のことですからなんとかするんじゃないですか?」

「それもそうだな。で?あいつは何しに行ったんだ?」

「なんか、借りを返すそうですよ」

「それはご苦労なことで。とりあえずあんたは支度しといたほうがいいんじゃないのか。行くんだろ、転王輪学園」

 そう、あの話はもう決まっている。

 ここはなくなる。決定事項だ。この寮もなくなる。そうなれば多くの者の未来が断たれれてしまう。

 なんとかしてそれだけは避けたい。

 それこそがこの至極中学校高等学校の生徒会長である私が果たすべき務めだ。

 何もこんなタイミングじゃなくていいに、先輩まで居なくなるのが少し不安だ。

 でもそれは先輩が決めたこと。誰も邪魔してはならない。

 なんとしても帰ってくる場所を守りたい。

 私に何ができるのか。そのための戦いが始まる。


おわり

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